起業家のメンタルヘルス：現状と改善アドバイス9選

起業家としての成功を妨げる要因として、起業家特有のメンタルヘルスの不調が挙げられます。世間では華々しいイメージを持たれる一方で、現実では起業家として生きるうえで、多くの苦悩と孤独が潜んでいます。

起業家が精神疾患に陥る可能性は一般の人々に比べてかなり高いと言った調査結果もあり、メンタルヘルスの不調で事業を成功できなかったケースはとても多いと考えられるでしょう。起業家として成功するためには、自身の心と向き合うことが欠かせないといっても過言ではありません。

この記事では、起業家のメンタルヘルスの現状と9つの改善方法について解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。

起業家のメンタルヘルスの現状

体力と強い精神がいずれも伴っている印象を持たれる起業家ですが、実はメンタルに問題を抱えるケースが非常に多いです。例えばゼロベースの調査によると、起業家の37%に気分障害・不安障害の疑いがあると推計されており、これは一般人の約7倍という高い割合になっています。

さらに、カリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部のマイケル・フリーマン博士の調査では、起業家の約72％がメンタルヘルス上の懸念を訴え、約49％が重大なメンタルヘルス疾患の既往歴があると回答しています。同じ研究の中で比較対象とされた起業家ではない人々では、既往歴のある割合が32％となっており、起業家が精神疾患リスクを抱えている可能性は大幅に高いと言えるでしょう。

起業家のメンタルヘルスが悪化する理由は、主に以下のとおりです。

• 相談や成功体験を共有する相手がいない孤独感
• 大きな責任が伴う意思決定をしなければいけない精神的負荷
• 成功しないといけないと考えるプレッシャー
• 不確実性が高いことによる未来への不安
• 仕事とプライベートの境界線があいまい
• 他者からの期待
• 過度な労働
• 金銭面の不安
• 役員、従業員などとのすれ違い

起業家のメンタルヘルスが不安定だと、思考が鈍り意思決定を誤ったり、日々の生産性が落ちたりします。従業員がいる場合は、起業家自身の不安感・焦燥感が会社全体のモチベーションを下げてしまうかもしれません。後回しにしてしまいがちなセルフケアこそ、ビジネスを成功させるうえで非常に重要です。

起業家のメンタルヘルスを改善する方法9選

1. コワーキングスペースを活用する

コワーキングスペースで仕事をすれば、多くの起業家が悩む孤独感が解消されるかもしれません。同じ立場の人々と対面で会話して共感や理解が得られれば、自身のモチベーション向上にもつながるでしょう。コワーキングスペースによっては、定期的にイベントや交流会が開催されます。さらに無料税理士顧問制度、法人口座開設や住所レンタル等のサービスなど、アントレプレナーを支援するコワーキングスペースも増えています。

2. 起業家コミュニティに参加する

起業家コミュニティへの参加を通して相談したり成功体験を共有したりできれば、普段感じる孤独感を和らげられるでしょう。もし失敗してへこんでいる場合は、コミュニティで出会った起業家の経験談などを聞ければ、前向きな気持ちになれるかもしれません。起業家コミュニティは、例えば商工会議所のイベントや業界別の交流会などが該当します。また対面での交流会だけでなく、オンラインで参加可能なコミュニティもあります。

3. メンターのマッチングサービスを活用する

メンタルヘルスを改善させるうえで、業界やビジネスの先達としてアドバイスを提供してくれるメンターを持つことも効果的です。VentureWell（ベンチャーウェル）の調査結果（英語）によると、高成長を実現した起業家の75％にメンターがいると報告されるほど、メンターの存在は起業家の成功を大きく後押しします。起業家にとって「頼っても良い人物」であるメンターは、従業員や取引先には見せられない悩みや弱さを安心して共有できる存在となります。起業家向けのメンターとのマッチングサービスもあるので、活用を検討してみましょう。

4. 運動する時間を設ける

起業家で忙しい生活をしているからこそ、定期的に運動する機会を設けておくことも重要です。運動しない状態が続くと、脳内のセロトニン分泌に悪影響を及ぼし、不安障害やうつ病を引き起こす可能性が高まると言われています。軽いストレッチや徒歩でもメンタルヘルスの改善が見込め、さらに集中力や生産性を高めることにもつながります。フィットネスクラブに入会し、グループでのレッスンを受ければ対面で交流する機会も生まれ、孤独感も解消される可能性があります。特に在宅勤務で起業している場合は積極的に運動習慣を取り入れましょう。

5. 睡眠を大切にする

睡眠時間が十分でない経営者は、睡眠を改善することでメンタルヘルスを改善できるかもしれません。Current Neurology and Neuroscience Reports（カレント・ニューロロジー・アンド・ニューロサイエンス・レポート）の研究（英語）によると、一晩で七時間の睡眠をとっている人は、自己調整、記憶力、集中力が良好になることが示されました。また夜間の睡眠だけでなく、昼間の仮眠も有効です。ダイヤモンドオンラインで紹介されているNASA（アメリカ航空宇宙局）の研究によると、昼に26分間の仮眠をとった結果、認知能力が34％上昇し、注意力も54％上がった結果が報告されています。睡眠で生産性を高める様々な機能が回復すれば、仕事の結果にも好影響を与え、結果としてメンタルヘルスの不調を引き起こす要因も減らせるでしょう。

6. 即効性のあるストレス解消法を用いる

科学に基づいたストレス解消法を用いれば、メンタルヘルスの悪化を防ぐことができます。心身の不調を感じたり、ケアレスミスが急に増えたりした場合は以下の解消法を試してみてください。

• 深呼吸
• マインドフルネス瞑想
• 入浴、サウナ
• 水分補給
• 音楽を聴く
• アロマを焚く
• 映像をみたり、会話して笑う
• 外の空気を吸う
• 自然に触れる

7. タスク管理でメリハリをつける

ストレス軽減には、優先順位や作業時間を明確にするタスク管理を取り入れることも有効です。過度な労働や、仕事とプライベートがあいまいになってしまうことがメンタルヘルス不調の一因になることも少なくないためです。タスク管理が不十分だと集中力の低下や業務の遅延につながるため、タスク管理アプリを利用して日々のスケジュール最適化を心がけ、ワークライフバランスを意識した生活を送りましょう。

8. 継続的な学習を心がける

継続的に学習することは能力向上につながるだけでなく、努力していることから生まれる自信にもつながるため、ビジネスの成功とメンタルヘルス改善のうえで大いに役立ちます。また経営を学ぶセミナーやコミュニティに参加すれば、同じ志を持つビジネスオーナーとの交流もでき、孤独感も解消されます。自発的な学習を通して小さな成功体験を積み重ね、自己効力感を上げることができれば、不安も自然と改善されるかもしれません。

9. 食生活を考慮する

健康的な食生活を送ることも、メンタルヘルスの改善に役立ちます。オーストラリア・ディーキン大学の研究（英語）によると、日常的に糖分・塩分などを多く含む超加工食品を摂取している人は、将来的に精神的苦痛が生じやすくなると報告されています。バランスの摂れた食生活はもちろんのこと、以下のようなメンタルヘルスの改善に役立つ食材も日頃から摂取していくといいでしょう。

• 食物繊維や発酵食品：腸内に住む微生物群である腸内フローラのバランスが良くなり、メンタルが安定する。
• 必須脂肪酸：オメガ-3脂肪酸は、抗うつ効果やストレス対処能力の向上につながる。ナッツ、魚など
• ビタミンB群：脳のエネルギー代謝をサポートし、ストレス耐性を向上させる役割を果たす。レバーや魚、卵など
• ビタミンC：ストレスによる免疫力の低下を防ぐ。オレンジ、ブロッコリーなど
• マグネシウム：ストレス対処能力を高める。豆類、海藻類など
• 亜鉛：ストレス対処能力を高める。牡蠣、牛肩ロースなど

まとめ

起業家として成功するためには、資金面や従業員などビジネスのあらゆる面を重要視するだけでなく、自身のメンタルヘルスに対して十分に気を配ることも大切です。孤独感が強い場合は、他の起業家などとコミュニケーションをとるべく、自発的にコミュニティ参加やマッチングサービスを活用してみましょう。

また日々の生活習慣がメンタルヘルスの不調をもたらすケースも少なくないため、プライベートの時間を確保したうえで、早い段階で運動・睡眠・食事の改善にも手を打つといいでしょう。ぜひ継続的な学習やタスク管理などを通して起業家として結果を求めつつ、自身の心とも常に向き合い、メンタルヘルスのための有効な対策を講じてみてください。

文：Ryutaro Yamauchi イラスト：ローレン・ブラックマン