商標と著作権は、ビジネスの世界のみならず世間でもよく耳にする用語です。商標を表す™、登録商標を表す®、著作権を表す©などのシンボルマークがさまざまなブランド名、ロゴ、タイトルについているのを見たこともあるでしょう。
どちらも知的財産を保護するためしばしば混同されますが、商標と著作権には異なる目的があります。
企業ブランディングや特許取得を目指す企業だけでなく、スモールビジネスのオーナーや副業としてオリジナルグッズ販売を検討している人なども、これらの違いと類似点について基本的な理解を持つことが重要です。
この記事を参考に、著作権と商標権の違いを理解し、ビジネスに有効活用できるようにしましょう。
商標とは?

商標とは、事業者が自社の取り扱う商品やサービスなどを他人の商品・サービスと区別するために使用するネーミングやマーク(識別標識)です。商標には文字、記号、図形、立体などの種類があり、商品に表示する標識を「トレードマーク」、サービスに表示する標識を「サービスマーク」といいます。
商標権とは、商標を指定した商品やサービスに関して独占的に使用する権利をいい、商標を登録することによって発生します。商標登録の意義は、自社のブランドや商品・サービスを保護し、独占的に使用できるようにすることです。これにより、他社による模倣や不正使用を防ぎ、顧客からの信頼とロイヤリティを築くことができます。
商標の例
商標は、有形の商品だけでなく、無形のサービスや、企業や商品群を象徴するブランドにも適用されます。企業によるものが中心ですが、いらすとやなど個人デザイナーによる例もあります。
- 有形の商品(例:プリウス、ポカリスエット、VAIO)
- 無形の商品やサービス(例:食べログ、Uber Eats、いらすとや)
- ブランド(例:TOYOTA、無印良品、ユニクロ)
著作権とは?

著作権とは、思想や感情を創作的に表現した文芸・学術・美術・音楽の範囲に属する著作物を、その著作者が独占的に支配して利益を受ける権利をいいます。芸術的な価値を問うものではなく、作者の個性が発揮され表現されていれば良いとされています。
著作権により、著作権者以外の人物が著作物を利用しようとする時に、許諾や禁止ができます。著作権は著作物が創作された時に発生し、原則として著作者の死後70年までが権利の保護期間となります。
著作権の例
著作権とは一つの権利ではなく、著作者に与えられた権利の総体となっており、その種類(支分権)は、著作権法で具体的に定められています。
- 複製権(例:楽曲を楽譜にする)
- 上映権、上演・演奏権、展示権(例:脚本を演劇にして上演する)
- 放送権、口述権(例:作品をオンラインに掲載する)
- 頒布権、譲渡権、貸与権(例:CDを公衆にレンタルする)
- 翻訳権、二次的著作権の利用権(例:マンガを映画化する)
商標権と著作権の違い

商標権と著作権の違いは、大きくわけて次の5つがあります。
保護対象
商標権:商標(名称、ロゴ、サービス等)、それを通じて蓄積された権利者の業務上の信用を守ります。
著作権:思想・感情を創作的に表現した著作物(文芸、音楽、美術、プログラム、映像など)を保護します。
権利の発生条件
商標権:登録主義をとっており、特許庁に出願・審査を経て登録された時に権利が発生します。
著作権:発生主義であり、作品が創作された時点で自動的に発生し、登録手続きは不要です。
存続期間
商標権:登録後10年有効で、更新手続きを行えば半永久的に継続可能です。
著作権:著作者の死後通常70年間保護され、更新制度はありません。
権利行使および刑事罰の要件
商標権:登録商標と同一・類似の使用があれば、故意や過失でなくても差し止めが可能です。また、故意に商標権を侵害すると刑事罰の対象となります。
著作権:偶然の一致ではなく、著作物を参照・模倣したことが立証できたとき、侵害が認められます。侵害は刑事罰の対象ですが、悪質な場合を除き告発が必要です。
法制度の目的と所管
商標権:産業の発達・取引の信用保護を目的とし、特許庁が所管しています。
著作権:文化の発展・著作者の創作意欲保護を目的とし、文化庁が所管しています。
商標権と著作権の共通点
どちらも知的財産権に含まれるため、以下のような共通点もあります。
- 独占的使用権:どちらも保護対象となるものを独占的に使用する権利があります。
- 侵害時の民事的保護手段:どちらも侵害された場合に差止請求や損害賠償を求めることができます。
- 刑事罰:商標権も著作権も故意に侵害した場合、犯罪として罰せられます。
商標や著作権が必要になるタイミング

商標は、自社ブランドのアイデンティティと信用を保護するために重要や役割を果たすため、起業時やブランド認知度が高まってきたら登録を検討しましょう。
著作権は、創作性のある著作物に対して自然発生するため、登録は必要ありません。EC事業であれば、自作のイラストを使ったオリジナルグッズの販売や、写真などをデジタルコンテンツとして販売する時などに著作権が関連してきます。
ビジネス以外にも、小説をネット上で公開したり、マンガなどの作品をSNSにアップしたりする際にも著作権の理解が重要になります。
商標権や著作権を理解して、他者から侵害された場合にきちんと対応できるように知識を整理しておきましょう。また、商標権や著作権は自分の権利を守るためだけでなく、商品を創作したり販売したりする中で、他者の権利を侵害しないようにするためにも大変重要です。
まとめ
商標権と著作権の違いは、商標が商品やサービスを対象にするもので登録が必要なのに対し、著作権は思想や感情を創作的に表現したものが対象で、自然発生的に権利が生じる点にあります。
他にも、商標権と著作権には、有効期限、権利行使の方法、罰則、所管官庁などに相違点があります。
企業はもちろんのこと、デジタルコンテンツやイラストを売ることを考えている人も、商標や著作権についてしっかりと理解しておくようにしましょう。
商標と著作権に関するよくある質問
ロゴは商標と著作物のどちらに該当する?
ロゴはブランドや商品、サービスを表す標識なので商標となります。創作性が高いロゴには著作権が認められる場合がありますが、必ず認められるわけではありません。
著作権と商標権ではどちらが優先される?
著作権と商標権では、著作権の方が優位とされる場合があります。どちらも重要な知的財産ですが、商標権者であっても、先行する著作権と抵触する場合には登録商標を使用できないとされています(商標法第29条)。
商標の有効期限はどのくらいですか?
商標の有効期限は10年で、更新手続を行えば半永久的に継続可能です。
ビジネス名は商標登録した方がいい?
ビジネス名や屋号は商標登録した方がいいでしょう。商標登録をしておかないと、他社が自社名と同じものを商標登録し、利用の差し止めなどを求めてくるリスクがあります。
AI生成物に著作権はある?
AIが生成した作品には、現時点では著作権は認められていません。しかし、創作における人間の関与(プロンプト等による作成条件指示、生成物の事後的な加工・編集)の程度によっては、その人の著作権が認められる可能性もあります。
文:Norio Aoki





