関税の見直しや輸入規制、国際情勢の変化に伴う物流ルートへの影響など、国際取引に関わる環境は大きく変動しています。海外進出はリスクを伴うように感じるかもしれませんが、多くの企業が国際市場で新しい機会を見つけて成長を続けています。
特にEC事業者にとって、海外に販売先を広げることは、新しい顧客層にリーチできるだけでなく、売上を分散して国内の景気変動に左右されにくい事業づくりにつながるという面でも重要です。
この記事では、国際取引の基本的な考え方や気を付けたいポイントをわかりやすく整理します。
国際取引とは

国際取引とは、国や地域の境界をこえて商品やサービスを売買・流通させることを指します。日本の商品を海外販売する場合や、海外商品を日本に仕入れる場合など、国をまたぐ取引はすべて国際取引に含まれます。企業が海外チームに業務を委託するケースなども、その一部です。
近年は、ECの普及や配送インフラの進化によって、中小企業や個人事業主でも海外販売に挑戦しやすい環境が整ってきました。SNSやWeb広告を活用すれば、世界中の顧客に自社の商品を届けるチャンスがあります。
一方で、国際取引は国ごとに異なる通貨、税金、配送方法、法律が適用されるところに一定のハードルがあります。これらの仕組みは、WTO(世界貿易機関)などの国際組織が定める枠組みや協定の影響を受けることもあります。国内取引よりも複雑には見えますが、基本を押さえることで安定した越境ECの運営が可能になります。
国際取引の主なリスク

配送・物流トラブルのリスク
国際配送は、距離が長く複数の運送会社や税関を経由するため、到着の遅延・紛失・破損が発生する可能性が高くなります。国際情勢によって物流ルートが変更されたり、運賃が急に上がるケースもあります。
関税・輸入税のリスク
取引先の国によって 関税・消費税・通関手続きが異なるため、想定していた価格設定や仕入れコストと合わなくなる場合があります。関税を事業者と購入者のどちらが負担するか明確にする必要があります。
決済のセキュリティと為替変動のリスク
為替レートは日々変動するため、仕入れや販売のタイミングによって利益に大きく影響することもあります。また、クレジットカードなどによる国際取引では、確定からしばらく経って決済が取り消されてしまうチャージバックや不正利用のリスクも高まりやすい傾向があります。
法律・規制違反のリスク
国際取引では、販売先の国ごとの製品安全基準・広告規制・消費者保護法などに従う必要があります。知らないうちに違反してしまうと、販売停止・罰金などのペナルティにつながる可能性があります。
国際取引で注意したい法律や規制

海外に商品を販売する場合、自社がある国の法律だけでなく、販売先の国の法律やルールにも従う必要があります。たとえば、海外の顧客が商品を使用してケガをした場合、その国の製品安全や消費者保護に関する法律が適用され、現地で法的責任を問われる可能性があります。
また、国際取引には国ごとの法律だけでなく、国際的な協定や枠組みが影響することもあります。たとえば、次のような取り決めがあります。
- 地域貿易協定:複数の国が協調して貿易ルールを整える協定。日本が参加しているRCEP(地域的な包括的経済連携)やCPTPP(包括的及び先進的な環太平洋パートナーシップ協定)は、特定の国同士の取引において関税の引き下げや手続きの簡素化に合意しています。
- 知的財産の保護に関連する国際条約:著作権や商標・特許などを国際的に守るための枠組みがあります。日本は、知的財産の国際基準を定めるTRIPS協定、著作権を保護するベルヌ条約、産業財産を保護するパリ条約などに加盟しています。
- 制裁・禁輸措置:国際情勢に応じて、特定の国との取引が制限される場合があります。日本では、ロシアへの制裁や北朝鮮への禁輸措置が代表的な例です。越境ECを行う場合にも注意が必要です。
国際取引で直面しがちな課題

安定した配送方法の確保
国や地域によって配送スピードや追跡精度に差があり、到着に時間がかかることがあります。信頼できる配送パートナーを選び、配送方法を複数用意することで遅延リスクを分散できます。また、配送ポリシーを明確にして顧客に事前に周知することも重要です。
価格設定
関税、付加価値税、送料、為替などが影響するため、適切な価格設定が難しくなります。販売先の国ごとの税金や送料を事前に洗い出して考慮することで、利益率のズレを防げます。Shopify(ショッピファイ)で構築したストアなら、越境EC向けのツールをまとめたアプリのShopify Markets(ショッピファイ・マーケット)を使うと、計算や設定も簡単です。
言語・時差によるサポートの難しさ
問い合わせ対応に時間がかかったり、言語のズレで誤解が生まれることがあります。翻訳アプリやAIチャットを活用し、問い合わせ対応のテンプレートを整備しておくとスムーズです。FAQを充実させることも効果的です。
マーケティング・ローカリゼーションの難しさ
文化・商習慣・広告チャネルが国ごとに異なるため、国内と同じ訴求では商品の魅力が伝わりにくいことがあります。市場調査を行い、現地の言語・文化に合わせて商品説明やクリエイティブをローカリゼーションしましょう。Shopifyの多言語対応機能や翻訳アプリを使うと効率的です。
知的財産(IP)の保護
国によって、商標・著作権・特許の保護レベルや侵害への対応制度が異なります。知的財産に対する保護が弱い国では、模倣品やデザインのコピーが発生しやすい傾向があります。
法的紛争の解決
国際取引では、トラブルが起きたときにどの国の法律が適用されるか、どこの裁判所で解決するかが複雑になる場合があります。各国が独自の法律と司法制度を持っているためです。国によっては、現地の相手に訴訟を進めることが難しいケースもあります。
国際取引に関わる国際機関と日本の公的支援機関

1. 世界貿易機関(WTO)
WTOは国際貿易のルールを調整する中心的な機関で、関税や貿易障壁の削減、国同士の紛争解決を行います。たとえば2024年には、国際的なデジタル取引について規定する初の共同声明も公表しています。販売先の国が関税や輸入ルールを見直す場合、WTOで協議が行われることが多いです。
2. 国際商業会議所(ICC)
契約、取引条件、紛争解決など国際取引に関する標準ルールを策定する団体で、貿易条件を定義する「インコタームズ」を定めていることでも知られています。
3. 世界税関機構(WCO)
関税や税関手続きの国際基準をつくる国際機関で、日本も加盟しています。海外配送で使われる品目分類コード(HSコード)の標準化を行っているのもWCOです。商品の分類や通関手続きはWCOの枠組みに基づいて行われます。
4. 国際通貨基金(IMF)
世界の金融・為替の安定を目的とする国際機関で、経済危機が起きた国への支援や政策提言を行います。為替レートの変動は商品価格や収益に影響するため、IMFの発信する世界経済の情報は海外販売を行う事業者にも参考になります。
5. 日本貿易振興機構(JETRO)
日本の中小企業・スタートアップの海外進出を支援する日本の公的機関です。海外市場の最新データ、物流・関税・規制の情報提供、現地での商談サポートなど、実務に直結する支援を受けられます。市場調査や各国のルールを確認したい時、JETROの情報は非常に役立ちます。
まとめ
国際取引では、関税や規制、物流、通貨など国ごとに異なるルールへ対応する必要があります。国内販売より複雑に感じられる場面が多くあるかもしれませんが、基本を押さえて準備を進めれば、新しい顧客に出会える機会も広がり、収入源の分散や新規市場の開拓といったメリットも大きく、EC事業者にとって魅力的な選択肢です。
まずは販売したい国のルールや市場の特徴を知り、配送・価格設定・法規制への対応を少しずつ整えていくことが大切です。Shopifyには、多言語対応や地域別の価格設定、海外向け決済、物流の連携など、越境ECに必要な機能がそろっています。
無理のない範囲から始めて、自社に合った形で国際市場への一歩を踏み出しましょう。
よくある質問
国際取引と国際貿易の違いとは?
どちらも国をこえた売買に関わる言葉ですが、指す範囲が少し異なります。国際取引の方が、国際貿易より広範囲を指す言葉です。
- 国際取引:企業や個人が国をまたいで商品やサービスを売買することや、海外投資や技術提携など、国境を越えた経済活動を指します。
- 国際貿易:主に国をまたいだ商品の移動を指します。また、国家間のルールに焦点を当てるときにも貿易という言葉が使われます。
越境ECを始める前に最低限チェックしておくべきポイントは?
- 販売国の関税・税金・規制を把握しているか
- 配送方法
- 送料の設定が適切か
- 商品ページのローカライズ(言語・通貨・サイズ表記など)ができているか
- 返品ポリシー・配送ポリシーが明確か
特に、誰が関税を負担するかはトラブルになりやすいため、事前に必ず決定しておきましょう。
Shopifyで越境ECを始めるメリットは?
Shopifyには海外販売に必要な機能がそろっているため、複雑になりがちな越境ECをスムーズに始められます。たとえば、次のようなメリットがあります。
- 多言語・多通貨に標準対応しており、国ごとに価格や通貨を自動で切り替えられる
- Shopify Marketsで、販売地域ごとの税金・関税・価格設定をまとめて管理できる
- 海外発送に対応した配送サービスやアプリが豊富
- 海外向けの決済方法が簡単に導入できる
- サイト構築からローカライズ、在庫管理まで一つの管理画面で完結する
文:Taeko Adachi





