ビジネスの成果を高めるためには、消費者の行動を詳しく分析することが欠かせません。なかでも、接点を持ったユーザーが購入や会員登録に至るまでの「どの段階で」「なぜ離脱しているのか」を正しく把握することは特に重要です。その可視化に役立つ手法がファネル分析です。
本記事では、ファネル分析の基本的な考え方から、具体的な活用方法、実際の企業事例までをわかりやすく解説します。自社のコンバージョン率や顧客体験向上に活かせるヒントを知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
ファネル分析とは

ファネル分析とは、消費者がブランドを認知してから興味・関心を持ってから、購入に至るまでのプロセスを段階的に分解し、その行動や心理を分析する手法です。行動が進むにつれて見込み顧客が絞り込まれていく様子をファネル(漏斗)に例え、各ステップでどれだけのユーザーが離脱しているのか、どの段階がボトルネックになっているのかを明らかにします。
ECサイトを例にすると、ユーザーは一般的に次のような流れで行動します。
- サイト訪問
- カテゴリページの閲覧
- 商品ページの閲覧
- カート投入
- 商品購入
ステップが進むにつれてユーザー数は自然と減少しますが、この減少の中でも特に離脱が多い部分が「ファネルの漏れ」と呼ばれます。このポイントを発見し、原因を突き止め、改善策を講じることがファネル分析の目的です。

ファネルの漏れを解消するまでの流れ
ファネル到達率をチェックする
ファネル分析では、まず各ステップごとに次のアクションへの到達率を確認し、どの段階でユーザーが大きく離脱しているのかを可視化します。到達率が低い箇所は、ユーザーが不安を感じている、情報が不足している、操作がわかりづらいなどの問題が潜んでいる可能性があります。まずは具体的な指標や数値に基づく定量的な分析で、改善するべき部分を特定することで、最も効果的な施策に優先順位を付けられます。
ユーザー動線を分析する
「どのステップで離脱したか」が見つかったら、「なぜ離脱したか」の仮説を立てます。そこで有効なのが、ユーザー動線の分析です。
ユーザーがどのページを経由し、どこから離脱したのかを追うことで、意図しない遷移や回遊の偏りなど、改善のヒントが見えてきます。たとえば「商品ページを見てもカートに進まず、FAQページに移動して離脱している」などの動きは、商品情報が不十分である可能性を示します。動線分析を行うことで、実際のユーザー行動に基づいた、より精度の高い改善仮説を立てられます。
改善施策で検証する
離脱ポイントとその理由となり得る仮説が見えてきたら、次はユーザーの心理や行動パターンを分析する定性調査などをもとに、改善施策を立てて実行します。
改善例としては、ページ構成の見直し、CTAの配置変更、読み込み速度の改善、商品情報の追加、フォームの簡略化などが挙げられます。改善後は必ず、再度ファネルの到達率を確認し、離脱率が改善しているかを比較します。
A/Bテストを行えば、ユーザーにとって最も効果的なパターンも明確になります。改善→計測→再改善のサイクルを繰り返すことで、ファネル全体を最適化でき、最終的なコンバージョン率向上につながっていきます。

ファネル分析で改善ポイントを見つける定量調査の手法4つ
1. サイトパフォーマンス分析
サイトパフォーマンス分析は、サイトの表示速度や動作の不具合など、技術的な問題を発見・改善するための定量調査手法です。ユーザー体験を損なう技術的要因はファネル全体の離脱率を高めるため、早期の把握と改善が重要です。
2. アクセス解析
アクセス解析は、Google Analytics(グーグルアナリティクス)などのツールを用いて、ユーザー行動をデータで把握する定量調査手法です。
ページごとの離脱率、閲覧数、回遊経路、コンバージョン率などを分析することで、どのページやステップに課題があるかを明確にできます。Google Analyticsにはファネルデータのレポート機能も用意されており、セッション数・直帰率・滞在時間などの基本指標とともに分析することで、ユーザーがどこでつまずき、なぜ購入に至らないのかをより深く理解できます。
3. フォーム最適化
問い合わせフォームや決済フォームなどにおいて、ユーザーがどの入力項目で離脱しているのかを可視化します。フォームはコンバージョンに直結する重要な接点であるため、どこで入力が止まり、何が障壁になっているのかをデータから把握することが欠かせません。
フォーム最適化ツールを利用すると、以下の改善ポイントを特定できます。
- エラーが最も発生している項目
- 入力をためらう、滞在時間が長い項目
- 必須項目なのに空欄のまま放置される項目
4. ヒートマップ分析
ヒートマップ分析は、ユーザーの行動データを色の濃淡で可視化し、「どこが見られ、どこが無視されているか」を直感的に把握可能とする手法です。暖色は注目度が高い箇所、寒色は低い箇所を示し、ページ改善の重要な材料になります。主に以下の2種類があります。
- クリックマップ:ユーザーがどこをクリックしたかを可視化し、意図しない箇所がクリックされていないか、リンクと誤認されている要素がないかを確認できます。改善によりユーザー体験の向上が可能です。
- スクロールマップ:ページのどこまでスクロールされているか、どの位置で離脱が起きているかを確認できます。急に色が冷色に変わる地点は離脱ポイントであり、重要情報を上に配置したり、視覚的誘導を入れるなど改善のヒントになります。

ファネル分析でユーザー心理を知る定性調査の手法5つ
1. オンサイトアンケート
オンサイトアンケートとは、ユーザーがWebサイトを閲覧している最中にポップアップで表示される、1〜2問程度の簡易アンケートです。ユーザー行動の「その瞬間」に感じた印象や課題を収集できるため、離脱理由の把握やUI/UX改善に役立ちます。代表的なオンサイトアンケートは、次の2種類です。
- 離脱時アンケート:ブラウザのタブバーにカーソルを移動するなど、ユーザーがサイトを離れようとする動きを検知して表示されるアンケートです。離脱直前のユーザーから、離脱理由や不満点、改善要望などのリアルなフィードバックを得ることができます。
- ページ内アンケート:ページ訪問直後や、一定時間(例:30秒)経過後に表示されるアンケートです。閲覧中のユーザーから、その時点での印象や操作性に関するフィードバックを即時に収集できるのが特徴です。
2. 顧客インタビュー
顧客インタビューとは、電話やオンライン、対面などで顧客に直接話を聞く調査手法です。特に、商品を購入した顧客への対面インタビューは、ユーザーの本音や行動背景を深く理解できる貴重な機会になります。
効果的なインタビューを実施するためのポイントは、次の3つです。
- 適切な対象者を選定する:直近で購入した顧客、リピーター、しばらく利用がなかった顧客は、いずれも有益な示唆を得られる対象です。調査目的に応じて、これらのグループから最適なインタビュー対象者を選びましょう。
- 効果的な質問を準備する:質問内容はできるだけシンプルにまとめ、自由回答形式を中心にします。誘導的な聞き方になっていないか注意が必要です。また、商品やサービスの具体的な質問に入る前に、まず顧客のニーズや背景を理解する姿勢が大切です。必要に応じてロールプレイ形式を取り入れるのも有効です。
- しっかりと記録する:インタビュー内容を正確に残すため、メモに加えて録音・録画・文字起こしサービスなどを併用しましょう。対面インタビューの場合は記録担当者を同席させるのもおすすめです。事前に仮説を立て、得られた情報を検証することで、ファネル改善につながる具体的な示唆を得られます。
3. 顧客アンケート
顧客アンケートは、顧客に複数の質問へ回答してもらう本格的な調査手法です。オンサイトアンケートのような簡易型とは異なり、購入前後の行動や心理を多角的に把握できるのが特徴です。効果的なアンケートを実施するには、次のポイントに注意すると良いでしょう。
- 初回利用者をターゲットにする:既存顧客へのアンケートも有効ですが、最初は直近で初回購入のあった顧客を対象にするのが最も効果的です。また、統計的に有効なデータを集めるためには、200件程度の回答を集めるようにしましょう。
- 質問項目をしっかりと設計する:アンケートでは、購入前の不安や購入の決め手、利用後の評価、ショップ全体への印象など、幅広い情報を収集することが重要です。特に「購入に踏み切れなかった理由」や「商品価値の感じ方」といった項目は、顧客体験の改善につながる重要なヒントを得られます。
4. ユーザーテスト
ユーザーテストは、ユーザーに実際のサイト操作を行ってもらい、その様子を観察したり、何をしようとしているかを言葉にしてもらったりする調査手法です。サイト運営者や開発者では気づきにくい課題を発見でき、UI/UX改善に非常に有効です。
テストを実施する際は、ユーザーに以下のようなタスクを実行してもらいます。セッション中はこちらから助言や補足をせず、あくまで観察に徹することが重要です。
-
自由度の高いタスク
例:「好きなビデオゲームを見つけて、購入を検討してください」
ユーザーが自然な動きで操作するため、思考プロセスや迷うポイントを把握しやすくなります。 -
具体的なタスク
例:「4,000〜5,000円のNintendo Switchのゲームを見つけて、カートに追加してください」
明確な条件を設定することで、検索性・絞り込み・商品ページの導線などを評価できます。 -
コンバージョンを伴うタスク
例:「実際に購入したい商品の購入完了まで進んでください」
購入フローの分かりにくさや離脱ポイントを特定するのに適しています。
5. セッションリプレイ
セッションリプレイとは、ユーザーが実際に商品を探したり購入を検討したりする際のサイト閲覧行動を、そのまま記録・再生して観察する調査手法です。ユーザーテストのように発言を求めることはありませんが、実際の行動データに基づいてユーザーの動きや迷いどころを可視化できる点が特徴です。隠れたファネルの離脱ポイントを発見するのに非常に役立ちます。
セッションリプレイでは、特に次のような箇所に注目して改善ポイントを特定します。
- 訪問者がつまずきやすい操作や導線
- ページ移動に時間がかかったり迷っている部分
- 離脱が集中しているページやタイミング
これらのポイントは、顧客体験が阻害されている重要なサインです。問題箇所を一つずつ改善していくことで、ファネル全体の効率が大きく向上し、結果的にCVR改善や売上向上にもつながります。
ファネル分析の成功事例
メルカリ
メルカリの事例では、アプリ利用が中心である一方、長らくWeb版の利用者数は相対的に少ない状態が続いていました。ファネル分析によりサイト訪問から商品閲覧、会員登録、購入完了までの各ステップの離脱率を算出すると、サイト訪問から会員登録プロセスに進む段階で約8割のユーザーが離脱していることがわかりました。
そこで会員登録プロセスをさらに細かく分割して分析すると、スマートフォン版よりに比べて明らかに離脱率が高いステップが存在することが明らかになりました。
ビープラウド
オンラインプログラミング学習サービス「PyQ(パイキュー)」を運営するビープラウドの事例では、無料トライアルから有料会員への転換率向上が大きな課題となっていました。そこで、ユーザーの行動を詳細に把握するため、ファネル分析を実施することにしました。
分析の結果、無料トライアル登録時のクレジットカード情報入力ステップで離脱していることが判明しました。この結果を受け、ビープラウドは離脱ユーザーに向けた2段階のメール施策を実施しました。
- 1通目(ID作成直後): クレジットカード登録が未完了であることを知らせ、続きを促すメールを配信。
- 2通目(ID作成から1週間後): 無料体験プランを紹介するレコメンドメールを送信し、利用意欲を後押し。
この改善施策により、1,200件の離脱リードから240名の新規有料会員を獲得する成果につながりました。
さくらインターネット
さくらインターネットの事例では、新規顧客開拓の強化を進めるためのファネル分析の中で、マーケティング部門と営業部門の連携不足がボトルネックとなって商談機会の損失が発生していることが課題とされていました。そこで、マーケティングオートメーション(MA)ツールの入れ替えと並行して、組織づくりも行うことになりました。
その結果、マーケティング戦略で得られた見込み顧客への対応スピードが約35日から4.8日へ大幅短縮され、案件化数は40倍に増加しました。
まとめ
ファネル分析は、ECサイトの購入率を向上させるために効果を発揮する手法です。
どれだけ集客ができていても、ユーザーが途中で離脱してしまえば成果にはつながりません。今回紹介したように、離脱ポイントを正しく把握し、仮説と検証を繰り返すことで、コンバージョン改善は確実に進みます。まずは自社のファネル構造を可視化し、どの段階でユーザーが離れているのかを把握してみてください。小さな改善の積み重ねが、ECサイト全体の購入率向上につながります。
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よくある質問
ファネル分析は古い?
ファネル分析は現在でも、ユーザーが離脱しやすいポイントを可視化し、改善施策を導くうえで非常に有効な手法です。むしろ、アクセス解析ツールやMAツールの進化により、より精度の高いデータ収集と分析が可能になったことで、その重要性は増しています。
ファネルの漏れとは?
ファネルの漏れとは、ユーザーが特定の段階で離脱しやすくなっているポイントのことを指します。ここが放置されると、集客に成功していてもコンバージョンにつながらず、結果として売上や事業パフォーマンスの低下を招く可能性があります。
ファネルの漏れはどうやって塞ぐ?
まずは、現在のファネル全体を確認し、コンバージョン率が大きく落ち込んでいるステップを特定することが第一歩です。問題箇所を明確にしたうえで、UI改善や導線整理・CTA見直し・コンテンツ改善など、原因に応じた施策を実行することでファネルの漏れを解消できます。
マーケティングファネルとセールスファネルの違いは?
マーケティングファネルは、商品・サービスの認知獲得から興味関心の醸成、ブランド理解までの広いプロセスを扱います。一方、セールスファネルは、訪問後の行動や購入完了までの流れに重点を置いたプロセスです。両者は視点は異なるものの「顧客獲得」と「収益向上」という共通の目的を持ち、連携することでより高い成果を生み出します。
文:Takumi Kitajima





