EC事業では、日々の取引や売り上げを正確に記録する帳簿付けも欠かせない業務です。帳簿の作成は、事業の収支を把握するだけでなく、確定申告や税務対応にも直結します。
本記事では、ネットショップ事業者が知っておくべき帳簿のつけ方を解説します。この記事を参考に、確定申告に備えて売り上げや経費を正しく管理しましょう。
ネットショップの帳簿付けとは

ネットショップの帳簿付けとは、ネットショップで発生する売り上げや経費などを記録・整理する作業です。帳簿作成は、個人事業主や法人などすべての事業主に義務付けられています。また、事業の安定運営や成長に欠かせない基本業務で、次のような役割を担います。
- 収支の流れを把握し、事業の利益率を確認できる
- 確定申告や税務対応の基盤となる
- 経営状況を数値で可視化でき、資金繰りや経営判断に活かせる
ネットショップの帳簿付けの特徴

複数の決済手段への対応が必要
ネットショップでは、クレジットカード、電子マネー、銀行振り込みなど複数の決済方法に対応する必要があります。それぞれ手数料の発生タイミングや入金サイクルが異なるため、それぞれに合った記帳ルールを理解し、正確に処理することが重要です。
たとえば、クレジットカード決済では、売り上げは決済確定日で計上し、手数料は経費として分けて記録する必要があります。処理を誤ると実際のキャッシュフローとズレが生じることがあります。
販売プラットフォームごとの管理が必要
楽天市場、Amazon(アマゾン)、Yahoo!ショッピングなど、複数の販売チャネルを利用している場合は、それぞれの取引内容を個別に管理する必要があります。販売プラットフォームごとに売り上げや経費を整理することで、チャネル別の収益性を正確に把握できます。
また、手数料の体系や返金処理のルールも各プラットフォームで異なるため、帳簿上の取り扱いにも注意が必要です。
取引データが膨大
ネットショップでは、注文・決済・配送・返品など、日々多くの取引が発生します。さらに、そのひとつひとつに、決済手数料、送料、梱包費などの経費が紐づくため、データの整理と記帳には高い正確性が求められます。
ネットショップの帳簿の種類

ネットショップ事業の帳簿は複数の種類があります。以下は主な帳簿とその役割の一覧です。
- 仕訳帳:すべての取引を発生順に記録し、借方と貸方に分類して記入する基本の帳簿です。
- 総勘定元帳:仕訳帳の内容を勘定科目ごとにまとめた帳簿です。売り上げや経費などの科目別に取引を把握できます。
- 現金出納帳:現金の出入りを記録する帳簿です。日付、金額、内容、残高などを管理します。
- 預金出納帳:銀行口座の入出金を記録します。振込やクレジット決済など、現金以外の取引に対応します。
- 売掛帳:販売済みだが、未入金の売り上げ(売掛金)を管理するための帳簿です。
- 買掛帳:仕入れなどで未払いの支出(買掛金)を記録します。支払い予定の管理に役立ちます。
- 経費帳:日常的な経費を勘定科目ごとに記録します。
- 固定資産台帳:減価償却が必要な資産を管理する帳簿です。
ネットショップの帳簿付けでよく使う勘定科目

仕訳では、取引内容に応じて適切な勘定科目を使い分けることが重要です。以下は、ネットショップ事業でよく使われる主要な勘定科目の一覧です。
- 売上高:ネットショップで商品を販売した際に発生する収益
- 売上原価:商品の仕入額や在庫の増減を反映した原価計算
- 地代家賃:倉庫や事務所の家賃、レンタルスペースの使用料など
- 荷造運賃:商品の梱包資材費や配送料、宅配便の運賃など
- 広告宣伝費:ネット広告(SNS、検索連動型など)や販促物の制作費用
- 通信費:インターネット回線、電話、レンタルサーバー費などの通信関連コスト
- 消耗品費:段ボール、テープ、ラベル、文房具などの使い切り型資材
- 外注費:ウェブ制作やシステム開発、デザイン業務などの外部委託費用
- 水道光熱費:オフィスや倉庫の電気・水道・ガスの使用料
- 旅費交通費:仕入先訪問や打ち合わせ等で発生する交通費や宿泊費
- 福利厚生費:社員向けのドリンクサービスや社内イベントなどの費用
- 接待交際費:取引先との食事や贈り物など、関係維持のための費用
- 減価償却費:PC、備品、車両など長期使用資産の減価償却に関わる費用
- 租税公課:事業活動に関する税金
- 支払手数料:クレジット決済手数料や借入金の利息
- 損害保険料:火災保険や商品補償などの事業用保険料
- 貸倒損失(貸倒金):未回収の売掛金などの損失処理
- 雑費:ほかの科目に当てはまらない細かな支出
ネットショップ帳簿のつけ方の種類
帳簿のつけ方には単式簿記と複式簿記の2つがあります。
単式簿記
単式簿記とは、1つの取引につき1つの記録だけを行う記帳方法です。「いくら使ったか」「いくら受け取ったか」といったお金の出入りだけに注目して記録するため、特別な会計知識がなくても帳簿をつけやすいのが特徴です。
たとえば、現金残高が20,000円の状態で、8,000円の仕入れと12,000円の売り上げが発生した場合、以下のように記録します。

お金の増減を記録するだけなので操作は簡単ですが、在庫の動きや未収金・未払金などの情報は記録できないという限界もあります。また、青色申告の事前申請をしていても、単式簿記で帳簿をつけると受けられる控除は最大10万円にとどまるため、事業が成長するにつれて複式簿記への移行を検討することも大切です。
複式簿記
複式簿記とは、1つの取引を借方(左側)と貸方(右側)から記録する会計方法です。たとえば、商品を売って現金を受け取った場合には、売り上げが増えたという収益の発生(貸方)と、現金が増えたという資産の増加(借方)の両方を帳簿に記録します。
15,000円の商品を現金で販売した場合は、以下のように仕訳します。

同じ商品を銀行振り込みで販売した場合は、次のように記録します。

取引の原因と結果をセットで記録することで、事業全体の財務状況を正確に把握できます。貸借対照表や損益計算書といった財務諸表の作成にも対応できるため、経営分析や金融機関とのやり取りなど、将来的な事業展開にも有効です。
一方で、複式簿記は単式簿記よりも記録のルールが複雑で、簿記の知識や会計ソフトの活用が必要になる場面もあります。
ネットショップ帳簿のつけ方

1. 領収書などの収支の証拠書類を整理する
最初に通帳や領収書、レシートなど、取引の記録となる書類を整理します。これらは帳簿の記入内容を裏付ける証拠となるため、日々の管理が重要です。
領収書や請求書は、取引ごとにまとめて日付順や費目別に分類して保管すると、記帳作業がスムーズになります。散らかった状態では、何の支出かわからなかったり、金額の根拠が不明となったりします。
また、ネットバンキングやオンライン決済の取引履歴も、帳簿作成に欠かせない資料です。定期的にデータを保存し、紙の通帳と同様に管理しておきましょう。
2. 売り上げや支出を帳簿に記録する
整理した書類をもとに、売り上げや支出などの取引内容を帳簿に記録します。日付、取引相手、金額、内容といった基本情報を正確に入力しましょう。記載漏れや誤入力があると、後々の申告や帳簿チェックに支障をきたす可能性があります。
3. 毎月の取引を締めて内容を確認する
帳簿への記録が終わったら、月末に取引内容の確認と集計を行う締め作業を行います。売り上げや経費などが正しく記録されているかをチェックします。あわせて、月ごとの損益を算出し、経営状況を把握します。
月次で締め処理を行うメリットは次の通りです。
- 翌月以降の予算や資金繰りの計画が立てやすくなる
- 記帳ミスや記載漏れを早期に発見できる
- 確定申告や決算準備がスムーズになる
ネットショップの帳簿付けを効率よくする方法

会計ソフトで記帳作業を自動化する
freee(フリー)などの会計ソフトを導入すれば、取引内容をもとに自動で仕訳を行い、売り上げや支出のデータを集計し、決算書類の作成まで自動化できます。これにより、面倒な手作業を減らすことができ、入力ミスや集計ミスのリスクも軽減されます。
取引データを定期的に見直す
帳簿の正確性を保つには、定期的な確認が不可欠です。売り上げや経費の記入ミス、仕訳の誤り、計上漏れなどは、後でまとめて見直すと発見が遅れがちです。週ごとや月ごとにチェックの時間を設けることで、早めに修正でき、帳簿の精度が保たれます。
受注管理システムを活用する
受注管理システムを使うと、自社ECサイトやマーケットプレイスなど複数の販売チャネルからの注文データを一元管理できます。各チャネルの売上情報をまとめて帳簿に反映できるため、集計作業もスムーズになります。
専門家の力を借りる
帳簿付けや税務に不安がある場合は、専門家のサポートを活用することで、正確性と効率が大きく向上します。
- 税理士:確定申告や決算の代行、節税のアドバイスなどを専門的に対応してくれます。
- 青色申告会:事業者の納税を支援する団体で、青色申告に関する手続きや帳簿の書き方など、実務的なサポートを受けられます。
- 商工会・商工会議所:地域の事業者を支援する公的機関で、帳簿や税金に関する無料相談を行っている場合があります。
- 経理代行サービス:日々の帳簿管理から決算、申告サポートまでを一括で依頼できるサービスです。
ネットショップの帳簿付けで注意すべきポイント

減価償却
減価償却とは、高額な資産の購入費用を耐用年数に応じて分割し、毎年の経費として計上する仕組みです。
ネットショップの運営では、パソコンや撮影機材、什器などを購入することがありますが、一定額を超える資産はその年に全額を経費にできず、減価償却によって数年にわたり段階的に処理する必要があります。
たとえば、青色申告をしている個人事業主であれば、10万円以上の資産は原則として減価償却の対象となります。ただし、30万円未満の少額資産については「少額減価償却資産の特例」により一括で経費計上が可能な場合もあります。
減価償却は、経費を正確に計上できるだけでなく節税にもつながるため、しっかりと理解して行うようにしましょう。
インボイス制度
2023年10月に導入されたインボイス制度(適格請求書等保存方式)は、消費税の仕入税額控除に関わる制度であるため、ネットショップの帳簿のつけ方にも関連します。
ネットショップ事業者としてインボイス制度に対応するためには、以下のポイントを押さえておく必要があります。
たとえば、B2Bでの取引がある場合、インボイスを発行できないと取引を断られるリスクもあります。売り上げが年間1,000万円以下の免税事業者は、登録するかどうかを選択できますが、未登録のままだと仕入先や顧客側にとって不利になる場面が出てくる可能性があります。
電子帳簿保存法
電子帳簿保存法は、帳簿や請求書などの税務書類を電子データのまま保存できるよう定めた法律です。ネットショップ運営では、請求書や領収書をPDFやメールで受け取る電子取引が一般的です。こうした取引は、紙に印刷して保存することが認められておらず、電子データとしての保存が義務付けられています。
保存には、以下のような条件を満たす必要があります。
- 改ざん防止の措置(タイムスタンプの付与、ログの記録など)
- 検索機能の確保(日付・金額・取引先名などで検索可能な形式)
- パソコン画面での表示・印刷が可能な状態での保存
まとめ
取引件数の多さや決済手段の多様化により、仕訳が煩雑になりやすいのがネットショップの帳簿付けの特徴です。ネットショップの取引を正確に記録して事業を安定して続けていくためには、帳簿のつけ方をしっかりと身につけることが大切です。
売り上げや経費の管理は、確定申告や税務対応だけでなく日々の経営判断の基盤にもなるため、会計ソフトや受注管理システムを活用し、作業の効率化を図るのもおすすめです。
この記事を参考にネットショップの帳簿のつけ方を理解し、帳簿管理を面倒な義務としてではなく、事業成長を支えるツールとして捉えて、売上アップや継続的な経営につなげましょう。
よくある質問
ネットショップの帳簿のつけ方は?
ネットショップの帳簿付けは、以下のステップで進めるのが基本です。
- 領収書などの証拠書類を整理する
- 売り上げや支出を帳簿に記録する
- 月末に取引を締めて内容を確認する
これらの作業を正しく行うためには、単式簿記と複式簿記の違い、インボイス制度の概要、帳簿の種類と役割など、基本的な会計知識を理解しておくことが大切です。
ネットショップの販売手数料の勘定科目は?
ネットショップの販売手数料の勘定科目は、支払手数料です。
ネットショップに会計ソフトは必要?
効率的な帳簿付けを行う上で、会計ソフトの導入はおすすめです。
ネットショップでは、売り上げ・仕入れ・決済手数料など取引が多岐にわたり、仕訳が煩雑になりがちです。会計ソフトを使えば、取引内容を自動で仕訳し、帳簿や決算書の作成までスムーズに行えます。
ネットショップは電子帳簿保存法に従う必要がある?
ネットショップを運営する事業者は、電子帳簿保存法に従う必要があります。注文や請求、領収書のやり取りがメールや管理システム上で行われるネットショップでは、電子取引に該当するデータ(PDFの請求書や取引メールなど)が多く発生します。電子帳簿保存法では、こうした電子データを紙に印刷して保存することは原則認められておらず、一定のルールに従って電子のまま保管することが義務づけられています。
文:Hisato Zukeran





