情報や物があふれる現代では、ブランドや商品が消費者の目に留まること自体が難しくなっています。そのため、数多くの商品やサービスが並ぶ中で、他より目立ち、選ばれる存在になるには、マーケティングの良し悪しが大きく影響します。
マーケティングの実行指針となるマーケティング計画は、成果につなげるためにとても重要です。本記事では、その作り方や活用できるテンプレートを紹介します。自社のマーケティングを整理し効果的に進めるために、ぜひ参考にしてください。
マーケティング計画とは?

マーケティング計画とは、企業が目標達成に向けて実施するマーケティング活動の実行方法や手順を整理して可視化したものです。ビジネスの目的、市場調査、ターゲット層、活用するチャネル、予算、スケジュールなどを明確にして、売上拡大や顧客獲得といった目標達成につながる実践的な指針として活用します。
マーケティング計画を立てることで、現状と目標を比較しながら進捗を把握し、課題があれば修正しやすくなります。また、役割分担や責任範囲も明確になり、メンバーが共通のゴールに向かって協力しやすい環境が整います。
マーケティング計画とマーケティング戦略の違い
マーケティング計画とマーケティング戦略の違いは、マーケティング計画は「販促やマーケティング活動を実行する手順」を整理したものなのに対し、マーケティング戦略は「ビジネスの方向性」を決めるものである点にあります。
マーケティング戦略は上位の概念であり、「どの市場で、誰に、どのような価値を提供するか」というマーケティングの方向性を定めます。市場分析や競合分析、商品の差別化などの詳細な検討が行われ、経営戦略に近い側面を持ちます。
これに対して、マーケティング計画はマーケティング戦略の内容を「どう実施するか」という具体的な行動を定めるものです。マーケティング計画では、KPI、スケジュール、チームメンバーの役割分担、予算などを具体的に定め、マーケティング戦略を実行可能な業務へと落とし込みます。
両者を区別して捉えることで、経営の大枠と日々のマーケティング施策を一貫させることができます。
効果的なマーケティング計画の作成方法

1. マーケティング戦略を策定する
効果的なマーケティング計画は、まず土台となる戦略づくりから始まります。ここでは、自社の目的や立ち位置を明確にし、「誰に」「何を」「どのように」届けるのかを決めることが重要です。その際には、3C分析やSWOT分析、4P分析などのフレームワークを活用すると、自社の現状や強み弱みを理解して効果的な戦略を策定できます。
たとえば4P分析では、商品・サービスの強み(Product)を把握すればキャッチコピーやコンテンツ制作の基盤になります。価格戦略(Price)はターゲット顧客層の決定に役立ちます。また、流通経路(Place)を整理すれば、チャネルごとの販促施策を検討できます。そして最も重要なプロモーション(Promotion)は、SNSマーケティング、広告、SEO、営業活動など具体的な販促手段や効果的な宣伝方法に直結し、後続の計画(KPI、スケジュール、予算)の土台となります。
2. マーケティング戦略に合わせてKPIを策定する
マーケティング戦略を実行するには、進捗を測る数値指標であるKPIを設定することが欠かせません。KPIは具体的かつ測定可能である必要があり、さらに達成可能性・戦略との関連性・期限を備えることが望まれます。これにより成果を客観的に評価でき、改善の方向性も明確になります。
KPIは施策ごとに設定するのが効果的です。以下に例をあげます。
- 有料広告の獲得リード数:(例)50件/月以上(クリック単価(CPC)400円以下)
- メインサイトのコンバージョン率:(例)3%以上
- 検索順位:(例)目標キーワードで3位以内、オーガニックトラフィックを1万件/月に増加
- 資料請求ボタンのクリック数:(例)100件/月以上
- SNSフォロワー数:(例)Instagramで月間200人のフォロワー増加
- ECサイト会員数:(例)100件/月以上の増加
- 展示会のアポ獲得率:(例)名刺交換数の20%以上
- 顧客満足度アンケートの評価:(例)総合評価で平均4.5以上(5段階評価)
このように施策にひも付いたKPIを設定すれば、日々の活動が最終目標につながるかどうかを確認できます。定期的に数値を見直し、必要に応じて修正することで、計画全体の精度が高まります。
3. マーケティングの行動スケジュールを立てる
戦略とKPIが整ったら、実行に移すための行動スケジュールを作成します。まずは、展示会やイベントなど日程があらかじめ決まっている施策を優先的にスケジュールに落とし込みましょう。そのうえで、ウェブサイトのコンテンツ追加や販促資料の改善といった柔軟に調整できる施策を、効果や重要度に応じてスケジュールに組み込んでいきます。
スケジュールは年間ロードマップから始め、月次・週次へと細分化します。たとえば、春の新生活シーズンを狙う場合は、2月にキャンペーン準備を開始し、3月初旬に情報発信を強化、4月の需要ピークに向けて販売促進を集中させるといった流れを計画します。各施策には開始日と終了日を設定し、さらにKPIを評価する基準日も設定しておくと管理しやすくなります。
最後に、月次レビューや四半期レビューで進捗を確認できる仕組みを作りましょう。これにより、計画の遅れや課題を早めに発見し、柔軟に調整できる実効性の高いスケジュールが完成します。
4. マーケティングのチームメンバーやリーダーを選出する
マーケティング計画を実行するには、誰がどの役割を担うのかを明確にすることが大切です。人材が確保できる場合は各施策のメンバーやリーダーを選出しましょう。役割分担をはっきりさせることで、作業の抜け漏れや重複を防ぎ、チーム全体が同じ方向を向いて進めるようになります。
専門会社に外注するのも有効です。その際は、委託先に自社のビジネスや商品・サービスの強みをしっかり理解してもらうこと、作業を丸投げせず進捗を共有しながら進めることが欠かせません。社内外を問わず、共通認識を持って進めることが成果につながります。
5. マーケティングの予算を決める
マーケティング計画の実施前に、必要な費用の内訳と配分を決定します。主なマーケティング費用の分類は次の通りです。
ツールの導入・運用費
SEO対策ツール、メール配信システムなどのマーケティングツールなどの費用を確認し配分しましょう。特にGoogle広告のように予算に応じて効果が表れるツールは、全体の予算枠をとったうえで、キャンペーンごとの予算配分を細かくチューニングするのがコツです。
コンテンツ制作費
記事や動画、ホワイトペーパー、販促資料などの制作にかかる費用です。顧客の関心を惹きつけ、中長期的に見込み顧客を育成するための基盤となります。
広告出稿費
Web広告やオフライン広告の費用です。短期的に認知度を高めたり、リードを獲得したりする施策に直結します。施策ごとに効果を測定し、優先度の高いチャネルに配分しましょう。
展示会出展費用
BtoBマーケティングで特に重要な費用です。会場費、ブース設営、人員配置などが含まれ、見込み顧客と直接接触できる貴重な機会を提供します。
予算を立てる際は、過去の実績やKPI達成見込みを踏まえて配分を検討します。成果の出ていない施策は削減し、新規施策や改善に回すことで無駄を防ぎましょう。
また、市場環境は変化するため、予算は一度決めたら終わりではなく、定期的にモニタリングして調整する柔軟性も欠かせません。以下のような指標を使って効果を測定しましょう。
-
顧客獲得単価(CPA):施策ごとに顧客を獲得するのにかかった費用を示し、施策の費用対効果が測れます。
計算式:施策にかかった費用 ÷ コンバージョン数 -
広告費用対効果(ROAS):広告費に対する売上回収率を示します。
計算式:広告経由の売り上げ ÷ 広告費 × 100 -
投資利益率(ROI):施策への投資に対して得られる利益率がわかります。
計算式:売上利益 ÷ 施策に投資した費用 × 100 -
リード獲得単価(CPL):リードを1件獲得するのに必要な金額を示します。
計算式:リード獲得にかけた費用 ÷ リード数 -
顧客生涯価値(CLV):顧客が生涯にわたって自社にもたらす利益を示します。
計算式:平均注文額 × 平均購入頻度 × 平均顧客寿命
6. マーケティング計画書を完成させる
これまで検討してきた内容は、必ず文書にまとめましょう。
計画書を作成する目的は大きく4つあります。経営層への説明資料(エグゼクティブサマリー)となること、社内外の関係者で理解を共有できること、文書化によって曖昧さを排除できること、そして施策ごとのアクションプランを明確にすることです。
計画書には、ここまでで決めた以下の項目を整理して記載します。
- マーケティング戦略のサマリー:市場分析やフレームワークの結果を簡潔にまとめ、マーケティング施策につながる方向性を示す
- KPIの設定:マーケティング施策ごとに測定可能な目標を明示し、成果の基準を共有する
- 行動スケジュール:年間ロードマップから月次・週次まで落とし込み、開始日・終了日・KPI評価日を明記する
- チーム体制:メンバーやリーダーの役割を整理し、外部委託先との連携も含めて示す
- 予算配分:ツール導入費、コンテンツ制作費、広告費、展示会費などを分類し、費用対効果の根拠とともに提示する
これらを体系的に文書化することで、計画全体の透明性と実行力が高まり、施策の進捗管理や改善のベースにもなります。
7. マーケティング計画を実行し効果を測定する
計画書が完成したら、いよいよ施策を実行に移します。重要なのは、やりっぱなしにせず、進捗や成果を定期的に確認し、必要に応じて調整することです。PDCAサイクル(計画、実行、評価、改善)を回しながらマーケティング施策をブラッシュアップしていくことで、施策の効果を最大化できます。
効果測定では、施策の目的に応じた指標を使いましょう。たとえば広告施策ならクリック単価を抑えられているか、ウェブサイトの施策ならコンバージョン率が改善しているかが重要な判断基準となります。こうした数値を定期的に記録・分析すれば、次回以降の戦略最適化や予算配分にも役立ちます。
ただし、KPIの達成度だけにとらわれすぎるのは危険です。マーケティング施策は平均的に成果を出し続けるのは難しく、中には短期的に数字が振るわなくても、後に成果につながるものもあります。SNSでの「バズ」などはその代表例です。そのため、マーケティング成功事例なども参考にしながら、担当者の勘や信念も尊重して粘り強く取り組むことも大切です。
マーケティング計画の重要性

目標の明確化と共有
- ゴールを具体化する:マーケティング計画は、「売り上げを増やす」といった抽象的な目標を、「新規リードを○○件獲得」「SNSフォロワーを○○%増加」といった具体的な数値目標(KPI)に落とし込みます。これにより、何を・いつまでに・どのように達成すべきかが明確になります。
- チームの認識を統一する:具体性のある計画を共有することで、部門やチームメンバーが共通の目標に向かって協力できる体制が整います。各施策が連携しやすくなり、相乗効果も期待できます。
効率的なリソース配分
- 無駄な投資を防ぐ:市場や競合を踏まえて計画を立てることで、限られた人材や予算を効果の高い施策に集中できます。思いつきの施策や効果の薄い取り組みに資源を浪費することを防ぎます。
- 優先順位の明確化:短期施策と中長期施策を整理し、優先順位を設定することで、「今すぐ取り組むべきこと」と「将来に向けて準備すべきこと」が明確になります。
客観的な評価と改善
- 効果測定:計画時に設定したKPIを活用すれば、施策の成否を感覚ではなくデータで判断できます。
- PDCAサイクルの実行:計画→実行→評価→改善の流れを繰り返すことで、小さな改善を積み重ねられます。成功要因は他施策に展開し、失敗は次の改善材料とすることで、計画全体の精度が向上します。
顧客理解の深化
- ニーズの把握:計画策定の過程で市場調査や顧客分析を行うことで、ターゲット顧客のニーズや行動特性を把握できます。
- 価値提供の最適化:顧客理解をもとに商品やサービスを改善し、適切なメッセージを届けることで、満足度向上と売上拡大につながります。
変化への対応
市場や顧客の状況は常に変化します。計画は一度立てて終わりではなく、定期的に見直して環境の変化に合わせて更新することが重要です。特にWebマーケティングのようにトレンドの移り変わりが早い分野では、マーケティング計画を使った柔軟な修正が重要になります。
マーケティング計画のテンプレート
マーケティング計画を実際に形にする際は、テンプレートを活用すると便利です。必要な項目を漏れなく整理でき、チーム内での共有もしやすくなります。
以下は、マーケティング計画の簡易テンプレートと、このテンプレートを使用した架空のアパレルショップを題材にしたマーケティング計画の記入例です。
また、マーケティング計画のテンプレートは、Microsoft Office Word、PowerPoint、Excelの標準機能のテンプレート検索で、「マーケティング計画」と入力することでも入手できます。



まとめ
マーケティング計画とは、企業が掲げる目標を達成するための実行手順であり、戦略を具体的な行動へ落とし込む枠組みです。効果的な計画を立てるには、まずマーケティング戦略を策定し、それに基づいてKPIを設定します。そのうえで行動スケジュールを組み、チーム体制や予算を整備し、計画書として文書化することが大切です。
計画は作って終わりではなく、実行後の効果測定を通じて改善を重ねることで精度が高まります。数値目標の達成だけでなく、試行錯誤の中から大きな成果が生まれることもあるため、柔軟な視点を持つことが欠かせません。
マーケティング計画を立てることで、目標の明確化、リソースの効率的な配分、客観的な評価、顧客理解の深化、変化への対応が可能になります。本記事で紹介したテンプレートや記入例も参考にしながら、自社に最適な計画を作成し、着実に実行へとつなげていきましょう。
マーケティング計画のよくある質問
マーケティング戦略とマーケティング計画の違いは?
マーケティング戦略とマーケティング計画の違いは、マーケティング戦略は「どの市場で誰に何を提供するか」という方向性を決めるものなのに対し、マーケティング計画は、その戦略を実際の広告・SNS・キャンペーンなどの行動計画に落とし込むためのものである点にあります。
マーケティングの年間計画の立て方は?
まずは展示会やキャンペーンなど、日程が決まっているイベントを先にスケジュール化します。そのうえで、ウェブサイト改善やSNS発信など調整可能な施策を優先順位づけし、年間のロードマップを作成します。さらに月ごとのタスクやKPI評価日まで落とし込み、定期的に進捗を確認・調整しながら進めます。
マーケティング計画書のテンプレートはある?
MS Word・PowerPoint・Excelの標準のテンプレート検索でマーケティング計画書のテンプレートが見つかります。
また、本記事内にもテンプレートと架空のアパレルショップを題材とした記入例を掲載しています。計画書に盛り込むべき項目や完成イメージの参考にしてください。
マーケティングプランとは?
マーケティングプランとは、企業のマーケティング戦略の目標を達成するための具体的な行動や指針をまとめたものです。マーケティング計画とも呼ばれます。
文:Norio Aoki





