パッケージデザインは、商品の第一印象を決める大切な要素です。魅力的な商品パッケージは、開封体験そのものをブランド戦略の一部として活用できるようにしてくれます。見た目の美しさだけでなく、商品の保護、使いやすさ、ブランドイメージの表現、そして環境への配慮まで、パッケージに求められる条件は多岐にわたります。
この記事では、魅力的で実用的なパッケージをデザインするための7つのステップと、好印象となるパッケージをつくるためのポイントをまとめました。
パッケージデザインの作り方8ステップ

1. 商品の特徴を把握する
パッケージデザインの出発点は、商品の仕様や特性を正確に把握することです。
パッケージの第一の目的は、商品を守る役割を担うことです。そのため、商品の形状や性質を理解していないと、輸送中に破損したり、保存期間が短くなったりする可能性があります。
次のポイントを明確にしておきましょう。
- サイズ:長さ・幅・高さ・重さなど。パッケージの形や輸送方法に影響します。
- 形状:四角い、丸い、細長い、不規則など。適した容器や梱包材が変わります。
- 材質:ガラス、金属、木、布、紙など。素材によって必要な強度や保護の方法が異なります。
- 特性:壊れやすい、防水が必要、温度や湿度に弱いなど。保管や輸送の工夫が必要になります。
- 保存・輸送条件:常温、冷蔵、冷凍の別や、直射日光・湿気への耐性。輸送距離や方法によって求められる強度が変わります。
2. 法的要件を確認する
パッケージには、記載が義務づけられている項目があります。自分の商品が、次のような法的要件にあてはまるかどうか確認し、何を記載する必要があるか理解しましょう。たとえば次のようなルールがあります。
- 表示義務:成分、原材料、製造元、使用期限、保存方法、使用上の注意などをパッケージに記載しなければならない場合があります。
- 包装材・環境関連規制:容器包装リサイクル法やプラスチック資源循環促進法など、使える素材やリサイクル表示のルールがある場合があります。
- 安全規格・マーク:バッテリーに表示するPSEマークなど、製品の安全性を示すマークや認証が必要な場合があります。また、おもちゃの安全を示すSTマークなど、認証をうけて表示することで、安全性をアピールできるマークもあります。
- 禁止表現・誇大広告の規制:薬機法や景品表示法で禁止されている表現がないかを確認します。
- 海外販売時のルール:輸出する場合は、現地の言語表示や輸入規制、環境規制など、国や地域ごとにルールがあるかを確認します。
不明な点があれば、専門家や行政に確認しましょう。
3. ターゲット層を明確にする
商品の特徴だけでなく、「誰に向けたパッケージにするのか」を明確にしておくことも重要です。どんな人に商品を手に取ってほしいのかがわかれば、そのターゲット層に響くパッケージデザインを作ることができます。
「働く20代の男性」「お酒が好きな40代の女性」のように、ペルソナを具体的に設定することで、色づかいや形、メッセージにもストーリーが生まれます。
ここで意識したいのは、商品のターゲットとパッケージのターゲットが必ずしも同じとは限らないという点です。たとえば赤ちゃんの商品は、実際にパッケージを手に取って購入を決めるのは親や祖父母なので、大人が安心できる安全性や品質表示が欠かせません。
4. 競合を調査する
パッケージデザインを決める前に、同じ売り場・同じ価格帯・同じ用途のライバル商品について競合調査を行いましょう。並べて比較されたとき、埋もれない色や形、掲載する情報量を見極めるのが目的です。
競合調査のポイントは次のようなものがあります。
- 現場を見る:実店舗で写真を撮り、棚の中でよく使われている色やサイズ、置き方をまとめる
- SNSやレビューを検索する:競合のパッケージに対するECサイトのレビューを探して、改善点などの参考にする
- 差別化の方向を決める:競合の主流がパステルカラーなら、あえてコントラスト強めの原色にするなど、埋もれないようにするための仮説を立てる
5. 販売場所を想定する
パッケージデザインを考えるときは、商品のターゲット層だけでなく、「どこで売られるか」「どんな場面で使われるか」も意識することが大切です。販売場所や利用シーンが変われば、効果的なデザインの方向性も変わります。主な販売チャネルの条件に合わせたデザインを考えましょう。
- 店頭販売:棚のどの位置に置かれるか、他商品との距離感、照明の明るさを考慮します。レジ横に置く商品は瞬時に目を引く色や形が有効です。
- 専門店:ブランドの世界観や高級感との調和を意識します。
- オンライン販売:画面越しでも質感や色が伝わる写真や、サムネイルでも目立つ構図を用意します。
6. デザインコンセプトを固める
パッケージデザインは、単に色や形を決める作業ではなく、「どんな印象を与えたいか」というコンセプトづくりから始まります。コンセプトが明確になると、色・書体・写真・素材の選び方が一貫し、統一感のある仕上がりになります。
次のようなポイントを検討しましょう。
- 商品がもつストーリー・メッセージの整理:ターゲットにどんなときに手に取ってほしいか
- ブランドらしさの反映:既存ブランドなら、ロゴやコーポレートカラー、フォントなど既存のデザイン資産をどこまで反映させるか
- 商品イメージを形づくるキーワード:「高級感」「親しみやすさ」「ナチュラル」「スタイリッシュ」など、商品によって届けたい印象は何か
まだない場合は、商品の特徴を消費者に端的に伝えるキャッチコピーもつくっておきましょう。
7. デザイン案を作る
コンセプトが固まったら、それをもとに、具体的なデザイン案を作ります。配色、フォント、レイアウト、画像、素材加工など、見た目を構成する要素を総合的に設計しましょう。デザイナーに依頼するのもいいですが、自分でデザイン案をつくる場合、デザインを決める要素と、そのポイントはそれぞれ次があげられます。
配色設計
- 競合と差別化を図る:売り場で目立つ色を選ぶと、消費者の注意をひくことができます。
- 色彩心理学を活用する:落ち着いた雰囲気を出すなら青色、楽しい雰囲気を出すなら黄色など、商品によってどんな印象を与えたいか考えて色を選びましょう。
- 配色の法則を試す:ベースカラー70%、メインカラー25%、アクセントカラー5%にすると、バランスがよくなると言われています。Color Hunt(英語)やCoolers(英語)などの配色ツールを使うのもおすすめです。
フォント選定
- 可読性:遠くからでも読みやすいフォントサイズ・太さを選びます。
- ブランドとの調和:高級感を出すならセリフ体、親しみやすさを出すなら丸ゴシック体など、印象に合わせたフォントを選択します。
- 階層設計:商品名、キャッチコピー、説明文など、文字情報の優先度に応じてサイズや太さを変えます。
写真・イラストの活用
写真は、商品の魅力を最大限伝えるものを選定しましょう。またイラストの場合は、デザインコンセプトに合った画風のもので統一しましょう。
レイアウト・構図
重要な情報は中央や上部の見やすいところに、補足情報は下部や側面などに配置して整理します。
素材・印刷加工
- 素材:ナチュラル志向であれば再生紙、高級品にはマットコート紙など、伝えたいコンセプトを補強する素材を選びます。
- 加工の活用:箔押し、エンボス、スポットUVなどを用いることで視覚的・触覚的な印象を強められます。
- 環境対応:リサイクル素材など、環境にやさしいパッケージはブランドイメージの向上にもつながります。
8. 試作とテスト
デザイン案ができたら、完成形をいきなり量産するのではなく、まずは試作品を作って確認しましょう。試作は、デザインだけでなく、実際の使い勝手や印刷・素材の仕上がりを検証する大事なステップです。試作では次のポイントを意識しましょう。
- デザイン確認:色味・フォントサイズ・写真の解像度など、デザイン案のイメージを再現できているかチェックします。光の反射や素材の質感で印象が変わるため、実物での確認が必須です。
- 表示内容のチェック:誤字脱字や法的要件表示(成分表示・注意書き・規格マークなど)が正しく配置されているかを確認します。
- 使いやすさ・耐久性テスト:開けやすさ、閉めやすさ、丈夫さ、耐水性、耐熱性などを試します。輸送中や店頭で劣化しないかも重要なポイントです。
- 消費者・販売現場でのフィードバック:社内だけでなく、ターゲット層に近い人から率直な意見を集めましょう。友人や家族に開封体験をしてもらい、パッケージの印象や使い勝手について具体的なフィードバックを集めるのもおすすめです。
- 複数パターンの比較:色やキャッチコピーの違いによる印象の変化をA/Bテスト形式で試すのも有効です。
好印象なパッケージデザインのポイント

1. シンプル
過剰な色や文字、装飾を入れすぎると、肝心な商品名やブランドロゴが埋もれてしまいます。パッケージは数秒で印象が決まるため、一目見てどんな商品かがわかるデザインにすることが重要です。情報は必要最低限に絞り、余白を活かして視認性を高めましょう。
たとえば、Apple製品のパッケージは、真っ白な背景に端末の画像とロゴのみという非常にミニマルなデザインです。このシンプルさが、製品の高級感やブランドの一貫性を引き立て、世界中で「Appleらしさ」を確立しています。
見た目はシンプルでも、Appleは開封体験にこだわり、箱を開けるときの抵抗感や空気の抜け方まで設計しています。この細部への配慮が、ユーザーの満足度の向上や、開封動画のSNS投稿といったUGC(ユーザー生成コンテンツ)拡散にもつながり、結果的にブランド戦略の一部として機能しています。
2. 開けやすい
開封がスムーズであると、ユーザーに好印象を与えます。特にECでは、受け取ってすぐに開封できる設計が顧客満足とリピートにつながります。
たとえば、Amazon(アマゾン)では、「Frustration‑Free Packaging(フラストレーションフリーパッケージ)」という基準を設けています。「はさみやナイフなしで開けられる」「不要な緩衝材を省く」といった、一定の条件がそろうとフラストレーションフリーパッケージとして認定されることになっており、開封のしやすさが顧客体験の一環として重視されています。
3. 目立つ
店頭やオンラインショップでは、似たような商品の中から瞬時に手に取ってもらう必要があります。パッケージが視覚的に目立つと、消費者の目に留まり、手に取ってもらう確率が高まります。色や写真、質感、形状などで差別化を図ることが大切です。
たとえば、ネピアの「鼻セレブ」は、パッケージ正面いっぱいにうさぎやシロクマの顔を大きく印刷しています。動物のイメージは、ふわふわで柔らかいという商品の特性とイメージが自然に重なり、理屈抜きに好印象を与えると共に、店頭でひときわ目立つデザインとなっています。

4. 上質な素材を使っている
パッケージに使用する素材は、手に取った瞬間の印象を大きく左右します。光沢感や手触りの良さ、厚みなどは、無意識のうちに「この商品は高品質だ」という印象を与えます。特に高価格帯の商品では、パッケージ素材そのものがブランドの価値を物語る重要な要素です。
たとえば、高級ブランドであるティファニーの象徴とも言えるパッケージの「ブルーボックス」は、厚みのある上質なマット紙に独自のティファニーブルーと、白いサテンリボンとのコントラストが、手にした瞬間から特別感を感じさせるものとなっています。こうした素材選びによって、ブルーボックスは単なる包装を超え、「ブランドの象徴」として世界中に認知されています。

5. 環境に優しい
リサイクル可能な素材や過剰包装を避ける設計は、ブランド価値を高める重要な要素です。環境意識が高まる中、サステナブルなエコパッケージは消費者から選ばれる理由になります。
たとえば、亀田製菓は「ECOパッケージ化プロジェクト」を進めており、プラスチックトレーを廃止することで包装資材をスリム化するなど、環境負荷の削減に取り組んでいます。
このような取り組みは、単なるデザインの工夫にとどまらず、「地球にやさしい」というイメージを消費者に印象付けるブランディングにもつながっています。

6. 開封時の驚きや仕掛け
箱を開けた瞬間にメッセージやイラストが現れるなど、開封そのものを特別な体験に変える仕掛けは、記憶に残りやすく、SNSでのシェアや口コミの生成にもつながります。近年では、開封体験を動画や写真でSNSに投稿するユーザーも増えており、TikTokでバズる方法としても注目されています。
たとえば、ギフトボックスのふた裏にメッセージやキャラクターを印刷する仕掛けを展開している会社もあります。外観はシンプルでも、開封するとサプライズが待っており、受け取った人に喜びや驚きを与える演出になります。こうした隠れたデザインは、商品やブランドへの愛着を高め、リピート購入やギフト需要の拡大にも効果的です。梱包材や同梱物の工夫が、顧客ロイヤルティを高めることにもつながります。
まとめ
パッケージは単なる包装ではなく、オンラインビジネスにおけるブランドの顔ともいえます。だからこそ、商品の保護や輸送のしやすさといった実用面と、ひと目で心をつかむデザイン面を両立することが求められます。
商品が進化した際は、パッケージもそれに合わせて見直し、改良していきましょう。サイズや形、素材、デザインなどの要素を総合的に考え、常に工夫と改善を重ねることで、パッケージが商品の魅力を引き立て、ブランドの成長にも貢献してくれるはずです。
パッケージデザインに関するよくある質問
パッケージデザインを作るとき、一番最初にやるべきことは?
まずは商品の特徴を正確に把握することです。サイズや形、素材、壊れやすさ、温度や湿度への耐性などを明確にすることで、輸送や保管に耐えられる実用的なデザインの土台ができます。
環境に配慮したパッケージにする方法は?
環境に配慮したパッケージにする方法は、リサイクル可能な素材を使用し、過剰包装を避けた設計にすることです。再生紙や生分解性プラスチックを選ぶ、部品点数を減らすなど、小さな工夫でも環境負荷を減らせます。
パッケージデザインに画像生成AIは使える?
パッケージデザインに画像生成などのAIツールを活用することは可能です。
ただし、商用利用が可能なAIモデルやサービスを選ぶこと、そして生成されたデザインがブランド戦略やブランディングに合っているかを人間が最終確認することが不可欠です。AIの提案をたたき台として活用し、デザイナーが仕上げることで、効率と完成度を両立できます。
文:Taeko Adachi





