顧客との接点がオンライン中心となった今、企業は大量の情報の中から自社の商品やサービスをどのように見つけてもらい、どのように選んでもらうかが問われています。特に、顧客との接触機会を増やし、継続的に信頼を積み上げる仕組みが欠かせません。
そこで注目されているのがインバウンドマーケティングです。本記事では、インバウンドマーケティングとは何か、どのように活用されているのか、企業の事例などを解説します。継続的に顧客を増やしたい方はぜひ参考にしてください。
インバウンドマーケティングとは

インバウンドマーケティングとは、企業が発信する情報やコンテンツを通じて、リードを自然に引き寄せるマーケティング手法です。ブログ、SNS、動画、UGC(ユーザー生成コンテンツ)などを活用し、役立つ情報を提供することで、ユーザーが自らアクセスしてくる導線を生み出します。顧客が必要としたタイミングで商品やサービスの情報に触れられるため、押しつけ感が少ないという特徴があります。
訪日向けインバウンド施策との混同に注意
日本では「インバウンド」が訪日外国人旅行者を指す用語として広く使われていますが、インバウンドマーケティングと、訪日外国人旅行者向けのマーケティングは全く別物です。インバウンドマーケティングは、企業が発信するコンテンツや情報を通じて、見込み顧客を自然に引き寄せるデジタル領域のマーケティング施策を指します。
インバウンドとアウトバウンドマーケティングの違い
インバウンドマーケティングとアウトバウンドマーケティングは、目的、手法、顧客との接点、コンバージョンの考え方が異なります。
インバウンドマーケティング
- 目的:顧客が自ら情報を探す流れに乗って自然に自社へ引き寄せる。
- 主な手法:コンテンツ作成、SEO、SNSでの発信など。
- 顧客との接点:検索やコンテンツ閲覧など、顧客側の行動を起点に接点が生まれる。
- コンバージョンの考え方:価値の提供や信頼関係の構築を通じて、時間をかけて購買につなげる。
アウトバウンドマーケティング
- 目的:企業側から潜在顧客に積極的にアプローチする。
- 主な手法:有料広告、ダイレクトマーケティングなど。
- 顧客との接点:広告配信などを通じて、企業側の行動を起点に接点を作る。
- コンバージョンの考え方:広告による訴求を通じて、顧客にすぐ行動してもらえるよう促す。
インバウンドマーケティングの種類

1. コンテンツマーケティング
コンテンツマーケティングとは、見込み顧客が抱える課題や疑問に答える情報を提供し、自社サイトなどへアクセスしてもらう手法です。ブログ記事、電子書籍、ホワイトペーパーなど、コンテンツの形式は様々ですが、いずれも有益な情報であることが前提になります。
たとえば、商品の選び方、業界の最新動向、課題解決のための手順などを詳しく解説することで、検索結果からの流入やSNSでのシェアが増え、ブランドへの信頼が形成されます。
2. SEOマーケティング
SEOマーケティングとは、検索エンジンで自社のWebページが上位に表示されるよう最適化を行う取り組みです。キーワードに合わせたページ設計、内部リンクの改善、ページ速度の向上、モバイル対応など、多角的な施策を組み合わせて検索で表示されやすいサイトに整えていきます。
たとえば、商品ページのタイトルや説明文を検索キーワードに合わせて最適化したり、画像サイズを圧縮して読み込み速度を改善したりすることで、ユーザーにとって使いやすいページとなり、検索結果でも上位に表示されやすくなります。
3. SNSマーケティング
SNSマーケティングは、XやInstagram、Facebook(フェイスブック)などのSNSプラットフォームを活用し、顧客と継続的な関係を築く手法です。情報発信やユーザーとのコミュニケーションなどを通じて信頼を積み上げます。
たとえば、Instagramでは商品の利用シーンを写真や動画で紹介することで、実際の使用イメージが伝わりやすくなります。また、ユーザーが投稿したレビューや写真をリポストすると、自然な形で認知が広がり、SNS内での信頼性向上にもつながります。
4. メールマーケティング
メールマーケティングは、メルマガ購読者や既存顧客に対して情報やオファーを届け、関係性を深めていく手法です。顧客の属性や行動データに応じて内容をパーソナライズできる点が大きな特徴で、適切なタイミングで適切な情報を届けることで、購買やリピートにつながりやすくなります。
たとえば、新規登録者に対しては最初に知っておくべきポイントなどをまとめたウェルカムメールを配信し、サービスへの理解を促します。また、過去に特定のカテゴリーを閲覧した顧客には、その関心に合わせた商品を紹介したり、カゴ落ちメールを送ったりすることで、購入機会の取りこぼしを防げます。
5. ウェビナー・オンラインイベント
ウェビナーやオンラインイベントは、見込み顧客と直接コミュニケーションを取りながら理解を深めてもらうための手法です。テキストでは伝わりにくい価値を効果的に届けられる点が特徴です。
たとえば、商品の特徴や活用方法を紹介するオンラインセミナーを開催すれば、顧客は疑問点をその場で解消でき、購入前の不安が軽減されます。また、専門家や開発担当者を招いたトークセッションを行えば、製品の背景にあるストーリーや技術的な強みが伝わり、ブランドへの信頼感が高まります。
インバウンドマーケティングの重要性が高まっている背景

広告だけでは顧客に届きにくくなった
Web広告の規模が拡大する一方で、広告だけで顧客から信頼を得ることは難しくなっています。日本インタラクティブ広告協会が行った2025年の意識調査では、ネット広告を「信頼できる」と回答した人は21.6%にとどまり、2021年度の23.1%から低下しています。ネット広告費は右肩上がりで成長しているにも関わらず、その影響力が弱まっていることが分かります。
顧客行動が変化した
スマートフォンの普及により、消費者が検索やSNSで情報収集するのが当たり前になりました。総務省の調査による「情報通信白書 令和7年版」では、日本国内のスマートフォン普及率は2011年の16.2%から、2024年には74.4%まで拡大しています。多くの人が常時ネットに接続されるようになったことで、検索やSNSを通じて積極的に商品やサービス、情報を探そうとする機会は確実に増えています。
企業活動のデジタル化が進んだ
コロナ禍を境に、オンラインで顧客と接点をつくる重要性を多くの企業が強く認識するようになりました。大型イベントへの出展や対面営業の機会が減少し、Webサイトやオンラインツールを中心としたデジタル領域への投資が一気に進んだからです。その結果、企業はデジタル上でどのように潜在顧客と関係を築くかを改めて見直す必要に迫られています。
インバウンドマーケティングを進める4つのステップ

1. 役立つ情報を発信して集客する
最初の段階は、サイトやSNSへアクセスしてもらうことです。以下のような取り組みを通して、まだ商品やサービスを知らない見込み顧客との最初の接点が、役立つ情報源として認識してもらうことを目指します。
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コンテンツの作成:ブログ記事や動画など、ユーザーが抱える疑問・課題に応えるコンテンツを作成します。
SEO対策:検索されやすいキーワードや構造化された見出しを用いて、検索結果でサイトやHPを見つけてもらいやすくします。 - SNSでの発信と対話:X(旧Twitter)やInstagram(インスタグラム)などへ投稿し、コメントやDMを通してユーザーと交流します。
2. 興味を持ったユーザーを問い合わせや登録につなげる
見込み顧客がサイトなどに訪れた後は、顧客の興味や関心を高め、問い合わせやメルマガ会員登録といったコンバージョンにつなげます。すぐ購入につなげるよりも、見込み顧客が「もっと知りたい」と考えたときにスムーズに次の段階へ進める仕組みや、コミュニケーションを継続できる流れを整えることが重要です。CVR(コンバージョン率)を高めるために、以下の様な施策に取り組みます。
- LP(ランディングページ)で関心を深める:必要な情報を整理したページを用意し、次の行動へ進みやすい導線を作ります。
- CTA(行動喚起)を設置する:メールで最新情報を受け取る、無料体験を申し込むなど、行動を促すボタンやリンクを配置します。
- フォームやアンケートでデータを取得する:入力項目を絞って中途離脱を防ぎながら見込み顧客の情報を収集します。
3. 最適な提案で購買へと後押しする
関心をもった見込み顧客に対して、適切なタイミングでニーズに寄り添った提案を行い、購買意思を後押しします。主な施策は次のとおりです。
- パーソナライズしたメール配信:過去の閲覧履歴や問い合わせ内容に応じた情報を届けます。
- キャンペーンや限定オファー:季節に合わせた割引や、特定の条件を満たす方向けの特典を用意します。
- クロスセル・アップセル施策:顧客の検討内容に応じて、関連性の高い商品を追加提案します。
4. 購入後の体験を充実させてファン化を促す
購入後の顧客体験を充実させ、顧客満足度を高めます。こうした取り組みは「また購入したい」「誰かにすすめたい」と感じてもらえるきっかけとなり、リピート購入や口コミ投稿などに直結します。主な施策は次のとおりです。
- 期待を超える品質の提供:商品が手元に届いた瞬間の印象を高め、ブランドへの好意を育てます。
- カスタマーサポートの充実:よくある質問にすぐに回答できる環境を整え、疑問や不安を解消します。
- SNSでの継続的な関係づくり:コメントやDMを通じて顧客の声を拾い、ニーズを理解します。
インバウンドマーケティングを成功させるポイント

1. 顧客の疑問から逆算したコンテンツを作成する
インバウンドマーケティングでは、見込み顧客が抱えている疑問や不安を正確に把握し、それに答える情報を提供することが最も重要です。商品やサービスの紹介から始めるのではなく、まずは購入前に何を知りたいのかといった顧客視点を起点にコンテンツを企画しましょう。
顧客の悩みを特定するには、キーワード検索ツールや競合サイトの分析ツールが役立ちます。ユーザーが実際に検索している語句や、よく読まれているテーマを把握することで、作成すべきコンテンツを客観的に判断できます。
2. 複数の施策を組み合わせる
インバウンドマーケティングでは、複数の施策を連動させることで効果が最大化します。たとえば、ブログ記事で興味を喚起し、SNSで関連情報を発信して接触頻度を高め、さらに興味を示したユーザーにはメールで追加情報や特典を届ける、といった流れです。
複数のマーケティングチャネルを組み合わせることで、見込み顧客との接点が増え、信頼を得やすくなります。その結果、企業の情報に触れる回数が増え、自然と次のアクションへ進む可能性も高まります。
3. 成果を分析して改善を続ける
インバウンドマーケティングは、一度の発信で完結する施策ではなく、データをもとに改善を重ねることで成果が伸びていく取り組みです。GoogleアナリティクスやSNS管理ツールを活用し、検索順位、クリック率(CTR)、ページ滞在時間、離脱率、CVRなどの指標を定期的に確認しましょう。
たとえば、Googleアナリティクスでは「どのページが最も読まれているか」「どのページで離脱が多いか」が分かるため、改善すべきコンテンツを特定できます。タイトルや見出しを検索意図に合わせて調整したり、関連ページからの内部リンクを強化したりすることで改善が期待できます。
インバウンドマーケティングの事例
1. freee株式会社
クラウド会計ソフトを提供するfreee(フリー)株式会社は、自社の見込み顧客である中小企業や個人事業主向けに、オウンドメディア「経営ハッカー」を運営しています。経理や会計管理などに関する専門的な情報を体系的に発信し、検索経由の自然流入を継続的に獲得しています。
2. 株式会社yutori
アパレルD2Cの企画・製造・販売を行う株式会社yutoriは、SNS運用を軸に自社ブランドを大きく成長させてきました。たとえば、同社が展開するブランドのひとつである「9090s」のインスタグラムでは、ブランドアイデンティティに沿った統一感のあるビジュアルを継続的に発信することで、フォロワーを自然に世界観へ引き込み、ファンコミュニティの形成に成功しています。
3. 株式会社クラシコム
株式会社クラシコムが運営するECサイト「北欧、暮らしの道具店」は、インテリアや生活にまつわる記事を継続的に発信することで、多くのファンを獲得し、国内有数のライフスタイルECへと成長した事例です。単に商品を売るための情報を並べるのではなく、快適な暮らしとは何かをテーマにした読み物を提供し続けることで、読みたい・訪れたいメディアとしてユーザーに利用されています。
まとめ
インバウンドマーケティングは、広告の効果が届きにくくなった現代において、見込み顧客との接点を増やし、信頼を積み上げながら購買につなげるための重要な取り組みです。検索やSNS、メール、コンテンツといった複数のチャネルを組み合わせ、顧客の悩みに寄り添った情報提供を続けることで、見込み顧客が自然と集まるオーガニックトラフィックを生み出せます。
また、インバウンドマーケティングは一度の実行で完結するものではなく、データに基づいて改善を続けることで成果が積み上がります。サイトやコンテンツに対するユーザーからの反応を数値化し、常に改善を図ることが大切です。
今日から取り組める施策を少しずつ実行して、有料広告に頼りきらない集客基盤を作りましょう。
よくある質問
インバウンドマーケティングとは?
インバウンドマーケティングとは、検索やSNS、ブログなどを通じて顧客が自ら情報を探すプロセスに合わせて接点をつくり、自然な流れで購買につなげる手法です。広告のように一方的に働きかけるのではなく、顧客が必要とする情報を適切なタイミングで届けることが特徴です。
インバウンドマーケティングを成功させるためには何が必要?
インバウンドマーケティングを成功させるには、顧客の悩みや疑問を正しく理解すること、検索・SNS・メールなど複数チャネルを組み合わせること、データをもとに継続的に改善することの3つが必要です。
インバウンドマーケティングの企業の事例は?
インバウンドマーケティングの事例は以下の3つなどがあります。
- freee株式会社のオウンドメディア「経営ハッカー」
- yutori株式会社の「9090s」ブランド公式インスタグラム
- 株式会社クラシコムのECサイト「北欧、暮らしの道具店」
インバウンドマーケティングとコンテンツマーケティングの違いは?
コンテンツマーケティングは、価値あるコンテンツをつくって届けることに焦点を当てたマーケティング手法です。一方、インバウンドマーケティングは、コンテンツマーケティングに加えて、検索最適化、SNS運用、メール配信、顧客育成などを包括した、より広い概念です。
文:Hisato Zukeran





