成功する起業家の多くが頼りにしているのが、経験者からの助言、つまりメンターシップです。
優れたビジネスメンターは、事業初期によくある失敗を回避できるようサポートしてくれたり、課題解決のヒントや貴重な人脈の紹介、資金調達のアドバイスをしてくれたりと、多方面で起業家を支えてくれます。そして何より、メンターは起業家のなかにある可能性を引き出し、より良い意思決定ができるよう導いてくれます。
しかし、オリベット・ナザリーン大学の2019年の調査(英語)によると、76%の人が「メンターは重要」と考えているにもかかわらず、実際にメンターがいる人はわずか37%にとどまっています。このギャップは、メンターの重要性は理解されていても、適切な相手をどう探せばよいか分からない人が多いことを示しています。
そこでこの記事では、ビジネスメンターの役割と重要性、なぜ起業家にとって欠かせない存在なのか、そして自分に合ったメンターを見つける具体的な方法を解説します。
ビジネスメンターとは

ビジネスメンターとは、業界や起業の経験をもち、自身の体験から得た知恵や視点を基に適切な助言を提供して起業家や若手経営者の成長をサポートする人です。
ビジネスメンターの特徴は、表面的なノウハウだけでなく実践を通じて得た気づきや価値観などを伝えてくれることです。知識の提供にとどまらず、サポート対象者(メンティー)の可能性を信じて関わろうとするのが、ビジネスメンターです。
また、報酬を目的として課題解決にむけて対象者をリードするコンサルタントとは異なり、ビジネスメンターは無償または比較的低額の報酬で、対等で継続的な関係性のなかで信頼関係を築きながら、対話を通してメンティーの自己成長を促します。
ビジネスメンターの役割と起用するメリット

ビジネスメンターには以下のような役割があり、メンターを起用することでさまざまなメリットが得られます。
ビジネスに関する助言を提供する
ビジネスメンターには、メンティーの判断を客観的立場から補い、方向性を示したり有益なアイデアを提供したりする役割があり、マーケティングや経営戦略といった実務的なノウハウに加え、自らの経験に基づいた実践的なアドバイスを提供します。
メンティーは、メンターから助言をもらうことでビジネスの視野を広げることができます。経営や仕事において、自分自身や周囲の考えだけに偏ると、視点が固定されてしまいますが、自身の利害とは無関係な立場にあるメンターの客観的な視点は、自分では気づきにくい思い込みや課題を浮き彫りにし、新たな気づきをもたらしてくれます。判断に迷った際に主観的な感情や社内のしがらみに左右されることなく、第三者としての視点から軌道修正のアドバイスを受けられるのは大きなメリットです。
また、こうしたフィードバックを継続的にもらうことで、思考の柔軟性や判断力も自然と養われていくでしょう。
精神的にサポートする
ビジネスの世界で孤独を感じやすい経営者やリーダーの精神的な支えになるのもビジネスメンターの役割です。日々プレッシャーや孤独を感じがちな経営者やリーダーの心情を、利害関係のない立場から受け止め、自身の経験を踏まえた励ましや共感を通じて精神的に支えます。
メンティーは、起業初期や行き詰まりを感じるときなどに、過去に同じような困難を乗り越えた経験をもつメンターがいることで、心に余裕をもった意思決定やモチベーションの維持、メンタルヘルスの改善が可能になります。
また、ビジネスメンターと対話するなかで起業家マインドを身につけることもできます。
実際に、米国中小企業庁(SBA)の調査(英語)では、メンタリングを受けた中小企業の70%が5年以上存続しており、これは受けていない企業の2倍の割合です。メンターによる精神的なサポートは、事業の継続性にもつながる大切な要素だといえるでしょう。
ビジネスメンターの探し方

1. 自分の人脈から探す
ビジネスメンターを探す際は、まず自分のまわりに目を向けてみましょう。これまで関わってきた上司や同僚、取引先、友人、家族のなかに、ビジネスの経験や知識をもち、相談できる人物がいるかもしれません。信頼関係がある相手なら、率直で実践的なアドバイスを得られる可能性も高くなります。
もし心当たりがない場合は、新たなネットワークを広げることも視野に入れましょう。地域の勉強会やビジネスイベントに参加したり、LinkedIn(リンクトイン)やXで業界内の人とつながったりすることで、将来的にメンターとなり得る人物と自然な関係を築けるチャンスが広がります。
2. メンターになってほしい人に直接連絡する
面識がない場合でも、メンターになってほしい人に直接メッセージを送ってつながりを作ることができます。尊敬できる実績があったり共感できる発信を行ったりしている人に、誠意と熱意をもって連絡してみましょう。メンターになってもらえたり、他の人を紹介したりしてもらえる可能性があります。
Zoomや対面で一度話ができる機会をつくるのが理想です。直接対話することで、信頼関係の構築にもつながります。なお、影響力のある人は日常的に多くの依頼を受けている可能性があるため、返信がなくても焦らず、別の候補にもアプローチしてみましょう。
連絡する際は、以下のようなテンプレートを参考にしてみてください。
件名:キャリアについてご相談させていただけませんか?
◯◯様、はじめまして。(◯◯という分野)について調べているなかで、◯◯様のプロフィールを拝見しました。◯◯様のご経験やお取り組みに深く共感し、ぜひお話を伺いたいと思いご連絡いたしました。
私は現在、(目標や取り組み)に挑戦しており、今後の参考にさせていただきたく思っております。
もしご都合が合えば、Zoomなどで15分ほどお話させていただけますと幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。
メッセージを送る際は、相手の時間を奪わないよう配慮し、簡潔かつ誠実に気持ちを伝えることがポイントです。
面談の約束が取り付けられたら、以下のように話す内容を整理しておきます。
- 相手のビジネスや自身のビジネスについて具体的な質問リストを準備する。
- 自分の目標や課題を相手に伝えられるようにする。
- 連絡を取り続けてもいいか、質問があれば送ってもいいか、最後に確認する。
面談時は相手の時間を尊重し、感謝の気持ちを伝えるのを忘れないようにしましょう。直接会う場合は、カフェや食事代の負担を提案するのも大切です。
3. 対面イベントに参加する
オフラインでの出会いも、ビジネスメンターを探す有力な手段のひとつです。例えば「こくちーず」などのイベント情報サイトを活用することで、起業家向けのセミナーや交流会を簡単に見つけることができます。

こうしたイベントには、同じように挑戦を続けている起業家やフリーランスが集まり、互いに刺激を受けたり、相談し合える関係が生まれやすくなったりします。会話のなかで自然とメンター候補に出会える可能性があるだけでなく、学びやモチベーションの維持にもつながります。
定期的に開催されるイベントに継続して参加することで、信頼関係を築ける人と出会える可能性も高まります。参加前には、イベントの目的や登壇者のプロフィールを事前に確認し、質問したい内容や自己紹介を準備しておくと、より有意義な交流ができるでしょう。
4. SNSを活用する
SNSは、ビジネスの第一線で活躍する人たちとつながる強力なツールです。特にXやInstagramでは、起業家や経営者が日々の活動や考え方を発信しており、そこから学べることは多くあります。
すでにアカウントを持っている場合は、まず自分がフォローしている人のなかから「この人のようになりたい」と思える人物をピックアップしてみましょう。投稿内容にコメントを残したり、ダイレクトメッセージで丁寧に相談をもちかけたりすることで、気軽にやりとりが始まることもあります。

また、「#メンター募集」「#起業家とつながりたい」など、日本語のハッシュタグで検索すれば、同じ志をもつ人との出会いにつながることもあるでしょう。SNSは、経験豊富な起業家だけでなく、同じフェーズで頑張る仲間とも出会える貴重な場なのです。
5. LinkedInで潜在的なメンターとつながる
ビジネスに特化したSNSのLinkedInは、メンターを探すうえで非常に有効なプラットフォームです。業界や職種ごとの経験者が10億人以上登録しており、自分の目標に合った人物とつながるチャンスがあります。
プロフィール検索機能を活用すれば、希望するスキルや職歴をもった人を絞り込むことができ、メールアドレスがなくてもコネクションリクエストを送信できます。
実績のある人の投稿にリアクションするなど、コメントを通じて徐々に関係を深めていくのも効果的です。
日本語で「メンター募集」や「メンタープログラム」などのキーワードを検索してみるといいでしょう。

6. メンターマッチングサービスを利用する
メンター探しに役立つ方法のひとつが、日本国内で利用できるオンライン相談サービスの活用です。
例えば「MENTA」や「ビザスク」では、実務経験のある専門家や起業家と1対1で相談できるマッチングサービスを提供しています。ビジネスの立ち上げ方、資金調達、集客戦略など、相談したいテーマに応じて相手を選べるのが大きな特徴です。
単発のスポット相談から、月額制で継続的なアドバイスを受けるプランまで幅広く用意されており、自分の課題や予算に合わせて選ぶことができます。
専門家との出会いを効率化したい方や、信頼できる第三者の視点が欲しい方にとって、オンライン相談サービスは非常に心強い選択肢となるでしょう。

7. フォーラムやオンラインコミュニティに参加する
起業家やフリーランス同士が交流できるオンラインコミュニティは、メンターとの出会いの場としても活用できます。同じ分野で活動する人々が日々情報交換や相談を行っており、実践的な学びを得られることも多いです。
例えば、LINEオープンチャットの「起業家、経営者の共創の場」やFacebookグループの起業家コミュニティなどでは、メンター経験のある起業家と出会える可能性があります。投稿を通じて自身の取り組みや課題を共有することで、自然な形で相談の関係が築けることもあるでしょう。
ただし、オンライン上では「メンター」と名乗りながらも実績の乏しい人や、高額な有料サービスをすすめてくる人などもいるため、信頼性の見極めが重要です。相手の経歴や発信内容を確認し、自分の目的に合う相手かを見極めるようにしましょう。
8. 地域の商工会議所やIPASなどに相談する

信頼できるメンターを探すなら、地域の商工会議所や中小企業支援センター、IPAS(アイパス)などへの相談がおすすめです。これらの公的機関では、創業支援の一環として経験豊富な専門家による無料相談を実施しており、事業計画の立て方や資金繰り、販路開拓など幅広いテーマに対応しています。
商工会議所などでは地域密着型の支援を受けられるため、地元のビジネス環境に即したアドバイスを得られる点も魅力です。IPASは知的財産に関わるスタートアップにメンターがつき、支援が得られます。
起業初期の不安や課題を相談することで、次のステップへ進む道筋が見えてくるはずです。
9. メンタリング提供サービスを利用する

メンターサービスを利用するのも、信頼できるメンターを見つける方法のひとつです。BizMentor(ビズメンター)は、日本の起業家や個人事業主向けに提供されている、メンターと出会えるオンラインサービスです。登録後は、自分の課題や目的に合った実務経験豊富なメンターを検索・選択でき、初回無料相談や単発・継続サポートなど柔軟なプランも用意されています。
起業準備中の方から、事業拡大を目指す経営者まで幅広く活用されており、料金体系が明確なのも安心材料のひとつです。実績のあるメンターから直接アドバイスをもらえることで、ビジネスの課題解決や意思決定のスピードが格段に上がります。
信頼できる日本発のサービスを探している方におすすめです。
適切なメンターを見つけるコツ

なぜメンターが必要なのかを理解する
メンターを探す前に、自分がメンターシップから何を得たいのかを明確にすることが重要です。
例えば「今後伸ばしたいスキル」「過去に改善を求められた業務」「取り組み中のプロジェクトでどんなサポートが必要か」など、自分の課題や目標を具体的に書き出してみましょう。こうした自己理解が深まることで、どのような経験や視点をもつ人が自分にとって理想的なメンターなのかが見えてきます。
準備不足のまま依頼してしまうと、ミスマッチが生まれる可能性もあるため、まずは自身の目的と期待値を整理することから始めるといいでしょう。
メンターの候補者リストを作成する
メンターに求める分野やスキルが明確になったら、次は候補者のリストを作成しましょう。
理想的な人物だけでなく、すでに面識がある人やSNS・業界イベントで出会った人など、現実的な候補も含めます。そのうえで、「メンターになってくれる可能性が高い順」に優先順位をつけて整理してください。そして、リストの上位から数名を選び、丁寧に自己紹介やメンターシップを希望する理由を伝えてアプローチしてみましょう。
いきなり答えを求めるのではなく、まずは関心をもってもらえるよう誠実なコミュニケーションを心がけることが、信頼関係を築く第一歩になります。
メンターとの関係を正しく理解する
メンターとの関係は、上下関係ではなく、信頼と敬意に基づくパートナーシップとして築くことが理想です。
答えを求めるのではなく、疑問や不安を素直に伝え、自ら考える姿勢を大切にしましょう。たとえ経験の差があっても、好奇心と謙虚さをもって学ぼうとする姿勢が、関係を深める鍵となります。
また、メンターの時間を尊重し、定期的な面談をお願いする場合は、丁寧な言葉と配慮を忘れないでください。アドバイスを受けるだけでなく、相手に感謝を伝えたり、自分のスキルで何かを還元したりと、双方にとって価値のある関係を意識することが、長期的な信頼につながります。
無理なく人脈を広げる
適切なメンターを見つけるには、まず無理のない範囲で人脈を広げることが大切です。
これまで関わった上司や同僚、取引先だけでなく、地域の勉強会やイベント、オンラインのコミュニティなども有効な接点となります。特に信頼関係が築きやすいカジュアルな交流の場では、本音の相談ができる相手と出会える可能性が高まります。
焦ってつながりを増やすよりも、自然な関係性を少しずつ育てていくことが、結果的に良いメンターとの出会いにつながるでしょう。
広く好奇心をもつ
メンターを見つけるには、業界や職種にとらわれず、広い視野と好奇心をもつことが重要です。
自分と異なるバックグラウンドをもつ人と関わることで、新しい考え方や価値観に触れることができ、結果として自分に合ったメンター候補に出会える可能性が広がります。興味のある分野について学び続けたり、積極的に質問したりする姿勢は、相手の信頼を得るきっかけにもなります。
固定観念に縛られないことで、よいメンターが見つかりやすくなるでしょう。
ビジネスメンターを探す際の課題

理想的なメンターに出会うのは難しい
すべての理想がかなったメンターを見つけることは簡単ではありません。
例えば、ビジネス経験が豊富で人間性も信頼できるような理想のメンター像を追い求めると、出会いのチャンスを逃してしまうことがあります。
すべての条件を満たす人はなかなか存在しないため、100点満点のメンターを期待するのではなく、自分にとって「今必要な視点をもっている人」「話しやすい人」といった観点で柔軟に候補を探すことが大切です。
完璧さよりも相手との関係性を育てていく姿勢を大切にしましょう。
信頼できる人物か見極める力が必要
メンターは個人的な思いやビジネスの悩みを共有する相手になるため、その人物が本当に信頼できるかどうかを見極める目が必要です。
経験が豊富であっても、自分の利益ばかりを優先するような人では、健全なメンタリング関係は築けません。実績だけで判断するのではなく、相手の言動や価値観、人との接し方なども判断しましょう。そのため、自分にとって安心して相談できる存在かどうかを見極める力が求められます。
時間や人間関係に投資が必要
信頼できるメンターとの関係は、一朝一夕では築けません。相手の時間を尊重しながら、自分自身も関係性の構築に時間とエネルギーを費やす必要があります。
何度も会話を重ねたり、フィードバックを素直に受け止めたりするなかで、少しずつ信頼が深まっていきます。このような投資を惜しまず続けることで、単なる知人ではないメンターとメンティーという関係が育っていくでしょう。
相性が合うとは限らない
どれだけ優れた実績がある人でも、自分と相性が合わない場合もあります。
考え方の違いや話し方、フィードバックの伝え方が合わないと、かえってストレスになることもあるでしょう。
メンタリングは継続的な対話が前提となるため、話しやすさや共感性、フィードバックの受け取りやすさなども重視すべき要素です。最初から一人に固執せず、複数人と話してみることで自分に合ったメンターを見つけやすくなります。
メンターに意欲がない場合もある
相手が理想的な人物であっても、メンターとして関わる意欲があるとは限りません。
多忙だったり、メンタリングに価値を感じていなかったりする場合、期待通りの関係は築けないことがあります。無理に関係を求めるのではなく、互いに学び合える関係を築きたいという姿勢を見せることが大切です。
また、相手に負担をかけすぎないよう、節度をもって関わることも信頼につながります。
まとめ
ビジネスメンターは、起業家や若手経営者に対して実践的なアドバイスや人脈の紹介、意思決定の支援を行う頼れる存在です。単なる知識の提供ではなく、対等な関係で長期的な成長を支えるのが特徴です。
自分に合ったメンターを見つけるには、目的を明確にし、候補者をリスト化して誠実にアプローチすることが大切です。関係を築いた後も、感謝と敬意をもって継続的に信頼を深めていくことで、より有意義なメンターシップが実現するでしょう。
ビジネスメンターに関するよくある質問
ビジネスメンターは何を提供してくれる?
ビジネスメンターは、自身の豊富な経験を基に、スモールビジネスオーナーや起業家に実践的なアドバイスを提供してくれる存在です。予算管理の方法から日々の業務運営まで、事業の立ち上げ期や非営利団体の設立時など、あらゆるステージで具体的なサポートをしてくれます。
ビジネスメンターの費用は?
ビジネスメンターの費用は、提供会社やサービス内容によって大きく異なりますが、月額3,000円程度から利用可能なものもあれば、月額15万円以上で本格的な支援を受けられるものもあります。
個人に直接依頼するマッチング型サービスでは、単発1,000円から相談できるものもあります。
コストを抑えたい場合は個別契約型、本格的な支援が必要な場合はエージェント型や法人向けサービスを利用するのがおすすめです。
メンターとコーチングの違いは?
メンターとコーチングの違いは、メンターは自身の経験や知識を基に相手の成長をサポートする役割を担うのに対し、コーチングは、クライアントが目標を明確にし、自分の力で答えを導き出せるように働きかけ、潜在能力を引き出すことに重点を置いている点にあります。両者は似ているようで、アプローチや目的が異なります。
文:Takumi Kitajima イラスト:ミキョン・リー





