コスメや化粧品の市場では次々に新商品が登場します。そんな中で選ばれるブランドになるには、伝え方や見せ方を工夫した的確なマーケティング戦略が必要です。
化粧品は成分や使い心地といった機能面だけでなく、どんな体験ができるかやブランドの世界観といった点でも評価されます。SNSや口コミの影響も大きいため、コンテンツ発信やSNSマーケティングなどを組み合わせて、多方面からアプローチすることが大切です。
この記事では、コスメ・化粧品ブランドのためのマーケティング戦略を、具体的な事例とあわせて紹介します。
化粧品のマーケティングアイデア11選

1. ブランドの立ち位置を明確にする
まず取り組むべきは、自分のブランドが誰のためのブランドで、どんな存在で、競合とどう違うのか、ブランドポジショニングを明確にすることです。これはブランディングの基本であり、マーケティング施策の土台にもなります。
次の3点を考え、業界におけるブランドの立ち位置を明確にしましょう。
ターゲット層
どんな人に届けたいブランドなのか明確にイメージしましょう。
年齢や肌の悩み、ライフスタイルによって求められる商品は大きく変わります。たとえば、忙しい働く人はシンプルで続けやすいケア、敏感肌の人は成分の安心感を重視する傾向にあります。どの層に寄り添うブランドなのか考えることで、商品の見せ方も自然に定まっていきます。
ブランドが約束する価値
ブランドはロゴや名前だけではなく、「どんな悩みを解決できるか」「どんな体験を届けられるか」を言葉にすることが大切です。ブランドストーリーとともに価値提案をすることで、よりターゲットに響きやすくなるでしょう。
たとえば、日本の化粧品メーカーであるオルビスは、無油分・無香料・無着色のスキンケアを通じて、顧客の肌本来の力を引き出すという価値を約束しています。
競合
ターゲット層が近いブランドがどんなメッセージを発信し、どんな雰囲気を打ち出して、どの価格帯で販売しているか調べるなど、競合分析を行いましょう。そのうえで、高級感を打ち出すべきか、日常使いの手頃さを前面に出すべきか見極めます。
日本では、価格帯と流通場所の違いはそのままブランドの立ち位置にも直結しており、次のような区分で呼ばれています。
- プチプラ(プチプライス)コスメ:低価格帯の商品。ドラッグストアで扱われているものが多い。
- ミドルコスメ:中価格帯の商品。
- デパコス(デパートコスメ):デパートのカウンターで購入できる高価格帯の商品。
2. 魅力的な商品説明を書く
商品ページに魅力的で説得力のある商品説明を入れると、顧客の購買行動を後押しできます。以下のような点を意識してコピーラインティングしてみましょう。
商品がもたらす体験を喚起する
コスメ・化粧品の商品説明では、ただ成分や機能を並べるのではなく、「どんなシーンでどんな気分になれるのか」を描くことで、購入後のイメージが鮮明になります。
たとえばLUSH(ラッシュ)は、人気バスボム『インターギャラクティック』を、「バスルームにいながら、遥か遠くの宇宙を漂っているような気分に浸れる」と紹介し、香り・色彩・音といった五感に訴える体験を商品説明内で描いています。物語のような文章が、商品を使用したらどんな気分になるのかイメージを喚起してくれます。

成分、処方、製造方法の透明性を示す
商品に使われている成分や、製造方法について記載して、顧客に安心感を与えることも重要です。「植物由来成分配合」など、こだわりのポイントを具体的に伝えると良いでしょう。さらに「パラベン不使用」「アルコールフリー」「動物実験を行っていない」など、何を含まないか・何をしていないかを明確にすることも信頼を築くポイントです。
薬機法など広告関連法を遵守する
コスメ・化粧品の広告や商品説明では、禁止されている表現があります。特に注意して見る必要があるのは、薬機法、景品表示法、特定商取引法です。
たとえば、薬機法では、化粧品において「治す」「効果がある」といった医薬品的な表現は禁止されており、代わりに「肌にうるおいを与える」「なめらかに整える」など、体感や印象を伝える表現を使用する必要があります。
さらに、誤解を招く誇張表現は景品表示法・特定商取引法に抵触する可能性があります。日本化粧品工業会が公開している「化粧品等の適正広告ガイドライン」や業界団体の資料を参考にしながら、表現が適切かチェックしましょう。
3. 商品パッケージデザインで心をつかむ
商品パッケージの見た目そのものがマーケティングの強い武器になり、ブランドの認知やファンづくりに直結します。
2023年の調査によると、コスメ・化粧品において、見た目の印象だけで購入を決める「パケ買い」をしたことがある人は、約半数にのぼります。日本最大のコスメ・美容情報総合サイト@cosme(アットコスメ)でも「パケ買い」ランキングが組まれており、パッケージデザインがコスメや化粧品マーケティングで重要なことが伺えます。
パッケージデザインでは以下のポイントを押さえましょう。
- ブランドの世界観を表現する:高級ラインならガラス瓶や箔押しなどで洗練さを演出、ナチュラルコスメならリサイクル素材やシンプルなデザインで価値観を示すなど、世界観をそのまま形にすることが大切です。
- 使いやすさをデザインに組み込む:ポンプ式やチューブ式など、使いやすさも考慮してパッケージを決めましょう。毎日手に取る化粧品だからこそ、使いやすさがリピート購入の大きな決め手になります。
- サステナビリティを打ち出す:詰め替え用やリサイクル素材を採用したパッケージなど環境に配慮した商品は、環境意識の高い消費者から共感を得やすく、ブランドの信頼性向上にもつながります。

4. サンプル配布で不安をなくす
化粧品は「肌に合うか」「香りやテクスチャーは好みに合うか」といった点が購入前の大きな不安要素になります。そのため、サンプルを提供することは、購入のハードルを下げる非常に効果的な方法です。
以下のような方法でサンプルを配布してみましょう。
- EC購入時の同梱:購入品に別ラインのサンプルを入れ、アップセルやクロスセル、リピート購入の導線を作る。
- キャンペーンとの連動:ギブアウェイやアンケート参加特典としてサンプルを送付する。
- トライアルセットの販売:人気商品のミニサイズを低価格で提供し、本商品購入へのステップにつなげる。
- 店頭での配布:イベント、ポップアップストア、百貨店、ドラッグストアなどで配布し、初めての商品を気軽に試せるきっかけをつくる。
お得感のあるサンプル提供は、口コミやSNS投稿で拡散しやすく、ブランド認知度や信頼感を高めるきっかけになります。
たとえばPOLA(ポーラ)は、公式オンラインストアで商品を購入すると、ミニサイズのスキンケアや商品サンプルがついてくる仕組みがあります。さらに、一定金額以上を注文するとサンプルセットを自分で選べるサービスもあり、顧客が新しいアイテムを気軽に試せるよう工夫されています。高価格帯の商品が多いブランドだからこそ、サンプルを通じて安心感を与え、継続購入につなげているのです。

5. SNSを活用してブランド認知を広げる
コスメや化粧品は、写真や動画で質感や使い心地を直感的に伝えやすいため、SNSマーケティングと非常に相性の良い商材です。2025年の調査によると、Z世代の54.9%が、コスメの購入タイミングとして「SNSで話題になったとき」を挙げています。
きれいな商品写真に加え、実際に使っている様子や肌になじむ瞬間を投稿すると、リアルさが伝わって顧客の共感を得られ、購買行動につながりやすくなります。また、質問コメントへの返信などを通じて、双方向のコミュニケーションを育むことも大切です。
参加しやすいハッシュタグ施策やキャンペーンを行って、自然な拡散をねらうというのも手段のひとつです。
たとえば、デオドラントブランドのシーブリーズは、学生向けにInstagram(インスタグラム)でハッシュタグキャンペーンを実施しました。これは、クラスメイトなどと一緒にシーブリーズを使っている青春のワンシーンを撮影して、#シェアブリーズというハッシュタグをつけ投稿してもらう参加型の企画です。投稿者の中から当選した人は、イベントに招待されるということもあり、学生を中心に自然な拡散が生まれました。

さらに、オーガニック投稿に加えてSNS広告を活用するのも効果的です。特にMeta(メタ)広告は、年齢・性別・興味関心など、配信対象を細かく絞ることができるため、ブランドのターゲット層に確実に届けられます。投稿だけでは届きにくい潜在層にもリーチでき、フォロワー獲得や購入導線づくりに直結します。
6. インフルエンサーとコラボする
インフルエンサーの信頼と影響力を活用することは、コスメブランドが効果的に認知を広げるうえで非常に重要です。YouTube(ユーチューブ)やInstagram、TikTok(ティックトック)などで実際の使い心地やリアルな声を届けてもらうことで、広告以上の説得力と親近感を生み出すことができます。
単にフォロワー数が多い人を選ぶのではなく、マイクロインフルエンサーなどブランドの価値観やターゲット層と親和性の高い人をパートナーにすることが重要です。ナチュラル志向の商品なら自然派ライフスタイルを発信している人、10代向けなら等身大でメイクを紹介する人など、方向性が合う人を選ぶと効果が高まります。
たとえば、豆乳イソフラボンを利用した基礎化粧品で知られるなめらか本舗は、美容系YouTubeチャンネルの「コスメヲタちゃんねるサラ」とコラボしています。等身大の親しみやすいキャラクターと誠実なレビューで10〜30代の女性に強い信頼を得ているサラさんは、手に取りやすい価格でありつつ品質の良さに定評があるなめらか本舗のブランドにマッチしています。動画では化粧品下地の実際の使用感や肌なじみをリアルに紹介することで、ターゲット層に商品の魅力を的確に伝えています。

7. UGCを活かす
ユーザー自身が投稿する写真やレビュー、動画などのUGC(ユーザー生成コンテンツ)は、「実際に使った人のリアルな声」として受け止められるため、購買を後押しする効果があります。特にコスメは仕上がりや肌との相性が気になる商材なので、UGCの存在は信頼性を大きく高めます。
たとえば赤ちゃんとママのためのスキンケア商品を提供するALOBABY(アロベビー)は、ユーザーがInstagramに投稿した写真を自社ECサイトに掲載する仕組みを取り入れています。赤ちゃんと一緒に写ったリアルな使用シーンを商品ページに並べることで、初めてサイトを訪れる人にも安心感を与え、購入の後押しにつなげています。ブランド発信だけでは伝わりにくい実際の使用シーンをUGCから取り入れることで、自然な形で口コミマーケティングを行っています。

さらに、日本のコスメ市場で欠かせないのが、@cosmeのレビューです。@cosmeには、月間アクティブユーザー数が1760万人おり、各商品のページには購入者による星評価や肌質・年代別のレビューが多数掲載されています。多くのユーザーが購入前の判断材料にしているため、公式オンラインサイトの月間購入者数は実に17万人に上ります。
UGCを自社で集めるだけでなく、@cosmeのようなプラットフォームを通じて顧客の声を積極的に集めていくことも、信頼を高める重要な方法です。
8. ECサイトのSEOに取り組む
コスメ・化粧品は、購入前に口コミや成分、使い方を検索する人が多いジャンルであるため、継続的に新しい顧客を呼び込むためには、検索結果に自社のページが表示されるようにSEO(検索エンジン最適化)に取り組むことが欠かせません。
まずは、ユーザーの検索意図に沿ったキーワード調査を行いましょう。ラッコキーワードなどのキーワード分析ツールでユーザーが実際に検索しているキーワードを調べ、商品ページやブログ記事に自然に盛り込むようにします。
たとえば「敏感肌 化粧水」「日焼け止め 成分」など、ターゲット層が知りたい言葉がページ内に適切に配置されるようにコンテンツを作りましょう。
さらに、商品ページの設計にも工夫が必要です。使い方やよくある質問、全成分リストなどを記載すると、検索エンジンからの評価が高まるだけでなく、ユーザーに安心感も与えられます。レビューや星評価を掲載して検索結果に反映させれば、クリック率の向上にもつながります。
また、サイトスピードやモバイル対応を整えることも大切です。
9. コンテンツマーケティングを行う
単に商品を並べるだけではなく、ユーザーが知りたい情報をコンテンツとして提供することで、市場での権威性を高めて顧客との間に信頼を築き、購買行動を後押しできます。ブログ記事・コラム・動画・SNS投稿などを通じて利用者の疑問に答えることで、SEOによる流入やブランド認知の拡大につながります。
コスメ・化粧品は特に、検索されやすいテーマが多い分野で、コンテンツのアイデアには次のようなものがあります。
- 肌悩み別のケア方法(乾燥対策、エイジングケア、敏感肌ケアなど)
- 成分の解説(ヒアルロン酸、レチノール、ビタミンCなどの働き)
- 季節ごとのスキンケア
- メイク落としの正しい手順
- パーソナルカラー別おすすめアイテム
また、記事や動画のテーマを決める際には、トレンド分析を取り入れることで、いま注目されている話題をコンテンツに反映できます。
資生堂オンラインストアでは、商品を直接紹介するだけでなくファンデーションの塗り方やUVケアの基礎知識など、ユーザーの悩みに寄り添う「ビューティートピック」というページを作っています。検索されやすいテーマで作成された記事はオーガニックトラフィックの流入にもつながり、最終的に商品購入への導線を作る役割を果たしています。

10. リピーターを増やす仕組みを作る
コスメ・化粧品は、一度きりの購入ではなく、継続して使うことで効果を実感できるものが多いため、売り上げを安定させるリピーターを獲得しやすい商材です。購入後のフォローや特典など効果的なマーケティングを通じて、「また買いたい」と思ってもらう仕組みを用意しましょう。
リピーターを増やすには、次のような施策が考えられます。
- サブスクリプションプラン:買い忘れを防ぎ、安定的に商品を購入してもらう
- ロイヤルティプログラム:ポイントプログラムや購入金額に応じた特典の付与などで継続的な利用を促す
- フォローメールやLINE配信:使い方のヒントや再入荷のお知らせを届け、ブランドとの接点を維持する
リピーターを増やす仕組みを効果的に導入し、顧客との関係を長期的に育てている例としては、FANCL(ファンケル)の定期お届けサービスが挙げられます。定期お届けサービスは、基礎化粧品を割引価格・送料無料で定期的に届ける仕組みです。使用商品の変更や、配送サイクルの変更、スキップも可能なため、顧客は安心して継続的に商品を購入できます。
このような、顧客維持を意識した取り組みは、安定した売り上げにつながるだけでなく、ブランドへの信頼感を深める重要な役割を果たします。

11. 体験型イベントでファンをつくる
オンラインだけでなく、リアルな場での体験を提供することも化粧品ブランドにとって有効です。店頭イベントやポップアップショップは、実際に製品を手に取って試せるという顧客体験を提供できます。
たとえば、ヘアケアブランドYOLU(ヨル)は、夏限定の「モクテルナイトシリーズ」の発売記念にキャンペーンを実施しました。このキャンペーンは、オンラインで自分に合うモクテルを診断するコンテンツと、都内の銭湯でのオフライン体験イベントを組み合わせたもので、話題を呼びました。

まとめ
コスメ・化粧品のマーケティングは、商品の魅力を伝えるだけでなく、ブランド戦略や顧客体験の設計まで含めた総合的な取り組みが求められます。
まずは、ブランドポジショニングを明確にし、商品説明でターゲットの購買意欲を刺激しましょう。また、口コミや体験が大きく作用する化粧品のマーケティングでは、SNSやインフルエンサー、UGCを通じて実際に利用した人の声を広げたり、体験型イベントやサンプル提供で実際の使用感を確かめてもらったりすることも大切です。
さらに、SEOやコンテンツ発信で新しい顧客との接点をつくり、サブスクリプションなどでリピーターを獲得することもできます。
一度にすべてを実行するのは難しくても、自社の状況に合うものから取り入れていけば、確実に成果につながります。ぜひ今回の記事で紹介した化粧品マーケティング戦略を参考にして、競争の激しい市場でも選ばれるブランドへ成長させてください。
コスメ・化粧品のマーケティングに関するよくある質問
化粧品マーケティングの事例は?
化粧品マーケティングの事例には、魅力的な商品説明を載せているLUSH、お得感のあるサンプルを提供しているPOLA、インフルエンサーマーケティングを行っているなめらか本舗などがあります。
コラボするインフルエンサーを選ぶ基準は?
インフルエンサーとコラボするときは、フォロワー数よりも、ブランドの価値観やターゲット層と合っているかを基準に選定しましょう。ナチュラルコスメなら自然派ライフスタイルを発信する人、ティーン向けブランドなら等身大でメイクを紹介する人など、方向性が近いと共感を得やすくなります。
UGCを自社ECサイトに載せるときの注意点は?
UGCを自社ECサイトに掲載したいときは、必ず投稿者からの使用許可を得てください。権利関係をクリアにし、安心して紹介できる体制を整えることで、ブランドの信頼性も高まります。
予算が少ない小規模ブランドでも実践できるマーケティング戦略は?
まず商品説明を整えることからはじめましょう。ほかに、SNSやUGCの活用、サンプル配布などは、予算を抑えて実施できます。特にInstagram、TikTok、YouTubeなどで実際の使用感を発信すると、消費者にリアルさが伝わりやすくなります。大規模な広告よりも、身近な口コミや投稿が信頼を生むケースも多いです。
文:Taeko Adachi





