斬新な商品アイデアを思い付いたとしても、「市場需要」がなければビジネスとして成功することはできません。特に、まだ開拓されていないニッチ市場にチャレンジする場合には、事前に需要を調査しておくことが重要です。
市場需要を把握するには、ターゲットとする顧客層、顧客層の購買行動、そして嗜好や習慣に影響を及ぼすさまざまな要因を分析する必要があります。この記事では、具体的なビジネスプランを策定する前に、製品やサービスに対する需要を見極めるための基礎知識や、市場ニーズの調査方法などについて解説します。
市場需要とは

市場需要とは、サービスや製品に対して買い手が買いたいと思い、なおかつ買うことができる量のことを指します。市場需要を理解することで生産量の調整、価格戦略、消費者のニーズやトレンドに合ったマーケティング施策の実行が可能となります。
また、経済学における基本原則である「需要の法則」では価格を上げると需要の低下、価格を下げると需要の増加に繋がると言われています。
市場需要は、以下に影響されます。
- 製品やサービスの価格:需要の法則にもあるように、価格が変動するとそれに対する需要量も変化します。
- 購入者の所得:消費者の所得が変化すると、需要曲線全体がシフトする可能性があります。所得が上昇すると需要が増加するものは正常財(上級財)、需要が減少するものは下級財と呼ばれます。
- 関連商品の価格:代替財や補完財の価格変動は、元の製品の需要に影響を及ぼす可能性があります。(代替財 例:ビデオデッキからDVDプレイヤーへの移行)
- 消費者の嗜好:嗜好、トレンド、社会的価値観の変化は、需要に大きな影響を及ぼす可能性があります。(例:牛肉より鶏肉がブームになる等)
- 将来価格:将来的な価格変動や供給状況の予測が、現在の需要に影響を及ぼす可能性があります。(例: 台風接近による保存食への需要)
全体の市場需要は、時間の経過とともに変動し続けます。例えば、季節の移り変わりのような予測可能な要因もあれば、自然災害やパンデミックのように予期せぬ事象による影響の場合もあります。需要曲線全体がシフトすることもあります。
市場需要曲線とは
市場需要曲線とは、製品の価格を基準に需要の増減をグラフ化したものです。個々の需要データをグラフに反映していくことで、市場全体の需要曲線を描くことができます。
縦軸は価格帯を、横軸は特定の期間内に製品が購入された数量を示しています。通常、製品の価格が高くなると購入数が減少するため、この曲線は右下がりになります。反対に、横軸がメーカーや小売店が市場に提供する製品の量を示す「供給曲線」は、価格が上がるほど量も増えるため右上がりになるのが一般的です。

需要と供給が等しい状態を、市場均衡といいます。図の中では需要曲線と供給曲線が交差したポイントで、市場均衡が起きていることを示しています。
完全競争市場において、長期的な視点で見ると市場価格はこの2つの線が交わる均衡点へと向かう傾向があります。この均衡点がどこかを理解することで、最適な価格設定や利益の最大化が可能になります。
そのため、年間を通して需要曲線を注視することが重要です。需要が増加する時期は、製品の価格を上げるチャンスとなりますが、価格を上げ過ぎて顧客が競合他社を選ぶことのないように注意が必要です。
市場需要を特定する方法
消費者とのコミュニケーションは、貴重な情報を得られるチャンスとなります。情報収集にあたって、検索エンジンやソーシャルメディアを活用することで、さらに有用なデータを効率的に集める方法についてご紹介します。
1. キーワードリサーチツールを使用する
SEOツールは、市場の需要を特定する際の出発点として最適です。Keyword Surfer(キーワード・サーファー)は、Chrome(クローム)の無料拡張機能で、インストール後にGoogle検索を行うだけで、キーワードに関する分析情報を得られます。(インストール画面のみ英語、使用する際は日本語入力に対応)
推定月間検索ボリューム、関連キーワード、SERP分析などを調べることができるので、新しいビジネスアイデアを深掘りする前に、大まかな状況を把握することができます。

また、市場需要を見つけるための無料ツールとして、Googleトレンドも役立ちます。キーワード、フレーズ、トピックを入力すると、ユーザーがそれらの用語および関連用語をどのくらい頻繁に検索しているかを確認できます。期間、国、都市といった条件でのフィルタリングも可能です。

国別のトレンドだけでなく、自社製品を検索している顧客層のいる特定の都市についても、興味・関心に関する情報を入手できるため、マーケティング活動を集中させるべき場所を把握できるでしょう。また、Googleトレンドの「急上昇中」のページで、新しいトピックをチェックするのもお勧めです。
またGoogleキーワードプランナーも、市場需要についての洞察を与えてくれる無料SEOツールです。利用の際は、無料のGoogle Adsアカウントを作成する必要があります。キーワードプランナーでは、検索用語および関連用語のGoogleでの月間平均検索ボリュームを確認できます。例えば、「iPhoneアクセサリー」と入力した場合、「イヤホン ワイヤレス」などのキーワード候補を見ることができます。この情報は、製品アイデアや市場需要があるか否かを調べるのに役に立つでしょう。

特定の国の市場需要を調査する際は、対象とする国を指定してキーワードを入力します。キーワード入力欄の右隣から、販売を計画している国を選択してください。
キーワードの検索結果を見る際は、特に以下の3つに注目しましょう。
- ロングテールキーワード: ロングテールキーワードとは、複数語の組み合わせで、検索される頻度が少なめなキーワードのことです。「メガネ 軽い 調光レンズ」などニッチなニーズで検索されていることが多く、コンバージョン率が高いという特徴があります。
- 検索ボリュームの大きさ:月間平均検索ボリュームが十分なロングテールキーワードを探しましょう。検索ボリュームが大きい程、より多くの人が潜在的なニーズを持っていると言えます。これによって、どの程度の製品の需要があるか把握することができます。
- 競合性: この列は、特定のキーワードに対してGoogle Adwordsで出稿するリスティング広告で、他の広告主がどれだけ積極的に入札しているかを示します。競合性が低い場合は、検索結果が上位になりやすく、広告費用も抑えられるかもしれません。
月間検索数に明確な基準はありませんが、現時点での潜在的な可能性を把握することが重要です。また、他の製品アイデアやキーワードとの比較も重要です。
2. ソーシャルリスニングツールを使用する
ソーシャルリスニングとは、ソーシャルメディアの投稿から製品、業界、ブランドに関するデータを抽出することです。
投稿をフィルタリングしたり、特定の地域をターゲットにしたり、他のデータと組み合わせて要約した分析レポートを入手できます。ツールによって特徴は異なるため、用途や予算にあったものを選択しましょう。
複数のキーワードを入力すると、ツールが関連するSNS投稿を自動的に抽出します。投稿したときの心情(ポジティブまたはネガティブ)や、どの地域で話題になっているか、また実際の投稿内容を確認できます。調査結果は、定性データのサンプルとして活用しましょう。
3. データと市場トレンドを確認する
市場需要を捉えるには、製品への関心だけでなくターゲット市場において実際購入されている量や価格帯を分析することも重要です。
例えば、ペットフードの関連事業を始めたいと考えた場合、消費データを参考にして市場の潜在的な需要を予測できるでしょう。シンプルにGoogle検索するだけでも、様々な調査結果を見つけることができます。さらに絞り込んで調査することで、より精度の高い需要予測が可能です。


また、価格が市場需要にどのように影響するか、理解することも非常に重要です。調査段階での競合分析によって、自社が参入しようとしている市場における商品の小売価格(販売価格)を把握し、価格設定戦略を練りましょう。
製品の市場需要を見積もる
ここで市場需要に関する情報を、具体的にどう活かすのかご紹介します。仮にナイキのiPhoneケースを販売したいとします。このアイデアは、Googleのキーワードプランナーで「iPhoneアクセサリー」を検索した際に発見した「iphone xr ケース ナイキ」というロングテールキーワードが元になっています。
Googleショッピングを見ると、該当するスマホケースは1000円台〜で販売されています。次に、個別需要を見てみましょう。ナイキのiPhoneケースは何個、どの価格帯で購入されているのでしょうか。
例えば、顧客である佐藤さん(仮)は、新しいものが好きなのでスマホケースを頻繁に交換します。壊れてしまうこともあります。佐藤さんは、1年間毎月新しいiPhoneケースを購入し、その内6つはナイキのデザインです。2人目の顧客である田中さん(仮)は、ケースを長持ちさせるので年に2回購入します。どちらもナイキのケースです。
そんな中、販売価格が調整されると、佐藤さんと田中さんの行動にも影響が及びます。価格が上昇した場合、両者ともiPhoneケースの購入頻度を減らす可能性があるのです。
両者による1年間の市場需要を、以下の表で確認してみましょう。

価格が上昇すると、佐藤さんと田中さんはiPhoneケースを購入する回数が減るため、当然市場需要も減少します。これを一年を通した需要曲線にしてみましょう。

このグラフからも分かるように、価格が上昇すると需要が右下がりになっています。例外はありますが、これは概ねどんな製品や市場にも共通しています。
次に、1,000~3,000円までのそれぞれの価格で消費者が求める製品の総量を示す、市場需要関数を求めます。今回のケースでは価格が500円上がるごとに、市場需要は約1.75個減少していると言えます。
それぞれの顧客について上記のような計算を行うことで、総市場需要を把握することができます。
市場需要の例
市場需要を把握するために、有名企業でもさまざまなアイデアを検証しています。リサーチを通じて製品に適した市場を見つけ出し、ビジネスを成功へと導いたそのプロセスを見てみましょう。
0秒チキンラーメン

日清食品が発売した「0秒チキンラーメン」は、お湯を使わずそのまま食べられるという新しい価値を打ち出したことにより、大きな反響を得ました。これは同社のSNSキャンペーンで、消費者にチキンラーメンをそのまま食べる方法を提案したことがきっかけです。キャンペーン終了後も、そのまま食べる消費者が引き続きSNSで多く見られたため、潜在的なニーズとして捉えて開発されました。これにより、新たな顧客層を取り込むことに成功しました。
アスタリフト

写真フィルムの需要が落ち込む中、富士フイルムは自社の強みであるコラーゲン研究やナノテクノロジーを活かすために徹底した市場調査を行いました。その結果、化粧品・医療領域へと事業を展開。スキンケアブランド「アスタリフト」は、その戦略によって高い支持を集めるブランドへと成長しています。
まとめ
新たなビジネスアイデアを検討する際は、すぐに製品の生産を始めたり、ネットショップを開業したりする前に、事業が実現可能かどうか論理的・客観的に見極めることが欠かせません。市場需要を把握することで、過剰在庫や在庫切れといったリスクを避け、より正確な予測が可能になります。これによって、確信を持って需要のある市場に参入できるでしょう。
市場需要に関するよくある質問
「市場需要がある」といえる3つの要件は?
以下が製品の需要を決める3つの要件です。
- 該当する製品やサービスに対して、消費者は関心や欲求がある
- 該当する製品やサービスに対して、消費者は実際に手に入れたいと思っている
- 該当する製品やサービスに対して、消費者は購入資金や手段を持っている
製品の需要を高めるには?
製品やサービスの需要はさまざまな要因によって変動するものですが、オンラインストア事業者として需要を高めるために、以下のような対策が可能です。
- マーケティングによって製品の認知度を高める
- 市場調査を通じて顧客の困りごと・悩みを発見し、自社の製品ならどのように解決できるか伝える
- ターゲットとなる見込み顧客に製品やサービスの価値を明示する
- 希少性を武器にする
- マーケティングとリサーチに投資する
供給曲線と需要曲線とは?
需要曲線は、製品の価格とそれに対する需要量の関係を視覚的に表したものです。供給曲線は、販売者が提供する製品の数量を示したものです。2つの曲線が交わるポイントが、製品の均衡価格を示しています。
文:Miyuki Kakuishi





