多くの消費者は、はじめて訪れたECサイトで、すぐに商品やサービスを購入することはほとんどありません。そのため、一度離脱したユーザーに再びアプローチするには、「リターゲティング」が重要になります。リターゲティング広告は「費用対効果よく成果を最大化したい企業」にとって欠かせない施策です。
ここでは、リターゲティング広告の仕組みやメリット、さらに効果的な活用のコツやコンバージョンを高める戦略などを解説します。
リターゲティングとは

リターゲティングとは、過去に自社のウェブサイトを訪れたユーザーに対して、再度アプローチするために配信するWeb広告の一種です。ユーザーはサイトを訪れても即購入せず、他社の商品と比較・検討するために一度離脱する傾向にあります。そこで、リターゲティング広告を活用することで、ユーザーの記憶に自社商品を残し、購入を後押しする効果が期待できます。デジタルマーケティングのなかでも、購買意欲の高い見込み顧客に効率的にアプローチできる点が特徴です。
また、一般的なバナー広告と比べると、リターゲティング広告はクリック率(CTR)やコンバージョン率(CVR)が高くなる効果があります。同じユーザーに過度に広告が表示されることを避けたい場合には、広告の接触回数を制限する機能を利用することで、適切な頻度でリターゲティング配信することが可能です。
リターゲティングとリマーケティングの違い
リターゲティングとリマーケティングは、呼び方が違うだけで内容や性質は同じ広告手法です。Yahoo!広告やFacebookダイナミック広告は「リターゲティング」、Google広告は「リマーケティング」と呼び分けられています。
リターゲティング広告のメリット

リターゲティング広告には、次のようなメリットがあります。
- パーソナライズできる:ユーザーが閲覧した商品や、お気に入りに追加した商品、カートに追加した商品などを広告に反映できる
- 最適な商品を自動で提案できる:閲覧商品よりも適した関連商品がある場合、それらを自動でレコメンドとして配信できる
- 精度が高い:行動データにもとづいて顧客を正確にセグメント化することで、関連性の高い広告を配信し、クリック率やコンバージョン率の向上につながる
- ユーザーを取り戻しやすい:比較・検討のために一度サイトを離脱したユーザーに対して再度アプローチできるため、購入の機会を取り戻しやすくなる
- 細かく設定できる:ウェブサイトの訪問回数や頻度に応じて訴求を変えたり、特定ページの訪問者だけにリターゲティングを行うなど、広告内容を柔軟に設計できる
- ほかの広告と連携できる:リスティング広告などほかの広告とも組み合わせてマルチチャネルで活用できるため、より精度の高い配信ができる
リターゲティングの仕組み

ここではCookieとリターゲティングタグを使用して、それぞれがどのように機能し、広告配信につながるのかを解説します。
1. 自社サイトにリターゲティングタグを設置する
Google、Yahoo!、Metaなどの広告配信事業者が提供するリターゲティングタグ(広告タグ)を自社サイトに埋め込みます。
タグは、ターゲットにしたいページに設置する必要があります。例えば、商品Aを見た人に広告を出したい場合、商品Aに関連するすべてのページにタグの設置が必要です。
また、タグが設置されていないページの訪問者は追跡できないため、タグの設置は重要な役割を担っています。このタグが、ユーザーのブラウザにCookieを付与する役割を果たします。
2. Cookieによって訪問ユーザーを識別し、リスト化する
タグが埋め込まれたページにユーザーがアクセスすると、広告配信事業者のサーバーを通じてCookie IDがユーザーに付与されます。これにより、「誰がどのページを見たか」を識別できるようになり、訪問履歴をもとに、広告配信用のリストが作成されます。
ただし、一定の人数が集まらないとリスト作成ができず、広告が配信されません。例えば、GDN(Googleディスプレイネットワーク)では30日以内に100名以上が必要です。
3. リスト化されたユーザーに対して再アプローチする
Cookieによりユーザーが識別されたあと、広告主はそのリストにもとづいてリターゲティング広告を配信します。例えば、以下のような配信方法があります
- 一度離脱したユーザーに対し、一定期間後に広告を表示
- 閲覧した商品、カートの商品、関連商品など、行動に応じた広告配信
- 配信期間や回数(フリークエンシー)が細かく設定可能
これにより、比較検討で離脱したユーザーを呼び戻し、購入につなげる効果が期待できます。
リターゲティング広告の効果的な活用のコツ

1. 購入済みのユーザーには配信しないように設定する
すでに商品を購入したユーザーに広告を配信してしまうと、購買行動につながらず、広告費の無駄になります。ユーザー体験を損なう可能性もあるため、リターゲティング広告では購入済みユーザーの除外設定が必須です。
具体的には、決済完了ページにリターゲティング用のタグを設置することで、購入済みユーザーを自動的にリストから外すことができます。これにより、新規顧客や検討中のユーザーに予算を集中させ、配信効率を大幅に高められます。
2. フリークエンシーキャップを適切に設定する
同じユーザーに何度も表示されると「しつこい」「追われている」と感じさせ、逆効果になる場合があります。そのため、1ユーザーあたりの広告表示回数を制限する「フリークエンシーキャップ」の設定が重要です。
頻度上限を適切に設定することで得られるメリット:
- 広告の押しつけ感を抑えられる
- 無駄な広告費を削減できる
- ユーザー体験を損なわず、適切なタイミングでアプローチできる
例えば、中長期のリターゲティングを行う場合は、1日や1週間ごとの上限回数を設定することで、自然な接触頻度を維持できます。
3. 広告疲れを回避する
広告疲れとは、同じクリエイティブを見続けることでユーザーが飽きてしまい、クリック率やコンバージョン率が低下する現象を示します。
広告疲れを防ぐためのポイント:
- 広告を定期的に更新する
- 広告を複数用意し、ローテーションする
- 季節性やイベントに応じたデザインに変更する
- フリークエンシーキャップを設定する
特にリターゲティング広告は同じユーザーへ繰り返し表示されるため、広告疲れの影響を受けやすい傾向にあります。そのため、定期的に広告内容を変更することが、コンバージョンを最大化するポイントです。
リターゲティング広告でコンバージョンを高める戦略

1. 離脱ポイントで広告を設定する
ユーザーが商品ページのどこで離脱したかによって、購買意欲の高さは大きく異なります。
- ページ上部で離脱したユーザー:商品の詳細を確認する前に離脱しているため、購買意欲は低めで、まだ興味が浅い段階
-
ページ下部まで閲覧して離脱したユーザー:商品に強い関心があり、他社製品との比較・検討段階にある可能性が高い
このように、離脱ポイントごとにユーザーの関心の度合いが異なるため、リターゲティング広告では離脱ポイントを考慮した配信設計が重要です。例えば、上部離脱の場合は商品のベネフィットや特徴を訴求し、下部離脱の場合はクーポンやレビューを訴求するなど、訴求ポイントを変えると良いでしょう。特に、購入意欲の高いユーザーを優先的にターゲティングすれば、広告費の無駄を減らし、より高い成果につながります。
2. 配信するタイミングを考慮する
リターゲティング広告は、配信するタイミングによって成果が大きく変わります。商品ページを閲覧した直後に広告を表示すると「追われている」と感じさせ、逆効果になる場合があります。一方で、数日後に配信すれば、ユーザーが他社製品との比較を終えて購入意欲が高まっているタイミングにアプローチできる可能性があります。ただし、時間を空けすぎると効果は下がります。
- 過去3日間の訪問者:商品への関心が新しく、購入につながりやすい
-
過去30日間の訪問者:商品の内容を忘れている可能性が高く、再検討が必要になりコンバージョン率が低下しやすい
このように、短期間でのリターゲティングは成果が出やすく、期間が長くなるほど効果は薄まります。ユーザーの検討サイクルを踏まえ、最適なタイミングを見極めて広告配信することが重要です。
3. 利益率を考えて配信設定する
リターゲティング広告は、単に配信量を増やせば成果が出るわけではありません。利益率を踏まえた予算設計を行い、費用対効果の高い運用を目指すことが重要です。
商品ごとに利益率は異なり、ビジネスモデルによって投下できる広告費の上限も変わります。1件のコンバージョンに対してどれだけ広告費をかけられるかを算出し、その範囲内で広告を配信しましょう。最適な配信量や予算は業種・商材によって異なるため、少額からテストし、データを見ながら調整していくことが成果につながるポイントです。
4. ブランド全体に焦点をあてる
リターゲティング広告は、特定の商品ページだけでなく、ブランド全体の魅力を伝える広告として活用することも効果的です。ブランド価値を訴求することで、商品単体では伝わりにくい強みや世界観をユーザーに印象づけられます。主なメリットは次のとおりです。
- 潜在顧客にブランドの存在を思い出してもらえる:商品を見ただけで離脱したユーザーにも、再度ブランドを認識してもらうきっかけになる
- 口コミや評判によって信頼を高められる:レビューや受賞歴、ユーザーの声などを提示することで、「なぜほかの顧客がこのブランドを選んでいるのか」を明確に伝えられる
- ブランドへの好意形成につながる:ブランドストーリーや価値観などを広告に反映することで、ユーザーがポジティブな印象を持ちやすくなる
リターゲティングの成功事例

ECサイト
あるECサイトでは、従来の一律バナー広告から、ユーザーが閲覧した商品に合わせて最適化した個別バナー広告へ切り替えました。さらに、カゴ落ちしたユーザーには限定クーポン付き広告を配信し、専用LPへ誘導する仕組みを導入しました。その結果、コンバージョン率が4倍に向上し、再訪問率・購入率も大幅に改善されました。
閲覧履歴やカゴ落ち状況に応じたリターゲティング施策が、購入意欲の引き上げに大きく貢献した事例です。
コンテンツ事業
あるコンテンツ事業者では、全ユーザーに一律で広告を配信する方法から、購入履歴のあるユーザーに絞り、関連商品を提案するリターゲティング広告へ切り替えました。その結果、コンバージョン率は2.8倍に向上し、購入から1か月以内のユーザーに対して高い効果が得られ、クロスセルの成果が大幅に伸びました。
既存顧客の興味に合わせた広告設計が、効率的な売上拡大につながった事例です。
リターゲティング広告の作成方法
Google広告
ステップ1:タグの発行・設置
- Google広告の上部にある「ツールと設定」をクリック
- 「オーディエンスマネージャ」をクリック
- 画面左側にある「オーディエンスソース」をクリック
- Google広告タグの「タグを設定」をクリック
- リターゲティングの選択肢にある「ウェブサイトへのアクセスに関する一般的なデータのみを収集して、お客様のウェブサイトの訪問者に広告を表示します。」を選択し、保存して次に進む
- タグの設定方法として以下のいずれかを選択
- タグを自分で追加する
- タグをメールで送信する
- Googleタグマネージャを使用する
- 表示されるグローバルサイトタグをコピー
- コピーしたグローバルサイトタグを設置したいページの<head></head>の間に貼り付けるか、取得したタグをGoogleタグマネージャに貼り付ける
ステップ2:リスト作成
- 「オーディエンスマネージャ」のトップに戻る
- 画面左上にある「+」をクリック
- 5種類の中から「ウェブサイトを訪れたユーザー」を選択
- セグメント名を入力し、対象・除外となるユーザーのアクションを選択
- 「事前入力オプション」を選択
- 「オーディエンスを作成」をクリック
ステップ3:キャンペーン作成・リストとの紐付け
- Google広告にある「新しいキャンペーンを作成」をクリック
- 広告運用の目的を選択し、「ディスプレイ」にチェックを入れて続行をクリック
- 作成した広告グループをクリック
- 左メニューの「オーディエンス」→「オーディエンスの編集」をクリック
- ターゲティング内の「ユーザーがお客様のビジネスを利用した方法」をクリック
- 「ウェブサイトを訪れたユーザー」を選択し、事前に作成したリストを選択して保存
- ステップ2で作成したリストと紐付けし、完了
Yahoo!広告
ステップ1:タグの発行・設置
- Yahoo!広告管理画面の右上にある「ツール」をクリック
- ライブラリーにある「オーディエンスリスト」をクリック
- 左サイドメニューにある「オーディエンスソース」をクリック
- 「タグ・IDを表示」クリック
- 規約の内容を確認し、「上記に同意してタグを発行」をクリック
- 「カスタムオーディエンスID(リターゲティングID)」「サイトジェネラルタグ・サイトリターゲティングタグ」が表示されるので、タグをコピー
- コピーしたタグを設置したいページの</body>の前に貼り付ける
ステップ2:リスト作成
- Yahoo!広告管理画面の右上にあるスパナマークを選択
- 共有ライブラリーの「ターゲットリスト」をクリック
- 「ターゲットリストを作成」を選択し、「条件」または「組み合わせ」のどちらかを選択
- ターゲットリスト名を入力し、条件を設定
ステップ3:キャンペーン作成・リストとの紐付け
- キャンペーンエディター画面左のメニューにある「サイトリターゲティング」をクリック
- 「サイトリターゲティングの設定」をクリック
- 広告を配信したいリストを選択し、「配信として追加」をクリック、配信を除外するリストは「除外として追加」をクリック
- 「アップロード」をクリック
Facebookダイナミック広告
Facebookダイナミック広告とは、FacebookやInstagram上で配信できる広告フォーマットです。
ステップ1. リスト作成
- 広告マネージャから「オーディエンス」に移動
- 「オーディエンスを作成」をクリック
- 「カスタムオーディエンスを作成」から「ウェブサイトトラフィック」をクリック
- 対象となるオーディエンスユーザーを入力し、「オーディエンスを作成」をクリック
ステップ2. キャンペーン作成
- 広告マネージャにある「作成する」をクリック
- キャンペーン目的では「コンバージョン」を選択
- キャンペーン名は「RT_リターゲティング」に設定
ステップ3. 広告セット作成
- 「広告セット名」を入力
- コンバージョンにある「ウェブサイト」に、マイクロCVを設定
- オーディエンス設定:
- カスタムオーディエンスに作成したリストを設定
- 地域は「日本」を選択
- 年齢・性別・言語はペルソナをイメージして入力
- 予算と掲載期間にある広告配信の最適化では「コンバージョン」を選択
- コストコントロールの平均単価は、目標CPAの1/3〜1/5を目安に設定
- 1日の予算は5,000〜10,000円程度
- コンバージョンウィンドウは変更なし
ステップ4. 広告作成
- 「広告名」を入力
- 形式は「1件の画像または動画」を選択
- メディアで1,080×1,080pxの画像をアップロード
- リンク設定:
- 「テキスト」に、広告文を入力
- 誘導したい「ウェブサイトのURL」を入力
- 広告の「見出し」を入力
まとめ
リターゲティング広告は、ユーザーの行動データを活用し、購入意欲の高い見込み顧客へ効率的にアプローチできる点が大きな強みです。ECサイトでは、多くのユーザーが初回訪問では購入に至らず離脱する傾向にあるため、再接触の機会をつくるリターゲティング広告は非常に有効な施策といえます。
運用時は、購入済みユーザーの除外設定や、フリークエンシーキャップによる広告疲れの防止が欠かせません。さらに、離脱ポイントに合わせた配信戦略や適切な配信タイミングの設定、利益率を踏まえた予算配分を行うことで、リターゲティング広告の効果をより高めることができます。
リターゲティングに関するよくある質問
リタゲとは?
リタゲとは「リターゲティング」の略で、一度ウェブサイトを訪れたユーザーに対して、再度広告を配信する仕組みを指します。
リターゲティングに使用できるプラットフォームは?
- Google広告
- Yahoo!広告
- FacebookおよびInstagram
- TikTok
- Pinterest など
リターゲティングの費用はどのくらい?
リターゲティングの費用は利用する媒体や課金方式によって変わりますが、おおよその相場は1か月数十万円です。
リターゲティングでROIは向上する?
はい。リターゲティングは、ウェブサイトや商品ページなどを閲覧したユーザーに絞って広告を配信できるため、通常の広告よりもコンバージョン率が高まりやすく、ROI向上が期待できます。
文:Momo Hidaka





