2025年のJUAS(一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会)の調査によると、国内のAI導入企業は2025年時点で41.2%に上り、前年の26.9%から大きく増加しています。このように、AIのビジネス利用は着実に進んでいます。
なかでもEC事業は、すべてがオンライン上で完結するためAIを活用できる場面が多く、相性が良い分野といえるでしょう。
本記事では、eコマースにおけるAIの活用方法を10個紹介します。それぞれのメリットや注意点も解説しますので、ぜひ参考にしてください。
AIをeコマースに活用するアイデア10選

1. 顧客体験のパーソナライズ
AIをeコマースに活用する代表的なアイデアの一つはパーソナライゼーションです。顧客の購買履歴や閲覧履歴、年齢・地域といったデータを分析し、個々のユーザーに最適化された商品レコメンドを提示するなど、AIを使うことでより高度なパーソナライズドマーケティングが行えます。従来のパーソナライズドマーケティングでは「同じカテゴリ」「同価格帯」などあらかじめ設定した人為的なルールに基づいていましたが、AIは独自に顧客行動データを分析して次のニーズを予測するのが特徴です。
例えば、過去にスポーツ用品を購入した顧客には、購入履歴だけでなく検索履歴やお気に入り商品、サイト内行動なども加味しておすすめ商品を表示できます。さらに、同様のデータから分析した他のアイテムの嗜好も組み合わせてコーディネート提案をするなど、クロスセルやアップセルにつなげることもできます。
ワイン専門EC「エノテカ」では、価格や色などに関する人為的な条件設定を外してAIに任せた結果、これまで以上に的確な提案が実現し、客単価の向上につながりました。おすすめを「人間が仕掛ける」のではなく、「AIが自然に導く」ことで、思いがけない発見と購買意欲を生んだ事例となっています。
2. 会話型AIと接客サポート
チャットボットやバーチャルアシスタントは、24時間365日の問い合わせ対応を実現するだけでなく、商品探しをサポートしたり、購入プロセスをナビゲートしたりと、接客に近い役割も担うことができます。
例えば「黒のジャケットを探している」と顧客が入力すれば、AIは在庫状況を即時に確認し、類似アイテムや人気商品の提案を行います。AIであれば自然言語を柔軟に理解できるため、従来型のシステムのような条件指定がなくてもスムーズに検索・提案へつなげられる点が強みです。これにより、顧客は疑問を解消しながらスムーズに買い物ができ、企業側は人件費を抑えつつ顧客満足度を高められます。
また、従来のように一問一答で終わるのではなく、会話の履歴を記憶してやり取りを続けられるため、会話が堂々巡りすることを防ぎやすくなります。さらに、会話データを継続的に学習することで、応答の精度を高められる仕組みも備えています。
3. 不正検知とリスク管理
ECサイトにとって、不正注文や決済リスクは大きな課題です。AIは大量のトランザクションデータをリアルタイムに分析し、不自然な購入パターンを検知します。
例えば、短時間に高額な取引が繰り返される、通常とは異なる場所やデバイスからアクセスして大きな注文が行われる、といった違和感のある行動をすぐに識別できます。さらに、機械学習モデルを活用すれば、ユーザーごとの行動履歴や購入傾向をプロファイル化し、普段は小額購入が多い顧客が突然海外から高額商品を注文したり、過去に使っていないIPアドレスからアクセスしたりといった異常も高い精度で検知できます。
クレジットカードの不正利用や大量の架空注文を早期にブロックすることで、金銭的損失やブランドイメージの低下を防げます。また、こうした自動検知は人手による確認作業を大幅に削減し、セキュリティレベル向上と業務効率改善の両立を可能にします。
4. 在庫・需要予測
AIを活用した需要予測では、過去の販売データやセール時期、SNSでの話題性なども分析対象にできます。その結果、発注業務負担を減らすと同時に、在庫を適正に保って売り逃しや廃棄リスクを最小限に抑えられます。
また、AIはさまざまな要因を同時に考慮できるため、「気温が一定以上になると特定の商品が売れる」「SNSで話題になると一気に売り上げが伸びる」といった複雑な動きを反映できます。これにより、より精度の高い在庫・販促計画が実行できるようになります。
例えば、残暑がいつ頃まで続くか外部データを分析して予測し、夏物商品の需要がどのくらい続くかなどを提示してもらえば、販売機会を最大化したり、余剰在庫を最小限に抑えたりできます。
スーパーマーケット大手のライフコーポレーションでは、AIによる需要予測を活用した発注自動化を導入し、最大3週間先までの発注をAIが提案する仕組みを整えました。これにより、発注にかかる作業時間を年間15万時間以上削減するなど、欠品や廃棄ロスの削減だけでなく、従業員がより効率的に働ける環境を実現しています。
5. ダイナミックプライシング
ダイナミックプライシングとは、AIが競合サイトの価格や市場の需要状況をリアルタイムで分析し、自動的に価格を調整する仕組みのことです。これにより、売れる価格を保ちながら、収益最大化が図れます。特に旅行やチケット販売業界で使われる手法ですが、近年は一般的なECサイトにも導入が進んでいます。
セール時期や在庫状況、競合の動向に応じて最適な価格を提示できるため、過剰な値引きを防ぎつつ、売上機会を逃さない戦略的な価格設定が可能になります。また、従来のように担当者が手動で価格調整を繰り返す必要がなくなり、労力や時間を大幅に削減できるのも大きなメリットです。
6. 離脱防止と顧客維持
ECサイトでは、カゴ落ち対策が大きな課題となります。また、既存顧客との長期的な取引関係を維持することも重要です。AIを導入することで、購買頻度や閲覧行動をもとに離脱しやすい顧客を予測し、防止策を講じることができます。
例えば、商品をカートに入れたまま一定時間が経過したユーザーに、自動でポップアップ表示を行ったり、リマインドメールを送信したりできます。さらに、AIは離脱のタイミングや原因を学習し、「決済画面での入力に時間がかかっている」「送料が表示された時点で離脱が増える」といったパターンを把握します。これにより、離脱を未然に防ぐためのUI改善やキャンペーン設計に活用できます。
顧客維持の観点からは、長期間購入がない顧客に対して再訪を促すキャンペーンやパーソナライズされた提案を行うことで、長期的な関係の構築を支援できます。加えて、レビューやSNS上のネガティブなコメントをAIに検知してもらい、早期に対応することによって、不満が解約や解約につながる前に手を打つことも可能です。
7. コンテンツの自動生成
AIは、ECサイトに必要なさまざまなコンテンツを短時間で作成できる強力なツールです。商品説明文やFAQなどの文章をはじめとして、商品の魅力を伝えるキャッチコピー、商品写真の背景画像、SEOに強いブログ記事、SNS投稿用のテキストなどさまざまなコンテンツを生成できます。
コンテンツをAIに生成してもらう大きなメリットは効率化です。大量の商品を扱うECサイトでは、説明文や画像の更新だけでも大きな負担となりますが、AIを使えば作業時間を大幅に短縮し、担当者がクリエイティブな業務に集中できます。加えて、AIは単なる効率化だけでなく「着想のきっかけ」を与える存在でもあります。
例えばキャッチコピーを瞬時に複数案提示し、その中から人間が選択・修正することで、より洗練されたアイデアが生まれます。こうした効率化と発想支援の両面を兼ね備えていることが、AIをコンテンツ制作に取り入れる利点といえます。
8. サイト体験の高度化
AIをeコマースに導入すると、購入率を左右する顧客体験も高度化できます。AIは高精度なサイト内検索を可能にするため、顧客は商品にスムーズにたどり着けるようになります。キーワード入力に加えて画像検索もできれば、ユーザーは手持ちの写真や保存画像をアップロードして似た商品を即座に見つけられるでしょう。
また、音声による注文への取り組みも一部のECチャネルで始まっています。例えば、既存顧客が電話だけで、前回の購買履歴と同内容で再購入できるような事例があります。
さらに、バーチャル試着やARによる商品表示では、店舗に行かずとも服などを自分に当てはめて確認できるため、実店舗に近い感覚の購買体験を提供できます。
多言語対応も体験向上の一つです。AI翻訳をECサイトに導入することで、機械翻訳よりもサイト独自の言い回しやトーンなどを踏襲した翻訳ができ、より自然なサイト体験を提供できます。
9. マーケティング施策の高度化
AIを導入することでeコマースのマーケティングも高度化できます。AIを使えばSNSやレビューサイトに投稿された膨大なデータを解析し、トレンドや消費者インサイトを素早く抽出できます。これにより、広告のターゲティング精度を高め、クリエイティブを自動で最適化することも可能です。
特に、AIは人間の担当者では見過ごしがちな微細かつ理由付けの困難な購買傾向を発見できるため、これまで気づかなかった市場の切り口や訴求ポイントを広告施策に活かせます。
加えて、顧客セグメントごとの購買傾向の把握やパーソナライゼーションにより、メルマガやキャンペーンを的確に届けることが可能になり、コンバージョン率も改善します。
10. フルフィルメント
ECサイト運営においては、物流の効率化が顧客満足度を大きく左右します。AIは配送から倉庫内の業務、さらには返品対応まで、eコマースのフルフィルメント最適化に寄与します。
配送関連
AIは注文データや地域ごとの需要を分析し、最適な配送ルートを導き出します。これにより配送時間を短縮し、輸送コストを削減できます。さらに、ドライバーや配送スタッフの人員割り当ても最適化して、繁忙期や地域ごとの需要に応じた効率的な対応を可能にします。配車計画についてもAIが効率的なスケジュールを提案することで、車両の稼働率を高め、無駄な走行を減らせます。
倉庫関連
倉庫内では、AIによる画像認識が商品のサイズ確認や不良品の検知に役立ちます。ピッキング作業においても、AIは最適なルートを提示したり、スキャニングやカメラを通じて正しい商品を取っているかを即座に確認したりできます。これにより、作業時間を短縮しつつ誤出荷を防止することが可能になり、配送までのリードタイム短縮にも直結します。
その他
返品対応においてもAIの活用が始まっています。顧客とのやり取りから集荷依頼までAIが担うことで、人員配置の効率化や顧客の利便性アップが可能になるだけでなく、返品商品の状態をAIが自動で判定し、再販可能なものを迅速に分類する仕組みもあります。
AIをeコマースに取り入れるメリット

売り上げの増加
AIは大量の顧客データを分析できるため、適切なタイミングで効果的な訴求を可能にするだけでなく、ECサイトの利便性も高め、顧客体験が向上して売り上げ増加につながります。
例えば、楽天ではAIを組み込んだ検索・おすすめシステムにより、サイト内での売上向上に大きく貢献したと報告されています。
サービス品質の向上
AIによるチャットボットやバーチャルアシスタントは人間らしい自然な対話が可能で、24時間の顧客サポートを可能にします。従来のチャットボットのように会話が堂々巡りになることも少なく、質の高いカスタマーサポートを提供できるのも利点です。
資生堂「ワタシプラス」では、LINEやブラウザにチャットボットを導入し、ユーザーがいつでも疑問を解消できるようにすることで売上向上につなげています。
業務効率化とリソースの最適配置
AIを導入することで、発注・在庫管理・メール配信など、さまざまな業務を効率化でき、作業時間の短縮やコスト削減が可能になります。これにより、限られたリソースをより戦略的な領域に配分できます。
例えば、ZOZOはAIを活用して需要予測を行い、商品の供給量を最適化する仕組みを導入しました。販売データやトレンドを分析し、売れ筋商品の在庫不足や過剰在庫を防ぐことで、業務効率を高めつつ、在庫に伴う余分なコストを削減しています。
AIをeコマースに取り入れる際の注意点

データの取り扱いに注意する
AIはパーソナライズされたおすすめや予測を行うために、膨大な消費者データを扱います。また、AIを導入することで、自社が保有する知的財産や機密情報に新たなセキュリティリスクが生じ、想定外の情報漏洩や侵害につながる可能性もあります。
AIをeコマースに導入する際は、セキュリティ対策や導入するAIの安全性についてしっかり検討しましょう。
費用対効果を検討する
AI導入にはインフラ整備、人材確保、システムの維持管理といった多額のコストが発生します。さらに、導入したAIソリューションが必ずしも期待通りの投資収益率(ROI)を生むとは限りません。
そのため、導入前には費用対効果を慎重に検討する必要があります。
カスタマーサービスの品質低下リスクを理解する
チャットボットを中心としたAIのカスタマーサービスは、従来のものより自然で質の高いサポートを提供できますが、人間の担当者のようなきめ細かさや感情面での共感が難しい場合があります。設計や運用が不十分だと、顧客の不満につながり、満足度や信頼を損ねてしまう可能性があります。
カスタマーサポート利用者にアンケートを取るなどして、AIによるサービスの品質をチェックするようにしましょう。
コンプライアンス違反にならないようにする
ECサイトの構築や販促活動をAIに任せきりにすると、人間の確認不足から思わぬコンプライアンス違反が発生する恐れがあります。例えば、AIが生成したキャッチコピーやイラストが著作権を侵害したり、販促キャンペーンの条件が法令に抵触したりするケースが考えられます。
AIが生成したコンテンツなどは必ず人の目でチェックするようにし、法令を遵守しているかどうかも専門家に確認してもらうと良いでしょう。
まとめ
AIをeコマースで活用する取り組みは、すでに多くの企業で成果を上げ、AIの適用範囲は日々拡大しています。AIの活用は、売り上げや顧客満足の向上に直結するだけでなく、業務効率化やコスト削減といった経営基盤の強化にもつながります。一方で、データの取り扱いや初期投資など留意すべき課題もあります。
AIをeコマースに導入したいと考えている事業者は、この記事を参考に、自社にとってどの領域から取り入れるのが最も効果的かを見極め、小さく試してみることから始めてみましょう。
AIのeコマース活用に関するよくある質問
AIはECサイトでどのように使用されている?
AIはECサイトで顧客データを収集・分析し、パーソナライズされたショッピング体験や価格最適化のために活用されています。また、需要と供給の予測、離脱リスクの把握、不正検知、チャットボットやダイナミックプライシングの運用など、顧客データ分析以外にも、業務の自動化や効率化などに幅広く利用されています。
AIを活用したネットショップの成功例は?
ZOZO TOWNはAIをECサイトに導入して、類似アイテム検索やブランド別の購入確率予測機能を実装しています。その結果、顧客の滞在時間が大きく向上し売り上げに貢献しています。
AIはECマーケティングでどのように活用できる?
ECマーケティングでは、AIを使って顧客の新しい購買行動やトレンドをいち早く把握したり、商品説明やキャッチコピーなどのコンテンツをターゲット顧客に合わせて最適化したりできます。
文:Norio Aoki





