ライフスタイルブランド「BONAVENTURA(ボナベンチュラ)」は、上質なレザーのスマートフォンケースからスタートし、ウォレット、バッグ、ホームグッズへと展開を広げてきました。「日常にラグジュアリーを」というコンセプトのもと、イタリア・ミラノで誕生した同ブランドは2018年に日本法人を設立。D2Cモデルを軸に成長を続け、国内外で熱い支持を集めています。
ブランドへの注目が高まる中、自社オンラインストアでは人気商品の販売時にアクセスが集中し、販売開始直後にサーバーダウンが月に何度も発生。顧客対応や在庫管理にも影響が及び、事業成長にシステムが追いつかない状況が続いていました。
こうした課題を受け、同社はShopifyのPlusプランへの移行を決断。わずか3ヵ月で新サイトを構築し、機能拡張、業務の自動化、運用体制の内製化を推進することで、運営の効率化と売上拡大の双方で確かな成果を上げています。
【ShopifyのPlusプラン導入による成果】
- 流通取引総額:過去5年で約10倍に成長*
- TCO(総保有コスト)を30%削減
- 100以上のEC運営作業を自動化
※Shopify移行後(2019年12月〜2024年12月)
今回は、BONAVENTURA株式会社 代表取締役社長 稲富佳織氏、EC本部&マーケティング本部 マネージャー 平井僚一氏、リードエンジニア EC技術責任者 田畑正大氏の3人に、Shopify導入の背景と導入後の変化、そしてこれからの展望を伺いました。
左からBONAVENTURA株式会社 リードエンジニア EC技術責任者 田畑正大氏、代表取締役社長 マーケティング本部長 兼 EC本部長 稲富佳織 氏、EC本部&マーケティング本部 マネージャー 平井僚一 氏
急成長するブランドに追いつかないEC基盤
ボナベンチュラは2013年、イタリア・ミラノで誕生したブランドです。スマートフォンケースを出発点に、ラグジュアリーと日常の融合を掲げ、上質なレザーアイテムを展開しています。
創業当初は、複数のECモールを活用し、オンラインを中心に販売をスタートしました。日本でも同様に展開を進めるなかで、品質の高さや、トレンドに左右されず長く使えるデザインが口コミやインフルエンサーの間で話題となり、少しずつファンを獲得していきます。やがて伊勢丹や三越などの百貨店から声がかかるようになり、ポップアップ出店を重ねることで、リアルとデジタルの両面からブランドの存在感を高めていきました。
転機となったのは2018年。それまでは日本の販売代理店にて販売を行っていたボナベンチュラが、代理店を吸収合併する形で自社商品の販売に事業を集中させる方針へと大きく舵を切ります。同年には日本法人を設立し、スマートフォンケースに加えて、バッグやウォレットなどのラインアップを拡充。日本での本格的なブランド展開がスタートしました。
翌2019年には日本法人で自社オンラインストアを立ち上げ、D2Cモデルへの取り組みを加速させます。当時の社員数はわずか6名。ひとり1部署を担当するような体制の中で、オンラインストアを任されたのが稲富氏でした。
初期の自社サイトは、WordPressをベースに、EC機能をプラグインで組み合わせて構築していました。立ち上げ直後からユーザーの反応は非常に良く、他社モールよりも自社オンラインストアの利用が上回る勢いで伸びていきます。ブランドへの期待がそのまま売上に直結し、順調な滑り出しのように見えました。
しかし一方で、需要の伸びにECシステムが追いつかない状況に陥ります。人気商品の販売時にはアクセスが集中してサイトがダウン。「1分間に20件ほどのコンバージョンでも処理に耐えきれずサーバーが落ちる」といった事態が、月に何度も発生するようになりました。CS(カスタマーサポート)への問い合わせも殺到し、対応工数が膨らんだことで事業成長の足かせとなっていました。稲富氏は、当時の状況を次のように振り返ります。
「画面がホワイトアウトしてしまうこともあり、お客様からは『購入できているのか?』という問い合わせが相次ぎました。しかし、我々も管理画面にログインできず、状況が確認できないため、『しばらくお待ちください』としかご案内できない最悪の状態でした。お客様の期待が高かっただけに、信頼を損ねてしまうことが本当に辛かったです」(稲富氏)
BONAVENTURA株式会社 代表取締役社長 マーケティング本部長 兼 EC本部長 稲富佳織 氏
スピード、グローバル、内製化──Shopifyを選んだ理由
こうした状況を打開するため、同社は自社オンラインストアの再構築に踏み切る決断を下します。ECプラットフォームの選定にあたり、ボナベンチュラは複数のサービスを比較検討しました。最終的に採用したのは、「スピード感のある構築が可能であること」「グローバル展開に対応できるシステムであること」そして「自社内で運用できる仕組みが整っていること」という条件を満たすShopifyのPlusプランでした。特に「自分たちの手で運用できる」という点が、同社のブランド運営の思想と深く結びついていたことが、決断の大きな決め手となりました。
顧客視点に立った運営を実現するには、ブランドへの理解を持つ社内の人材が、自ら意思を持って施策を進めていくことが不可欠でした。社内にエンジニアリングの知識を取り込みながら、少しずつできることを増やし、開発会社に丸投げしてしまってシステムがブラックボックス化するような事態を避けたいと考えていました
Shopify導入後は、開発パートナーと連携し、3ヶ月という短期間での構築と初期開発を完了。社内ではエンジニア志望の若手を採用し、パートナーからサポートを受けながら自走できる領域を少しずつ増やしていきました。
その結果、2024年10月には、完全な内製化を実現。現在はECチーム3人・ITチーム3人という少数精鋭体制で、サイト改善や機能アップデートをスピーディに実行できる運用基盤を構築しました。
なお、初期導入を支援したパートナー企業とは、支援終了後も情報共有が継続しており、稲富氏は、Shopify特有のコミュニティ文化にも魅力を感じていると語ります。
「ECサイトを運営する企業同士やパートナー企業との間で、横のつながりや情報共有がしやすいのも、Shopifyの良いところです。お客様を奪い合うのではなく、お互いにブランドを育てていくような感覚がある。この文化が、とても素敵だと感じています」(稲富氏)
Shopifyの拡張性で進化を遂げた、高機能なオンラインストア
BONAVENTURAオンラインストア
ShopifyのPlusプランの導入により、アクセスが集中しても、サイトが落ちることがない安定性を獲得しました。さらに、ボナベンチュラのEC運営はさまざまな領域で進化を遂げます。グローバル展開、チェックアウトやLINE連携といった機能拡張、オペレーションの自動化、CRM施策の高度化など、運用全体に多くの変化がもたらされました。代表的な取り組みを以下に紹介します。
1. 拡張ストア:越境EC機能で多言語・多通貨対応をスムーズに
複数ストアを所有し、各ストアを現地にローカライズできるShopifyのPlusプラン限定機能「拡張ストア」を活用し、韓国語・タイ語対応サイトを2024年に展開。多言語・多通貨・関税・送料といった国別の複雑な要件にも、個別開発を必要とせず柔軟に対応できるようになり、国内と同様の運用体制を維持しながら、グローバル展開の基盤を整えました。
さらに現在は、ヨーロッパ市場向けのEC拠点をドイツからイタリアに移管。各国でばらつきがあったテーマや機能を統一し、どの国からアクセスしても同じブランド体験を提供できる構成を目指しています。
2. チェックアウト拡張:カート体験も“ブランドの顔”
ShopifyのPlusプラン限定で活用できる「Checkout Extensibility」機能を活用し、購入直前のチェックアウト画面にアップセル施策を導入。たとえば、スマートフォンケースの購入時にナノガラスコーティングスプレーをレコメンドする施策では、単品売上が3倍以上に伸びる成果が出ています。
「長く愛用してほしいという想いを、商品のレコメンドを通して自然に伝えられるようになったのが大きな変化でした」(稲富氏)
3. LINE SSO:誰に届けるかが「見える」ように
LINEアカウントとShopify会員情報を連携できる「LINE SSO(シングルサインオン)」を導入したことで、これまで匿名だったユーザーの識別が可能に。セグメント配信の精度が格段に向上し、一人ひとりに最適化されたコミュニケーションが実現できるようになりました。
「私たちは『1対多』ではなく『1対1』の体験を届けたい。LINE連携によって、画面の向こうのロイヤルカスタマーが誰か、思い浮かべながら施策を考えられるようになりました」(稲富氏)
4. チャネルトーク:接客の質を統一する顧客対応ツール
Shopifyアプリの「チャネルトーク」は、EC・店舗・LINE・SNSなど複数の顧客接点を一元管理できるコミュニケーションツール。同社では、顧客との接点を分断せず、ECでも実店舗のような顧客体験を提供するために活用しています。
「チャネルトークを導入後、問い合わせ対応の質とスピードが安定しました。チャットをオンライン接客ツールと定義して、ブランドアドバイザーからお客様に積極的に話しかけにいく取り組みもワークしています。AIの活用により、CSの業務負荷がかなり軽減され、対応を受けたお客様の満足度調査では98%が満足という結果でした」(稲富氏)
5. Shopify Flow:100以上のワークフローで20〜30%の業務削減
業務の自動化を可能にする「Shopify Flow」を活用して構築したワークフローは、現在100件以上にのぼります。不正注文の検知、タグ付け、在庫アラート、顧客情報の管理など、これまで手作業だった業務の多くを自動化することで、人の手をかける必要がない領域を大幅に削減。その分、チームはより創造的な業務に集中できるようになりました。
「「Shopify Flow』のおかげで、CS関連の業務時間はおよそ20~30%ほど削減できました」(田畑氏)
6. Shopify POS:オフライン接客もデータでつなぐ
ECと店舗のデータ一元化を可能にする「Shopify POS」は、実店舗でのレジ機能にとどまらず、イベントやファミリーセールなどのクローズドな接客でも活躍します。来店者が会員マイページに表示される専用QRコードを提示し、スタッフがスキャンすることで来店情報が購入情報がデータとして蓄積されます。これにより後日、参加履歴や購買情報をCRM施策に活用できる仕組みが整いました。
「POSはただの販売ツールではなく、接客とマーケティングをつなぐ装置。『Shopify POS』は、その実現にぴったりの存在です」(平井氏)
システム開発の不安を取り除き、事業成長を後押し
オンラインストアの構築において、エンジニア視点で特に難度が高いのは管理機能、認証、セキュリティ、そしてチェックアウト領域の構築です。Shopifyでは、これらの機能を標準で提供することで、パスワードやクレジットカード情報の自社管理が不要となり、事業運営におけるリスクや負担を大幅に軽減しています。
同社でエンジニアリングをリードする田端氏は、「一般的にこれらの機能を自社で実装するためには高度な専門知識が求められ、常に最新のセキュリティ対策を学び、対応し続ける必要があります。さらに、これらの領域は開発過程がブラックボックス化しやすく、将来的な技術的負債を抱えるリスクも高まります。Shopifyがセキュリティや認証領域を先回りして整備しており、社内エンジニアがビジネス成長に直結する開発に集中できるようになりました」と高く評価しています。
BONAVENTURA株式会社 リードエンジニア EC技術責任者 田畑正大氏
ボナベンチュラ入社前はShopifyを使用した経験がなく、「Shopifyは個人事業主だけを対象にしたシステムではないか」「導入できるアプリ数に制限があるのではないか」といった個人的な懸念があった平井氏ですが、入社後はじめてShopifyを使用してみると、その懸念は払拭され、「柔軟な拡張性と自由度に驚かされた」と語ります。
「過去に海外で日本向けECサイトの立ち上げを数回経験してきたのですが、当時はスクラッチ開発が主流で、開発だけで100人規模、立ち上げまでに1〜2年かかるのが当たり前でした。しかしShopifyは、設定から分析、運用まで、すべて1つのプラットフォーム内で完結できたのです。これにより、外部パートナーへの委託が不要となり、自社内で内製化を進め、チーム全体がスピード感を持って動けるようになった点に大きな違いを感じました」(平井氏)
BONAVENTURA株式会社 EC本部&マーケティング本部 マネージャー 平井僚一 氏
実際、同社では現在、わずか6名体制のECチームで国内外サイトの運営を支える体制を築いています。また、韓国語・タイ語対応の越境サイトも短期間で立ち上げるなど、急速な事業拡大にもスピーディに対応できる運用基盤を構築しています。
このように、Shopifyはシステム運用における技術的不安を解消するだけでなく、事業規模の拡大に応じた柔軟なスケーリングを可能にする強力なプラットフォームとして、同社のEC事業の成長基盤となっています。
成長のその先へ、挑戦を続けるボナベンチュラの未来
ShopifyのPlusプランの導入を通じて、ボナベンチュラは自社のEC運営を自走化し、機能面・組織面の両側面から、ブランド成長の基盤を着実に強化してきました。
その結果、流通取引総額は前年比200%超、過去5年で約10倍に成長。さらに、Shopifyへの移行により、TCO(総保有コスト)も30%削減されました。これまで外部のCRMツールで運用していた顧客管理機能をShopifyでカバーできるようになったため、契約見直しによる開発・保守にかかる外注コストの大幅な圧縮、社内リソースの最適化を実現。これにより、事業成長とコスト効率の両立を達成しています。
【ShopifyのPlusプラン導入による成果】
- 流通取引総額:過去5年で約10倍に成長
- TCO(総保有コスト)を30%削減
- 100以上のEC運営作業を自動化
※Shopify移行後(2019年12月〜2024年12月)
今後の展望として、同社は商品・ビジネスの両面で、さらなる拡張を計画しています。まず商品面では、これまで中心だったスマートフォンケースやバッグなどのレザーアイテムにとどまらず、ラインアップの幅を広げていく方針です。最近では、新作のスーツケースやベルトを発売し、続々と新カテゴリーの展開を拡大しています。より多くのライフスタイルシーンに寄り添うブランドを目指しています。
ビジネス面では、グローバルECの本格展開を目前に控えています。2025年6月には正式なローンチを予定しており、日本で培ってきた成功事例やブランド体験も取り入れ、各マーケットの顧客の趣味趣向に合わせた柔軟なサイト作りを目指しています。
こうした事業の広がりの根底にあるのは、より多くの人に「幸運を届けたい」というブランドの思想です。ボナベンチュラという名前は、イタリア語で「幸運」を意味する言葉。稲富氏は「今後は、製品カテゴリーや流通チャネルといった枠にとらわれず、『人の暮らしを豊かにすること』に貢献できるなら、どのような挑戦にも取り組んでいきたい」と語ります。
「もしかすると、幸せを届ける手段はカフェかもしれないし、ホテルや豪華客船かもしれません。ただ、どんなかたちであっても、お客様の生活を少しでも幸せにできるものであれば、『お客様が次に欲すること』を叶えていきたいと思っています」(稲富氏)
これまでの成功や現状にとらわれることなく、幸せを届けるブランドとしての挑戦を続けていく。その歩みを支えるパートナーとして、Shopifyが寄り添っていきます。

