業務委託は、業務の簡素化や事業拡大、本業への集中など、さまざまな目的で活用される手法です。外部の専門リソースを上手に取り入れることで、自社の負担を抑えつつ、生産性や売り上げの最大化を図れる可能性が高まります。
本記事では、業務委託の基本情報をはじめ、そのメリット・デメリット、さらにEC事業で委託できる主な業務の種類について解説します。業務委託契約までの流れも紹介するので、業務委託を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
業務委託とは

業務委託とは、自社の業務を外部の企業や専門家、個人事業主に任せる事業形態のことです。委託先は、業務の遂行や成果物の完成に応じて報酬を受け取ります。
専門的なスキルや知識を柔軟に活用できるため、自社内に専門部署がなくても質の高い業務を実行でき、効率向上やコスト削減などが期待できます。
業務委託は主に次の3つに分類され、これらを総称して「業務委託契約」と呼びます。
- 請負:成果物の完成を目的とした契約。成果物が納品されて初めて報酬が発生する(例:ロゴ、記事制作、配達業務)
- 委任:業務遂行を目的とした契約で、法律行為を伴う業務が対象(例:弁護士に手続き業務を依頼)
- 準委任:業務遂行を目的とした契約で、法律行為以外の業務が対象(例:コンサルティング業務、事務代行)
業務委託とアルバイトの違い
業務委託とアルバイトの主な違いは「指揮命令の有無」と「労働法による保護の有無」です。
業務委託の場合、基本的に受託者と委託者は対等の立場であり、企業から指揮命令を受けることはありません。あくまで「取引相手」として契約し、受託者は自らの裁量と責任に基づいて業務を遂行します。また、労働基準法は適用されず、労働時間管理や健康管理、作業環境の整備なども自ら行う必要があります。
一方、アルバイトは雇用契約に基づき、会社からの指示を受けて業務を行います。企業と労働者は主従関係となり、その対価として給与が支払われます。そのため、労働基準法が適用され、休日・残業代・休憩・最低賃金などの保護を受けられます。労災保険や社会保険の適用対象になることも業務委託との違いになります。
業務委託がなぜ注目されるのか

近年、深刻な人材不足や働き方の多様化が進んでいることから、業務委託を活用する企業が増えています。必要な業務だけを外部の専門家へ柔軟に依頼できるため、固定人件費を抑えながら、質の高いスキルやノウハウを確保できる点が大きな魅力です。
また、従来は出社が前提だった領域でも、テレワークの普及によってフリーランスや副業の人材が増加しており、限られたリソースを本業へ集中させたい企業が戦略的に活用しやすくなってきているため、業務委託への注目が高まっています。
業務委託のメリット

- 大幅なコスト削減:運営コストや固定費を抑え、財務の健全性を高められる。正社員やアルバイトを雇用した場合に発生する社会保険料・教育コスト・設備費などの固定費を大きく削減でき、必要なときだけ専門家を活用できるため、費用対効果が高まり、より持続可能な運営が可能となる
- 専門的な人材を外部から確保:自社にないスキルを即戦力として取り入れられる。システム開発やマーケティングなど専門分野のプロに依頼することで、質の高い成果物や高度な提案を得られ、業務に新しい視点や技術を取り入れることが可能になる
- 重要な業務に集中できる:収益に直結しないような業務を外部に委託することで、重要な業務へのリソース配分が最適化されるため、企業としての競争力や成長スピードが向上する
- 業務効率の向上:専門領域に特化した委託先を選ぶことで、業務の品質とスピードが大幅に向上し、社内でのミスが減り、全体の業務効率が向上する
- 組織の柔軟性の向上:必要に応じて規模の拡大・縮小が可能。長期雇用の負担を抱えることなく、必要な期間だけ外部リソースを確保できるため、市場変化にスピーディーに対応できる
- 事務負担の軽減:雇用契約と異なり、受託者のために企業が源泉徴収や社会保険の計算・納付を行う必要がない。そのため、管理業務の負担を大幅に減らせる
業務委託のデメリット

- コミュニケーションの障壁:委託先とは別組織であるため、業務内容のすり合わせや進行管理に一定の手間が発生する。雇用関係とは異なるため指示が「指揮命令」にならないよう注意が必要
- 品質管理の確保:依頼先のスキル・経験・管理体制によって成果物の品質が大きく変わる。社内のように細かく管理しにくいため、クオリティ確保には契約内容やコミュニケーション体制が重要となる
- 情報漏えいのリスクが高まる:社外の人間が社内情報へアクセスするため、情報管理体制が不十分だと情報漏えいのリスクが高まる。業務委託契約書で守秘義務やデータ管理方法などを明確にする必要がある
- 社内にノウハウが蓄積しない:スキルや知識が社内に残りにくくなる。依存度が高くなると、委託先の変更時に対応が難しくなるほか、社内人材の育成が進みにくい
- 専門性の高い業務は報酬が高額になりやすい:高度な専門スキルを必要とする業務は、委託費用が高くなる傾向にある。短期的には雇用より安く見えても、案件ごとの費用が積み重なると結果的に高コストになるケースもある
- 委託先が見つからない場合がある:業務内容や専門性によっては、適切なスキルを持つ委託先が見つからなかったり、希望する条件で受託してもらえなかったりする場合がある
EC事業の業務委託の種類

ECサイトの構築
ECサイトの構築には、デザイン、UI/UX設計、商品ページの作成、決済・在庫システムの設定など、多岐にわたる専門スキルが必要です。これらを自社で一から習得して構築するには時間とコストがかかるため、ECサイト制作に精通した外部の専門業者に委託するのが効率的です。
プロに依頼することで、短期間で質の高いサイトを公開できるだけでなく、SEO対策やコンバージョン率の改善など、売上向上につながる要素も組み込んでもらえるメリットがあります。
ECサイトの運用
ECサイト運用の委託範囲は広く、在庫管理や発送業務、顧客からの問い合わせ対応、サイトの保守・メンテナンス、トラブル発生時の対応など多岐にわたります。これらの業務を外部に任せることで、EC運営に必要な専門スキルや人員を自社で抱えていなくても、スムーズにビジネスを展開できます。日々の運営業務にかかる負担を軽減し、商品開発やマーケティング活動にリソースを集中できる点も大きなメリットです。
コンサルティング
ECサイトで売り上げを最大化させるために、専門のコンサルティング会社へ業務委託することもできます。市場分析や競合調査をはじめ、販売戦略の立案、必要な予算の試算、実行スケジュール策定、リソース配分など、提供されるサービスは会社によってさまざまです。
近年はEC市場の競争が非常に激しく、専門性の高い知識や最新のノウハウなしでは成果が出にくい状況です。そのため、一般的なコンサルティングよりもEC運営に特化したコンサルティング会社を選ぶことが重要です。委託先のレベルや実績によって施策の質が大きく変わり、事業全体の成果にも影響するため、慎重な選定が求められます。
集客やマーケティング
SNS運用やウェブ広告運用など、集客やマーケティング業務を外部に委託することができます。Instagram(インスタグラム)やX、TikTok(ティックトック)、YouTube(ユーチューブ)などのSNS運用から、リスティング広告、ディスプレイ広告、SNS広告など幅広い施策に対応できます。
委託先は、アクセス解析や顧客データの分析をもとに、効果的な施策の提案や実行まで一貫してサポートしてくれることが一般的です。これにより、専門的なマーケティングスキルのある人材を社内に持たなくても、効率的かつ戦略的に顧客獲得につなげることができます。
業務委託契約の流れ5ステップ

1. 業務委託する内容・期間・予算を検討する
業務委託する際は、どの業務を委託するのか明確にします。自社の課題を解決するためか、事業拡大のためかなど、委託の目的を整理することが重要です。あわせて、委託期間や予算の上限、求める成果の範囲も事前に決めておきましょう。
2. 委託先の選定をする
内容・期間・予算が固まったら、委託先候補を探します。専門企業に依頼するのか、個人のプロに依頼するのかは、業務量や求める質によって変わります。
委託先を選ぶ際は、スキルや実績、得意領域、対応スピードなどを確認し、複数の候補と比較して費用対効果の高いパートナーを選ぶことがポイントです。
3. 業務委託の条件を交渉する
契約締結前に、委託業務の範囲、納期、中途解約の条件など、認識のズレが生じやすい部分を明確にします。双方が納得したうえで合意できる条件をすり合わせておくことで、契約後のトラブル防止につながります。
4. 業務委託契約書を作成する
合意した条件をもとに、業務委託契約書を作成します。主に以下の6項目を記載します。
- 委託する業務内容
- 指揮命令の関係(雇用契約でないことを明確化)
- 報酬の金額・支払い方法
- 契約の解除条件
- 成果物の権利(著作権など)
- 損害賠償の範囲
特に報酬に関しては、「支払いタイミング」「消費税の扱い」「諸費用の負担」「支払い方法」「各種手数料の負担」に関して細かく決めておくことが重要です。
5. 業務委託契約を締結する
契約内容に双方が納得できたら、正式に契約を締結します。契約書を取り交わした時点で業務委託がスタートします。
まとめ
業務委託は、現代のビジネス戦略において欠かせない手法のひとつです。自社だけでは補いきれない専門知識を活用しながら、コスト削減や業務効率化を実現できるため、多くの企業が導入しています。
EC事業では、サイト構築から運営、集客、さらにはコンサルティングまで幅広い業務を外部に委託できます。これにより、ECに関する専門知識やスキルがなくても、比較的容易に事業へ参入することが可能です。
ただし、業務委託は委託先のレベルや得意分野によって成果が大きく変わるため、目的や求めるスキルに合ったパートナーを選ぶことが極めて重要です。適切な委託先を見極めることで、事業の成長スピードや効率性を大きく高められます。
業務委託に関するよくある質問
業務委託の意味は?
業務委託の意味は、自社業務の一部を外部の企業や個人に依頼することです。
業務委託と個人事業主の違いは?
業務委託は契約形態で、個人事業主は税法上の事業者区分です。
業務委託はやめたほうがいい?
業務委託は福利厚生がなく収入も不安定なため「やめたほうがいい」といわれますが、自由な働き方をしたい、スキルを活かしたい、高収入を目指したい場合は業務委託を受ける選択肢も十分あります。
業務委託費用とは?
業務委託費用とは、外部の企業または個人に一部の事業を委託する際にかかる費用です。
文:Momo Hidaka





