重要なマーケティング戦略のひとつに、ポジショニング戦略があります。参入市場で競争が激化している場合でも、適切なポジショニング戦略を策定することで、競合他社との差別化ができ、消費者へより効果的にアピールできるようになります。
この記事では、ポジショニング戦略の定義やその手法を、成功事例とともに紹介します。ポジショニング戦略のフレームワークについても解説していきますので、ぜひマーケティングに活用してください。
ポジショニング戦略とは

ポジショニング戦略とは、企業やブランド、製品・サービスが市場においてどのような立ち位置を取るべきかを明確にする取り組みです。ターゲットとなる顧客や市場を明らかにしたうえで、競合他社や競合製品との差別化ポイントを洗い出し、自社ブランドや製品が優位に立つための最適なポジションを検討します。
特に競争が激化している市場では、自社の強みや独自性、魅力を効果的にアピールすることができるようになり、差別化だけでなく認知度の向上や顧客ロイヤルティ構築にも役立ちます。ポジショニングは、ブランド戦略やマーケティング活動の方向性を定める基盤となる重要なプロセスです。
ポジショニング戦略を策定するメリットは以下の通りです。
- 競争を避けられる:ポジションを確立することで、ブランドや商品の強みを活かした市場に狙いを定めることができ、競合他社との競争を避けられます。
- 訴求力を高められる:ポジショニングを通して自社の強みや独自性が明確になるため、訴求力の高い宣伝活動につながり、認知度向上にも役立ちます。
- ブランディング効果が得られる:立ち位置を決定することで、消費者に狙い通りのブランドイメージを持ってもらえるようになります。
- 固定客獲得につながる:市場での自社のポジションが明確になると、競合他社や類似商品との差別化ができるため、類似商品への顧客の流出を避けられ、固定客獲得にもつながります。
ポジショニング戦略の立て方:4つのステップ

1. 市場セグメンテーションを行う
ポジショニング戦略を立てるには、まず「市場セグメンテーション」を行います。市場をいくつかのセグメントと呼ばれるグループに分けることで、その特徴やニーズを把握します。市場セグメンテーションは市場細分化とも呼ばれ、大きく以下の4つに分類できます。
- 人口動態変数:年齢や性別、職業、収入、学歴、家族構成など
- 地理的変数:居住地域、気候、都市部か郊外か、文化や言語など
- 心理的変数:趣味や興味関心、ライフスタイル、価値観など
- 行動変数:商品やサービスに対する購買頻度やリピート状況、購買心理、使用状況など
分類ができたら、各グループごとにニーズや特徴を明確にします。その際、セグメントごとの市場規模や成長性、競争状況なども評価していきましょう。
2. ターゲティングを行う
ブランドや製品にあったセグメントを決定する「ターゲティング」を行います。市場のセグメントの中から、ターゲット層となるグループを選択するプロセスです。市場調査や競合調査で得られた市場の状況と照らし合わせることで、最も優位にアピールできるセグメントを見つけやすくなります。また、十分なニーズがあるか、競争優位性があるかに着目することも重要です。さらに、顧客ペルソナを構築すれば、チーム内でターゲット層への共通認識を持てるようになるだけでなく、より詳細なニーズを探ることもできるようになります。
3. 自社の独自性と強みを明確化する
顧客が自社サービスや製品を選ぶ決め手となる、「独自性」や「強み」を明確化します。競合他社の製品にはない機能や品質、特徴だけでなく、使用することで得られるメリットや価値などにも着目します。顧客の目線に立ち、魅力的だと感じられるポイントをリストアップすることで、より訴求力の高いポジショニング戦略を策定することができます。これらの独自性や強みの明確化は、ユニーク・セリング・プロポジション(USP)の策定にも役立ちます。
4. 立ち位置を決定し、差別化戦略を練る
ブランドや製品の「立ち位置」を決定し、差別化戦略を練っていきます。どのセグメントをターゲット市場として販促活動や広告活動を行うかを決定する際には、後述のポジショニングマップなどのフレームワークを活用すると良いでしょう。
立ち位置が決定したら、市場に合った差別化戦略を策定します。自社の強みを活かし、魅力を最大化するための差別化戦略を練っていきます。立ち位置に応じて価格戦略を見直したり、広告活動に力を入れたりといった、さまざまなマーケティング戦略が考えられます。また、独自の製品の価値を簡潔に説明するポジショニングステートメントや価格提案(バリュープロポジション)を作成しておけば、ウェブサイトやSNSで活用できます。
ポジショニング戦略のフレームワーク

STP分析
ポジショニングにおいて、よく使用されるフレームワークにSTP分析があります。セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングの3つのステップからなるフレームワークで、市場細分化と適切なターゲティングにより、競争優位性のあるポジションを見つけることができます。
6R
6Rは、ターゲティングの精度を高めるフレームワークです。以下の6つの指標を分析することで、どの市場を狙うべきか、ターゲットの絞り込みができます。
- 市場規模(Realistic Scale):市場規模は大きすぎないか、小さくとも十分なニーズはあるか
- 優先順位(Rank):自社の強みが活かせる重要な市場か
- 成長性(Rate of growth):成長の兆しのある市場か、将来性はあるか
- 到達可能性(Reach):ターゲット層に適切にアプローチができるか
- 競合状況(Rival):競合他社や商品は多くないか
- 測定可能性(Response):実行した施策に対する効果を測定できるか
3C分析
3C分析は、「顧客・市場(Customer)」「競合(Competitor)」「自社(Company)」の3つを分析するフレームワークです。自社の現状を正確に把握できるだけでなく、顧客ニーズを探ったり、競合他社との差別化を考える際に効果的です。
SWOT分析
SWOT分析は、「強み(Strength)」「弱み(Weakness)」「機会(Opportunity)」「脅威(Threat)」の4つの要素に着目して分析する手法です。自社の現状やビジネスの全体像を客観的に把握できるだけでなく、自社の独自性や強みを明確化できます。
4P分析
4P分析は、「製品(Product)」、「価格(Price)」、「場所(Place)」、「プロモーション(Promotion)」の4つの要素を整理し、自社製品やサービスを分析することです。企業がコントロールできる領域で構成され、市場での競合他社との差別化にも役立ちます。4P分析は、顧客の視点から分析する4C分析と併用されることがあります。
4C分析
4C分析とは、「顧客価値(Customer value)」、「コスト(Cost)」、「コミュニケーション(Communication)」、「利便性(Convenience)」の4つの要素を分析することです。顧客の視点から製品やサービスについて分析するため、顧客満足度や信頼関係の構築に欠かせません。
ポジショニングマップ
ポジショニングマップは、市場における競合他社や自社の立ち位置を視覚化するものです。ポジショニングマップ作成の手順は以下の通りです。
- ターゲットの購買決定要因(価格、充実した機能、サポートなど)をリストアップする
- 購買決定要因の比較表を作成する
- 最も重要と思われる要素2つを軸にして、マップを作成する
ポジショニングマップを作ることで、競合他社がどこに集中しているか視覚的にわかるようになり、自社の立ち位置を見極められるようになります。
バリュープロポジションキャンバス(VPC)
バリュープロポジションキャンバスとは、顧客のニーズと、そのニーズに応えるために企業が提供できる価値を可視化し、両者のずれを解消するためのフレームワークです。顧客の課題や悩み、利得に関する行動や心理を掘り下げ、それらに対して製品やサービスがどのような価値を提供できるかを整理します。具体的なメリットや競合他社との差別化ポイントを明確化できるため、強みや独自性を活かしたマーケティングにつながります。
ポジショニング戦略の成功事例
ユニクロ
ユニクロは、他のファストファッションとは一線を画すポジショニング戦略を展開しています。「高品質」「低価格」「機能性」を柱にブランドの地位を確立しており、幅広いターゲット層に支持されています。これは、人口動態変数をもとにした一般的なセグメンテーションの盲点を突いた戦略と言えます。夏のエアリズム、冬のヒートテックといったように、季節ごとの機能性商品を通して日常生活での快適さを追求しており、他のファストファッションブランドとの差別化に成功しています。
任天堂
ゲーム機やゲームソフトを開発・販売する任天堂は、「家族や友人同士で遊べること」を主軸に展開しています。ゲーム業界では、グラフィックの繊細さやリアルな表現に注力する企業が多い一方、家庭用のゲーム機として幅広い年代層が気軽に楽しめるよう、ポップで優しい色使いや音楽を採用しています。ゲームを本格的にプレイする層ではなく、「たまにプレイする層」が楽しく遊べる工夫がされており、ポジショニング成功の好例と言えるでしょう。
トヨタ自動車
トヨタ自動車は、車種ごとに明確なポジショニング戦略を取ることで、それぞれのターゲット層へ効果的にアピールしています。特にトヨタの高級車ブランドとして知名度の高いレクサスは、ブランドポジショニング成功の代表例です。一般車とは一線を画すレクサスは、高級志向の消費者をターゲットとしており、競合他社との差別化に成功しています。
スターバックスコーヒー
アメリカ発祥のカフェチェーンであるスターバックスコーヒーは、自宅でも職場でもない「サードプレイス」というコンセプトのもと、第三のリラックスできる場所としてのポジションを確立しています。内装やインテリア、BGMにこだわり、一貫したブランドイメージを演出しているだけでなく、コーヒー豆にこだわったり、バリスタがコーヒーを提供してくれたりと、特別感が味わえる空間となっています。高価格帯でありながら、多くの固定客の獲得に成功しています。
まとめ
ポジショニング戦略とは、企業やブランド、製品などが市場でどのような立ち位置を取るべきかを明確にすることです。ターゲット市場において、競合他社や競合製品との差別化ができるポジションを見つけることで、強みや独自性を活かして効果的に製品をアピールできるようになります。さらに、ポジショニング戦略では、製品の訴求力を高めたり、ブランディング効果を期待することもできます。
ポジショニング戦略を立てるには、まず市場セグメンテーションを行い、市場をカテゴリーごとに細分化します。次に、ターゲットとなるセグメントを洗い出してターゲティングを行ったら、自社の独自性や強みを明確化しましょう。最後に、ブランドや製品の立ち位置を決定して、差別化戦略を練っていきます。この際、競合調査や競合分析を行うことで、より効果的にポジショニング戦略を立てられるでしょう。
ポジショニング戦略に活用されるフレームワークや成功事例も紹介していますので、これからポジショニング戦略を立てる際の参考にしてください。
ポジショニング戦略に関するよくある質問
マーケティング戦略におけるポジショニングとは?
ポジショニング戦略とは、企業やブランド、製品・サービスが市場においてどのような立ち位置を取るべきかを明確にするプロセスです。ポジショニングにより、自社の強みや独自性を活かしたマーケティング戦略をとることができるようになります。
5wayポジショニング戦略とは?
5way(ファイブ・ウェイ)ポジショニング戦略とは、「価格」「商品」「アクセス」「サービス」「経験価値」の5つの要素を分析し、自社の強みを最大限に活かすポジションを築くための戦略のことです。
ポジショニングと差別化の違いは?
ポジショニングは、市場での自社の「立ち位置」を明らかにすることを指します。一方、差別化は競合他社との「違い」に着目し、強みや独自性を活かすことを意味します。
文:Masumi Murakami





