自社や商品をメディアに知ってもらうために欠かせない広報ツールの一つに、プレスキットがあります。よくできたプレスキットはメディアや記者にとっても有益なため、記事や特集で取り上げてもらいやすくなります。そのため、特にEC事業やD2Cブランドにとっては、限られた広報リソースで認知を広げる有効な手段になるでしょう。
この記事では、プレスキットに含めるべき要素や作り方を解説します。日本国内のブランドにおけるプレスキットの事例も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
プレスキットとは?

プレスキットとは、メディア関係者などに向けて、自社や商品の情報をまとめた広報用の資料のことです。
取材や記事執筆の際に活用してもらえるようにブランドの基本情報や写真、ロゴ、商品説明、プレスリリースなどを整理した、企業の名刺代わりともいえる存在で、広報活動やPR戦略の第一歩として欠かせません。
イベントや見本市、記者発表会などでメディア関係者に手渡せると、取材対応がスムーズになって広報のタイミングを逃すことがなくなります。また、インフルエンサーにPRを依頼する場合も、プレスキットを渡すことで情報を正しく伝えてもらえます。
広報以外でも、投資家や取引先、ビジネスパートナーに提供することでブランドの姿勢や実績を端的に示すことができるため、信頼感の向上につなげられるでしょう。
また、近年は紙媒体のプレスキットではなく、PDFや専用ページ、クラウドなどを利用した、デジタルプレスキットが主流になっています。ダウンロードやリンク共有ができる形にすることで、必要なときにすぐアクセスしてもらえる点がメリットです。
よく似た言葉に「メディアキット」があり、両者はほぼ同じ意味で使われています。ただ、プレスキットがブランドや商品の情報提供を目的とする一方、メディアキットは広告主に向けた媒体資料を指すことが多く、ターゲット層のデモグラフィックデータなども含まれます。
プレスキットの目的

プレスキットは、ブランドや商品などの自社情報を、メディアを通じて最終的な読者に正しく伝えてもらうのが目的です。公式データやコピー、ブランドアイデンティティなどを間違いなく届けられるように作成します。
また、メディアに取り上げられるためにもプレスキットの作成は欠かせません。日々膨大な量の情報を集めている担当者の目に留まるには、必要な情報が整理され、すぐに使える形で用意されていることが大切です。プレスキットがあれば、記者は商品写真や会社概要を探す手間を省くことができ、記事作成にかかる時間を短縮できます。結果として、掲載や紹介につながりやすくなる可能性があります。
プレスキットに含めるべき要素

企業・ブランド概要
会社名、設立年、所在地、代表者、ブランドのミッションやビジョンなど、基本情報をまとめます。簡潔にわかりやすく記しておきましょう。漢字やアルファベットを使った会社名やブランド名は、読み仮名を記載しておくことも大切です。
また、ひとことで自社を表すキャッチコピーがあると引用されやすくなります。
ブランドストーリー
創業の背景から現在に至るまでの経緯をブランドストーリーとして整理します。「なぜこのブランドを立ち上げたのか」という動機_創業の経緯、「社会にどういう価値を提供したいのか」といった価値観などを盛り込むと、単なる企業紹介に終わらずに印象を残せます。
あわせて、受賞歴や資金調達の実績、商品開発の転機など、ブランドを特徴づける出来事を時系列で並べると、実績をアピールしつつストーリー性を高められるでしょう。
支援している慈善団体や、関与している非営利活動を含めるのもおすすめです。会社の姿勢を示すと共に、社会的意識の高いブランドとして認識されやすくなります。
創業者、代表者略歴
創業者や代表者のプロフィールもまとめておきましょう。その人のストーリーが取材のきっかけになる可能性があります。学歴や職歴といった情報の羅列ではなく、こだわっていることや、人生を変えたきっかけ、仕事への思いなどをピックアップするのがおすすめです。ポートレート写真や、仕事風景の写真を含めるのもいいでしょう。
商品・サービス情報
主要な商品やサービスの特徴、価格帯、利用シーン、ターゲット層などをわかりやすく記載します。記事化されたときにブランドの個性がより際立つように、競合との差別化ポイントを挙げ、USPが明確にわかるようにしておきましょう。
写真・動画・ロゴなどのビジュアル素材
高解像度の商品写真や動画、ブランドロゴ、キービジュアルなどの素材を、ブランドガイドラインと共にまとめておきましょう。ガイドラインには、余白のとり方や使用カラー、サイズなど、それらの素材を使用するときに守ってほしいルールを含めておくと、ブランドのイメージを一貫して伝えられるようになります。
最新情報
新商品やサービスのリリース予定、イベントの参加情報など、これからの動きをまとめます。直近のニュースを整理しておくと、取材のきっかけを提供できます。
プレスリリース
これまで発表したプレスリリースをまとめておきましょう。
過去のプレスリリースにもアクセスできると、ブランドが継続的にどのような活動をしてきたかが一目でわかり、取材する記者にとって背景理解や信頼性の確認につながります。
メディア掲載実績
過去にメディアに取り上げられた実績がある場合、掲載されたメディア名、記事タイトル、日付を整理して一覧化しましょう。キャプチャやリンクを添えると記者が確認しやすく、ブランドの信頼性を裏付ける材料になります。
連絡先・問い合わせ先
広報担当者の名前、メールアドレス、電話番号を必ず明記しましょう。会社の代表メールアドレスではなく、担当者直通の連絡先を載せておくことで、取材がスムーズに進みます。
プレスキットの作り方:4つのステップ

1. 提供場所と提供形式を決める
まずは、どの形式でプレスキットを提供するかを決めましょう。昨今主流となったデジタルで提供する方法には、Dropbox(ドロップボックス)やGoogleドライブといったクラウドに入れURLを共有する、ウェブサイト内の専用ページでダウンロード可能なPDFで提供するといったものがあります。
ウェブサイトの専用ページにプレスキットを設置する場合、「ブランド名+プレス」「ブランド名+メディア」などSEOを意識したキーワードを含めると、検索されたときにヒットしやすく自社サイトへの流入につなげられます。
PR TIMES(ピーアールタイムズ)などの、プレスリリース配信プラットフォームにプレスキットを置いておくという選択肢もあります。これは、限られたリソースで発信ができるというメリットがありますが、SEO効果を逃すというデメリットもあります。自社にあわせて適切な掲載場所を選びましょう。
2. 掲載内容を決め、情報やデータを集める
プレスキットに掲載する要素を決め、情報を整理して集めます。
内容を決める際は、「記事化のきっかけになる情報」と「取材対応をスムーズにする情報」の両方を意識すると効果的です。このとき、数字や具体例、具体的な口コミやメディア掲載歴などのソーシャルプルーフや評価は、ブランドの信頼性を裏付ける材料になります。
3. 資料を作成する
集めた情報を、実際に使いやすい形に整えます。以下のポイントを押さえて整頓しましょう。
- 文章:そのまま引用できるテキスト形式で、要約になる短文版と詳細な長文版を用意しておくのがおすすめです。
- ビジュアル素材:解像度や比率を揃え、ガイドラインを付けておきます。記事やSNSに引用してもらいやすいように写真は複数のサイズを用意しましょう。動画はフル尺と30秒程度の短縮版を用意すると活用の幅が広がり、ニュースやSNSで掲載されやすくなります。
- プレスリリース:ニュース性を意識して整理し、最新情報と過去の実績をまとめておきましょう。
4. プレスキットを公開し、定期的に更新する
作成したプレスキットを掲載しましょう。また、プレスキットは一度作って終わりではなく、情報を定期的に更新することが大切です。古い情報のままでは信頼を損ないメディアに取り上げてもらいにくくなるため、半年ごとに見直すなど、定期的にアップデートする体制を整えてください。
更新時には、新しい受賞歴や掲載実績を追加することで、ブランドの成長をアピールできます。
プレスキットの事例5選
1. MR. CHEESECAKE
チーズケーキの製造と販売を行っているMR.CHEESECAKE(ミスター・チーズケーキ)は、公式サイトに「メディアキット」ページを用意しています。
ブランド紹介文、ロゴ、キービジュアル、シェフの写真などが揃っており、紹介文のテキストはワンクリックでコピーできるという工夫がほどこされています。さらに、シェフの紹介文は短めの187文字版と長めの470字版が用意され、文字数制限がある媒体や、より丁寧な紹介を求める媒体など、さまざまな用途に対応できる仕組みになっています。情報を提供する相手のニーズを想定した設計のプレスキットです。


2. Kuradashi
フードロス削減をテーマにしたソーシャルグッドマーケットKuradashi(クラダシ)は、自社サイトにプレスキットページを設けています。ロゴや商品写真などの素材がすべてワンクリックでダウンロードできるようになっており、利便性の高さが特徴です。
また、紹介文はブランドの社会的使命とサービス内容が簡潔にまとまっており、「食品の販売」だけでなく「社会課題解決の取り組み」として記事にしやすい構成になっています。SDGsやサステナビリティに関心を持つメディアに訴求できるプレスキットです。


3. 北欧、暮らしの道具店
雑貨を中心にライフスタイル提案を行うECストア「北欧、暮らしの道具店」では、公式サイトのニュースセクション下部に「プレスキットはこちら」という導線を設置しています。ニュースを読んだ人は、そのままGoogleドライブから画像素材をまとめてダウンロードできるという流れです。
特に高品質で多様な写真素材が揃っていることが特徴で、商品の単体写真だけでなく、実際の使用シーンを想像できるイメージカットも用意されています。写真素材を重視するメディア向けのプレスキットです。


4. BALMUDA
高級家電ブランドBALMUDA(バルミューダ)の公式サイトには、製品ごとの高解像度写真とプレスリリースがダウンロードできるページが整備されています。
ブランドの世界観を損なわない統一感のあるビジュアルで、どの製品を取り上げても同じブランドボイスで紹介できる点が強みです。また、製品画像の解像度やバリエーションが豊富で、新聞・雑誌・ウェブ記事などメディアのフォーマットに合わせて使えるよう配慮されています。

5. KURAND
クラフト酒D2CブランドのKURAND(クランド)は、PR TIMESのプレスキット機能を活用して、メディア向けにブランドロゴや商品写真をまとめて公開しています。PR TIMESを通してプレスリリースを見た人が、そのままプレスキットをダウンロードできるという導線で、情報を探しているメディアにリーチしやすくなっています。

まとめ
プレスキットは、ブランドや商品を広く知ってもらうための大切なツールです。必要な情報を一つにまとめておくことで、メディア担当者が記事にしやすくなり、取材や掲載のチャンスを逃さずに済みます。特に中小のEC事業者やD2Cブランドにとっては、効率よく認知を広げるために欠かせない施策といえるでしょう。
本記事で取り上げた事例のように、自社サイトに専用ページを設ける方法や、PR TIMESなど外部サービスを活用する方法など、ブランドに合った形でプレスキットを公開できます。メディアに有益な資料となるプレスキットを用意したら、定期的にアップデートして取材の機会に備えましょう。
プレスキットについてのよくある質問
メディアキットとは?
メディアキットとは、プレスキットとほぼ同じ意味で使われる言葉で、企業や商品情報などをまとめたものです。ただし、プレスキットがブランドや商品の情報提供を目的とする一方、メディアキットは広告主に向けた媒体資料を指すことが多い傾向にあります。
プレスキットとプレスリリースの違いとは?
プレスリリースは新商品発売やイベント開催など特定のニュースを発表するための文書ですが、プレスキットは、会社概要や商品写真、ロゴ、ブランドストーリーなどをまとめた「会社情報の資料セット」です。プレスリリースも、プレスキットの一部に含まれることがあります。
プレスリリースの書き方は?
プレスリリースの書き方は誰に、何を、なぜ伝えるのかを明確にすることが基本です。タイトルではニュース性を端的に伝え、本文では5W1Hを意識して簡潔にまとめます。
第一段落で結論を述べ、その後に詳細な背景やデータを補足すると、記事化しやすくなります。さらに写真や図版を添えると、記者が素材として使いやすくなります。
営業資料とプレスキットの違いとは?
営業資料とプレスキットの違いは、営業資料は取引先などに向けて価格表や導入事例、契約条件などの商談に役立つ情報を載せ、自社商品やサービスを購入・導入してもらうことを目的にしているのに対し、プレスキットは、メディア向けにブランド概要や商品写真、プレスリリースなどを載せて、記事などに取り上げられやすくするための資料である点にあります。
文:Taeko Adachi





