オーダーフルフィルメントとは、ECサイトで注文を受けてから在庫の確認、商品のピッキング、梱包、配送、返品対応までを一貫して行うプロセスのことです。オンラインショッピングが一般的になった今、消費者は迅速な配送や無料配送を当然のように求めています。加えて、Recustomer株式会社の調査では、返品率が注文全体の6.61%にのぼる事例も報告されており、事業者の負担は増え続けています。
こうした状況では、ECのフルフィルメントが滞るだけで顧客を失う可能性があります。そのため、受注から配送までの時間をいかに短縮できるかが重要です。
この記事では、オーダーフルフィルメントの仕組みや成功させるポイントを詳しく解説します。フルフィルメントで発生しやすい課題や、外注すべきかの判断ポイントも紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
オーダーフルフィルメントとは

オーダーフルフィルメントとは、商品が注文されてから顧客の手元に届くまでの一連の工程のことです。在庫の保管や管理、商品のピッキングと梱包、配送手配に加えて、場合によっては返品対応も含まれます。こうした業務は顧客満足度に直結する重要な要素です。フルフィルメント業務を最適化することで、適切な在庫管理や正確で遅延のない配送が可能になります。
フルフィルメント業務は手作業でも実施できますが、フルフィルメントシステムや3PL(サードパーティロジスティクス)を導入し、自動化や効率化を進めるのが主流となっています。
オーダーフルフィルメントの3つの種類

1. 自社出荷
自社でピッキング、梱包、発送を行う方法です。futureshopの調査によると、小規模事業者の約70%が自社出荷で対応しています。
メリット
- フルフィルメントサービスの費用がかからない
- 梱包方法や同梱物にこだわることができ、ブランドらしい開封体験を演出しやすい
デメリット
- 作業に時間がかかり、受注量が増えると対応が難しい
- 送料の割引が適用されないケースが多く、配送コストが高くなりやすい
- 誤出荷などの人的ミスが起きやすい
2. ドロップシッピング
ドロップシッピングとは、注文が入ったら仕入先から直接顧客に商品が発送されるビジネスモデルです。事業者は在庫を持たず、ピッキングや梱包に関与しません。卸売業者から商品を仕入れている事業者に適している方法です。
メリット
デメリット
- 梱包のデザインにこだわったり同梱物を入れたりすることが難しく、開封体験を自社で演出しづらい
- 発送まで時間がかかる場合があり、配送遅延が起きる可能性がある
- 信頼できるサプライヤーを見つけにくい場合がある
3. 3PL・フルフィルメントサービス
外部の専門業者が在庫管理からピッキング、梱包、発送までをまとめて代行する方法です。物流業務を手放せるため、受注量が増えてきたEC事業者に向いています。なお、3PLでは物流業務全般を任せることができ、フルフィルメントサービスでは物流に加えて注文処理や決済業務、返品処理も含めて外注できます。
メリット
- 出荷作業を任せられるため、企画やマーケティングといった事業のコア業務に集中できる
- 繁忙期でも人手を追加せずに対応できる
- 自動化ツールや倉庫システムにより、迅速で正確なフルフィルメントを実現できる
- 顧客に近い倉庫を選ぶことで、在庫管理や配送時間を短縮できる
デメリット
- ピッキングや梱包などに手数料が発生する
- カスタム梱包を受け付けない業者もおり、開封体験の演出が難しい場合がある
- 誤出荷が発生した際、顧客対応が複雑になることがある
オーダーフルフィルメントを最適化するメリット

- 業務効率の向上:フルフィルメントプロセスを合理化することでムダを省くことができ、業務スピードが高まるだけでなく業務品質も安定する。
- 顧客満足度の向上:正確で遅延のない配送につながり、顧客満足度が高まりやすくなる。
- 在庫切れ防止:効率的なフルフィルメント体制を整えることで、需要変動が発生した際も過剰在庫や欠品を防ぐことができる。
オーダーフルフィルメントの流れ

オーダーフルフィルメントは、一般的なEC事業者では次のような流れで進みます。
1. 仕入先から在庫を受け取る
フルフィルメントは、メーカーなどの仕入先から商品を入荷するところから始まります。受け取った商品の数量や状態を確認し、在庫管理システムに登録したうえで倉庫に保管します。
2. 顧客が商品を注文する
オンラインストアで商品を選んだ顧客は、そのまま会計へと進んで注文を確定します。会計画面では、正確な送料や発送予定日を提示できるようにしておくことが大切です。
3. 受注処理と決済確認を行う
注文が確定されたら、出荷準備に入れるよう、受注処理を行います。受注処理には、注文データの確認や在庫の引き当て作業、出荷指示などの業務があります。また、決済が完了しているかも確認し、決済済みであれば入金完了メールを顧客に送信します。
4. 商品をピッキング・梱包する
在庫管理システムを確認し、該当する商品をピッキングします。その後、輸送中に破損しないよう適切に梱包し、配送ラベルや返品用の書類など必要なものを同梱します。梱包の際は開封のしやすさや商品の取り出しやすさも考慮することが大切です。近年サステナブルな取り組みが注目されていることを踏まえて、エコパッケージを取り入れている企業も多くあります。
5. 商品を発送する
梱包した荷物を配送業者に引き渡し、顧客が指定した住所へ配送します。配送業者に引き渡したら発送完了メールを送るのが一般的です。この際に追跡番号をお知らせすると、顧客は配送状況を自身で確認できます。
6. 返品を処理する
返品ポリシーを設けている場合、顧客はその内容に従って商品を返品できます。返品が発生した場合は、返送された商品の状態を確認し、再販できるものは商品を在庫に戻し、再販できないものは廃棄します。
オーダーフルフィルメントで発生しやすい課題

季節・イベントによる需要変動
ECサイトでは、イベントやセール時期に注文数が一気に増加することがあります。ブラックフライデーや年末、季節商品が販売される時期などのタイミングでは、通常の数倍の注文が入るケースも珍しくありません。
こうした需要変動により在庫量を適切に管理することが難しく、需要が高まる時期に欠品が発生してしまうケースもあります。販売機会の損失につながるだけでなく、顧客が離れてしまう要因にもなるため、需要予測AIツールなどを活用し、適切な在庫計画を立てることが重要です。
また、時期によって作業量が大きく変動すると、通常のスタッフ数では対応しきれず、配送遅延が発生する恐れがあります。注文が集中する期間だけフルフィルメントを外部に委託することも検討してみるとよいでしょう。
在庫管理の複雑化
扱う商品数が多い、もしくは拠点が複数あると、在庫管理が複雑になりがちです。処理が追い付かなくなると在庫数の反映が遅れたり、入荷や出荷の処理にミスが発生したりして、欠品や過剰在庫を招く恐れがあります。
こうしたミスを防ぐためには、作業フローを見直し、在庫管理システムなどを使って情報をその都度更新できる状態にしておくことが必要です。
サプライチェーンの混乱
労働力不足や天候不良、政治的な影響など、外部要因によってサプライチェーンが乱れることも珍しくありません。ニッセイ基礎研究所と三菱地所リアルエステートサービス株式会社の調査では、「物流の2024年問題の影響」として荷主企業の47%が「荷物が運べない、配送遅延」を挙げており、約83%が何らかの対策を講じていると回答しています。
在庫を顧客の近くに配置したり、複数の配送ルートを確保したりといった備えが必要になるでしょう。どうしても遅延が避けられない場合は、できるだけ早い段階で顧客に状況を伝えることが大切です。
ピッキング・梱包ミス
さまざまな商品を扱うECでは、ピッキングや梱包が複雑になりがちです。そこに需要変動や人手不足も加わることで、作業負担が大きくなり、人的ミスが発生しやすくなります。商品の入れ間違えなどのミスは、クレームや返品対応につながるだけでなく、再発送の手間やコスト増加の原因にもなります。
ミスを防ぐには、バーコード管理の導入やチェック体制の見直し、作業動線の改善など、確認漏れを減らす仕組みづくりが効果的でしょう。
国際配送に伴う複雑な規制への対応
越境ECを運営している事業者にとって大きな課題となるのが、規制への対応です。各国の輸入規制や配送会社が定める禁制品など、発送できない商品が多岐にわたるため事前調査が欠かせません。また、インボイスなどの通関手続きに必要な書類の作成のほか、米国FDA認証など輸出する商品によっては特別な認証が必要になるケースもあります。
規制は改定されることがあるため、最新情報を把握し、不備がないか事前に確認できる体制を整えておくことが重要です。必要に応じて、越境ECに対応したフルフィルメントサービスや海外倉庫の活用も検討してみましょう。手続きの簡略化だけでなくリードタイムの短縮にもつながります。
返品対応にかかる負担
返品対応は工程が多く、担当者の負担になりやすい業務です。返品された商品を検品し、再販売できるか判断したうえで在庫へ反映し、必要に応じて返金処理も進めなければなりません。こうした工程が増えると、通常業務との両立が難しくなり、処理の遅れや在庫数のズレが発生する原因となります。
返品対応の流れを標準化したり、システムで情報を一元管理したりするなど、返品処理の負担を抑える取り組みが求められます。
個人情報の取り扱い
顧客の氏名や住所、電話番号など、発送に必要な個人情報を日々扱うため、管理が甘いと情報漏えいや誤配送のリスクが高まります。顧客情報やクレジットカード情報が流出してしまった場合、ブランドへの信頼を失うだけでなく、損害賠償として莫大な賠償金を支払うことにもなりかねません。
こうしたトラブルを防ぐためには、アクセス権の管理やデータの暗号化、操作ログの記録といったセキュリティ対策を徹底することが不可欠です。また、事業保険に加入しておくと万一のトラブル発生にも備えられます。
オーダーフルフィルメントを成功させる6つの方法

1. 在庫配置を見直して配送を早くする
オーダーフルフィルメントでは、どれだけ早く商品を顧客に届けられるかがポイントです。顧客に近い倉庫に在庫を置いたり、複数の拠点に在庫を分散したりすることで、発送までの時間を短縮できます。
Shopify(ショッピファイ)を使えば、実店舗と在庫情報を連携させ、受注から配送までの流れを一元管理できます。複数拠点での在庫管理が可能なため、どの拠点から出荷するのが最適かを判断しやすくなり、処理全体をよりスムーズに進められるでしょう。
2. 出荷前に商品を入念に確認する
注文した商品と異なるものが届くと、顧客の手間が増えるだけでなく、ブランドへの信頼も損なわれます。こうしたトラブルを防ぐために、注文内容とピッキング内容を照合する工程を設け、出荷前に誤りがないかを必ず確認しましょう。
梱包そのものも重要です。輸送中に商品が破損しないように、商品に適した緩衝材や梱包方法を選ぶ必要があります。
3. 配送業者との連携を深める
配送業者は、商品の配送を担う重要な存在です。普段から情報共有を行い強固な連携を築いておくことで、顧客満足度の高い配送が実現できます。そのためにも、次のようなポイントを押さえて、円滑なコミュニケーションを心がけましょう。
- 出荷量の見込みを正確に伝える
- 定期的なミーティングを開催し、業務を振り返り改善点を探る
- トラブル発生時の報告体制を整える
4. データを活用して在庫と出荷を管理する
売れ行きや在庫回転率、需要予測、在庫数などのデータを活用することで、在庫切れや過剰在庫を防ぎ、倉庫業務を効率化できます。また、入荷した商品の情報を業務のはじめに整理しておくと、現在の在庫状況を把握しやすくなります。補充作業をまとめて行うタイミングも決めておくと、倉庫内が混雑しづらくなり、作業も滞りなく進むでしょう。
5. ツールを導入して業務を自動化する
業務を正確かつ迅速に行うには、ツールを導入して自動化を進めるのも有効です。フルフィルメントのどの工程でも、ミスが起こる可能性はあります。注文データの入力や伝票の作成など、手作業が多いほどミスが発生するリスクが高まります。
こうしたリスクを減らすためには、次のようなツールが活用できます。
- 受注管理システム(OMS):ECサイトからの受注情報を一元管理できるシステム。在庫情報がリアルタイムで更新されるだけでなく、注文処理から出荷指示までの受注処理を自動化できる。
- 倉庫管理システム(WMS):出荷までのプロセスを最適化できるシステム。ピッキングリストの自動生成や発注書の作成にも対応している。
- 配送管理システム(TMS):配送状況をリアルタイムに追跡できるシステム。配送伝票の発行もできる。
- 返品・交換管理システム(RMS):返品リクエストの処理から返金処理までを自動化できるシステム。
ツールをうまく活用することで、手作業の工程や人的ミスが減り、フルフィルメント業務の正確性やスピードを高められます。
6. 顧客に配送状況を正しく伝える
どれだけフルフィルメント体制を整えていても、配送が遅れることはあります。そのような際は顧客の不安を少しでも減らせるよう、できるだけ早めに状況を共有することが大切です。
特に配送予定日については正確な情報を伝えるようにし、遅延が発生した場合は理由と新しい到着予定日を早い段階で知らせるようにしてください。丁寧なフォローがあれば、遅延が起こったとしても顧客からの信頼を損なわずに済むでしょう。
オーダーフルフィルメントを外注すべきかの判断ポイント

販売規模を把握する
日々の出荷量やピーク時の受注数を確認し、自社だけで出荷作業に対応できる規模なのかを判断します。無理なく処理できる量を明らかに上回っている場合は、フルフィルメント業務の一部またはすべてを外部に委託することを検討しましょう。
自社の物流経験を考慮する
フルフィルメントや物流の経験が十分でない場合は、業務を外部に委託するほうが効率的です。3PLなどのサービスを活用すれば、自社は販売や製造といった本来の業務に集中できます。
また、手書きのメッセージや特別な梱包など、自社で行いたい作業がある場合は、該当の工程だけを自社で担当することも可能です。
顧客の所在地を考慮する
特定の地域からの注文が多い場合は、その近くに倉庫を持つフルフィルメントサービスを活用するとよいでしょう。配送日数を短縮できるだけでなく、送料も抑えられます。
また、在庫を複数の拠点に分散させておけば、配送距離を減らすだけでなく、二酸化炭素排出量の削減にもつながります。
オーダーフルフィルメントサービスを選ぶ際のポイント

フルフィルメントサービスを外部委託する場合は、次のポイントを確認しましょう。
- 経験:ECブランドとの取引実績があるか、ギフトの同梱や顧客の要望に合わせた梱包など柔軟性があるかを確認する。
- 費用対効果:ピッキング料や保管料、配送料などを含めた総コストを把握し、利益が出る価格設計になるかを検討する。
- 技術:受注システムやカートとの連携、在庫管理システムの有無などを確認し、事業の成長に合わせて体制をスムーズに変更できるかどうかを見極める。
- 拠点:複数の倉庫拠点を持ち、顧客に近い倉庫から自動的に出荷できる仕組みがあると、配送料の削減や配送スピードの向上が期待できる。
- 配送スピード:平均的な配送時間や翌日配送に対応できる注文の締め切り時間を確認する。
- カスタマーサポート:誤出荷や遅延などのトラブル発生時にどこまで対応してくれるのか、サポート体制や連絡の取りやすさを事前に確認する。
- コンプライアンス:倉庫管理や出荷工程で適切な労働環境や安全基準を守っているかをチェックする。
まとめ
オーダーフルフィルメントは、商品が注文されてから届くまでの一連のプロセスで、顧客満足度を左右する重要な業務です。EC事業では配送のスピードや正確さに問題があると顧客が離れてしまうことがあります。データを使った在庫管理や顧客の居住地を考慮した在庫配置など、オーダーフルフィルメントを円滑に進めるための仕組みを構築することが、EC事業を成功に導く鍵となるでしょう。
自社でフルフィルメント業務を担う場合は、ツールをうまく活用し業務を自動化することで、人的ミスを減らすことができます。自社だけでオーダーフルフィルメントに対応するのが難しい場合は、3PLやフルフィルメントサービスに任せる方法もあります。どの方法を選ぶにしても、滞りなく対応できる体制を整えることが重要です。
ネットショップ事業で効率的なオーダーフルフィルメント体制を構築したい方は、Shopifyがおすすめです。Shopifyであれば、受注から発送までを一元管理できるほか、複数の店舗や倉庫の在庫をまとめて管理したり、配送料を自動で計算したりすることができます。無料体験も実施していますので、ぜひ一度試してみてください。
オーダーフルフィルメントに関するよくある質問
オーダーフルフィルメントサービスのメリットは?
- 人員を販売や企画などのコア業務に回せる
- ピッキングや梱包の作業負担が減る
- 作業の自動化や一元管理が進んで人的ミスが減る
- 欠品や過剰在庫を防ぎやすくなる
- 専門スタッフによる検品・梱包で品質が安定する
- 正しい商品を早く届けられるため顧客満足度が上がる
- 返品処理の手間を減らせる
オーダーフルフィルメントを成功させるポイントは?
オーダーフルフィルメントを成功させるには、注文処理のスピードと正確さ、倉庫作業の効率化、配送体制の安定が欠かせません。注文処理を自動化したり、倉庫のレイアウトや在庫管理を見直したりすることで、作業のムダやミスを減らせます。配送では信頼できる運送会社を選び、配送状況をリアルタイムで共有する仕組みを整えることが重要です。また、返品対応もわかりやすい仕組みにすることで、顧客の不安を減らせます。
オーダーフルフィルメントの主な工程は?
- 在庫をサプライヤーから受け取る
- 在庫を保管・整理する
- 顧客から注文を受ける
- 商品をピッキング・梱包する
- 顧客へ出荷する
- 返品を処理する
文:Yukihiro Kawata





