売れる商品を展開するには、消費者ニーズの調査が欠かせません。こうしたユーザーの深掘りに効果的なのが、フォーカスグループインタビューです。フォーカスグループは、アンケートなどの数値データからは得られない、意外な気づきを把握できる調査方法です。企業のマーケティング調査だけでなく、商品開発やサービス改善のための調査としても広く利用されています。
この記事では、フォーカスグループのメリットや種類から進め方まで紹介します。
フォーカスグループとは

フォーカスグループとは、特定のテーマについて複数人から意見や反応を集めることを目的とした、グループインタビューやグループディスカッション形式の調査方法です。1つのグループは一般的に6〜10名程度で構成され、性別・年齢・家族構成といった属性や、購入履歴、利用経験などの条件に基づいて参加者が選ばれます。
参加者同士は多くの場合初対面で、お互いのことをよく知らない状態から議論を始めるのが一般的です。フォーカスグループでは結論を導き出すのではなく、参加者同士のやり取りから得られる気づきや反応を観察します。
フォーカスグループで扱うテーマは、商品コンセプトの受容性、既存商品への評価、広告やパッケージの印象、顧客体験、ブランドイメージなど多岐にわたります。実施方法は会議室での対面形式が一般的ですが、近年はオンライン会議ツールを使った形も増えています。調査では、参加者の発言内容を記録・文字起こしして整理するほか、必要に応じて表情や身振りなどの非言語的な反応も参考にします。こうしたデータは数値ではなく、意見の背景や考え方を理解するための質的な情報として扱われます。
フォーカスグループの7つのメリット

1. 意見の背景にある理由を深く理解できる
フォーカスグループでは、参加者が自分の意見を他の人に説明しながら話すため、なぜそう感じるのかという理由や背景が表れやすくなります。
たとえば、ある参加者が商品パッケージに使いづらさを感じている場合、背景にある「開けにくさ」「デザインの誤解」「競合製品との比較」などの要因が発言から把握できるかもしれません。フォーカスグループでは、こうしたアンケートなどの数値中心の調査では見つけにくい情報を得られるのが特徴です。収集した情報は、改善や施策のヒントとして活用できます。
2. グループ相互作用から新しい発想が生まれる
複数人が同じ場で意見交換をすると、他の参加者の話が刺激となり、個別インタビューでは出てこない視点や体験談が飛び出すことがあります。「言われてみれば私もそう思っていた」「それなら以前こんな経験がある」と連想的に話題が広がることで、企業側が事前に想定していなかったニーズや不満が見つかる場合もあります。これは、グループ形式だからこそ得られるメリットといえるでしょう。
3. 時間と費用をかけずに多様な意見を集められる
フォーカスグループは複数人から同時に話を聞くため、同じ人数を一人ずつ取材するより、短い時間で幅広い意見を集められます。複数回の1対1インタビューを行うと、事前準備や日程調整に手間がかかりますが、フォーカスグループでは1〜2時間のセッションで効率的に情報収集が可能です。また、同様の理由により、大きな費用をかけずに実施できます。
4. 非言語情報も含めて収集できる
発言内容だけでなく、参加者の表情・声のトーン・身振りなどの非言語情報も観察できる点は、大きな強みです。言葉では肯定していても、表情が曇る、語尾が弱い、驚いたそぶりを見せるなど、言葉とは裏腹な仕草が表れる場合があります。こうした情報からは消費者の本音や迷いが読み取りやすくなり、アンケートだけでは収集できない商品やサービスに対する感情面の理解に役立ちます。
5. 調査中に質問や進行を柔軟に調整できる
フォーカスグループでは、予想外に興味深い話題が出た場合にその場で深掘りするなど、状況に合わせて進行が調整できます。アンケートのように質問が固定されているわけではないため、参加者の反応に合わせて追加で質問したり、別の視点を掘り下げたりできます。こうした臨機応変な対応により、事前の想定にはなかった新しい気づきを得られる可能性が高まります。
6. 属性ごとの違いが比較しやすい
同じテーマでも、年代・家族構成・利用頻度などによって意見が大きく異なることがあります。フォーカスグループを属性別に複数回にわたり実施することで、世代による受け止め方の違いや利用頻度による重要視するポイントの違いなど、差異を比較しやすくなります。市場調査、商品リサーチ、ターゲット設定など、施策の方向性を決めるうえで参考になる視点が得られます。
7. マーケティング・商品開発に活かせる
フォーカスグループで得られるのは、参加者による生の声です。この具体性のある言葉は説得力があり、他のターゲット層の共感を集めやすい特徴があります。ディスカッション中に参加者が使用したキーワードやフレーズを抽出し、商品説明や広告コピーに盛り込むことで、消費者に響くマーケティングが実施できるでしょう。
また、参加者の発言からユーザーの要望や不満を洗い出し、商品改善や商品開発の指針とすることで、ユーザーニーズを満たす商品展開につなげることができます。
フォーカスグループの種類

フォーカスグループにはさまざまな実施方法があり、目的や人数、実施形態などをもとに自社にとって最適な方法を選択することが重要です。ここでは、代表的な4つの実施方法に整理して紹介します。
調査目的別
- 探索型フォーカスグループ:課題や仮説がはっきりしていない段階で、利用者の感じている問題点や関心事を幅広く探るための形式です。新規企画の初期段階で使われやすい方法です。
- 分析型フォーカスグループ:あるテーマに対する理解をより深めるために、参加者の動機、感情、意思決定プロセスなどを調査する方法です。ターゲット層の精緻化に向いています。
- 体験型フォーカスグループ:実際に商品やサービスを使った経験をもとに、使用感、満足点・不満点、改善点などを調査する方法です。発売前のプロトタイプ検証や既存商品の改良を検討する際、顧客満足度調査と共によく利用されます。
人数・構成別
- 一般的なフォーカスグループ(6〜10名):最も広く行われている形式で、多様な意見とスムーズな議論が両立しやすい点が特徴です。
- ミニフォーカスグループ(4〜5名):少人数のため発言機会が増え、個々の意見をより丁寧に聞き取りたいときに適しています。特定の層を深く理解するための調査で使われます。
モデレーション(司会進行)・観察方法別
- 二方向フォーカスグループ:1つのグループが議論し、もう1つのグループがその様子を観察したうえで議論する形式です。他者の意見を聞いたうえでの感想も把握でき、複眼的な洞察を得られます。
- デュアルモデレーター型:2人のモデレーターが役割を分担し、1人が進行、もう1人が議論の整理や追加質問を担当します。議論が逸れにくくなるメリットがあります。
- クライアント参加型:依頼企業が観察者として参加する形式で、録画や報告書だけでは伝わらない現場の空気感を共有できます。議論に直接介入しないことが前提です。
- 参加者司会型:参加者の中から交代で司会役を務める形式です。自然な流れで意見が引き出されやすい一方、議論が偏るリスクもあり、テーマによって向き不向きがあります。
実施チャネル別
- 対面型フォーカスグループ:会議室や調査専用施設に参加者を集めて行う従来の形式です。非言語情報が把握しやすく、議論も活性化しやすい点が利点です。
- 電話会議型フォーカスグループ:電話会議システムを使って実施する形式で、対面が難しい層や幅広い地域の参加者を集めたい場合に便利です。ただし、表情などの非言語情報は収集しにくくなります。
- オンラインフォーカスグループ:ビデオ会議ツールや専門プラットフォームを用いる形式です。地理的制約が少なく、参加者を確保しやすい一方で、通信環境による影響を受けやすく、会話のタイミング調整が必要な場合もあります。
フォーカスグループの進め方

1. 目的とリサーチクエスチョンの整理
まず重要なのは、フォーカスグループの目的を具体的に設定することです。新商品のコンセプトをどう感じるか、広告メッセージに違和感がないか、既存サービスのどの部分に不満を抱えているのかなど、調査したいテーマを明確にします。
また、目的に合わせて、調査後のアクションや意思決定につながる質問を準備しておきます。フォーカスグループは自由度が高いため、議論が散漫になるおそれがあります。そのため、事前のリサーチクエスチョンの整理が、フォーカスグループで成果をあげるためのポイントになります。
2. 参加者の対象条件の設定
目的と質問事項を決めたら、次にどのような属性の参加者に意見を聞くべきかを明確にします。年齢・性別・家族構成などの基本属性に加え、購入頻度、利用経験、ブランドに対する親近性など、行動属性の条件を設定することが一般的です。最後に、条件を満たす人を選び出すための質問票を準備します。
3. 参加者の募集とインセンティブの設定
設定した対象条件を満たす参加者の募集は、既存顧客へのメール・電話、SNS、広告などさまざまな方法で行います。リサーチ会社に依頼してスクリーニング調査を実施すると、効率的に対象者を絞れるので、必要に応じて利用を検討しましょう。また、参加者には、負担に見合った謝礼やインセンティブを提示すると、参加者を集めやすくなります。
参加者が確定したら、日程調整や会場案内、グループ決めを行います。オンライン形式の場合は参加者がスムーズに参加できるよう、接続方法などを事前に共有します。
4. モデレーター選定とディスカッションガイド作成
フォーカスグループは、モデレーター(司会)によって議論の質が大きく変わります。経験が豊富で、中立的な態度で参加者の意見を引き出せる人をモデレーターに選びましょう。
また、モデレーターが当日スムーズに進行できるよう、ディスカッションガイドも準備しておくと安心です。ディスカッションガイドとは、質問内容や流れをまとめた当日のシナリオで、「導入→テーマ別質問→まとめ」という構造で組み立てます。まずは軽い質問からスタートし、徐々にテーマの核心を捉えるような質問へと広げていく構成を心がけましょう。質問は全体で10〜12問程度となるのが一般的です。質問は、参加者同士の意見交換が広がるように、自由回答形式を中心に設計します。
ガイドはあくまで進行を助けるものであり、当日の状況に合わせて順番を柔軟に変えたり、質問を追加したりすることも想定して作成します。
5. 会場・オンライン環境の準備
対面型の場合は、会議室の確保、座席配置、録音・録画機材の準備などを行います。参加者同士が顔を見ながら話しやすいレイアウト(円卓形式など)にすることも効果的です。オンライン形式の場合は、事前の接続テスト実施や、トラブル時の連絡手段の周知など、環境面を整備しておくことが重要です。また、録音・録画に関する同意を事前に取得しておくことで、当日スムーズに進行できます。
6. セッションの実施
セッションの最初は、簡単な自己紹介やアイスブレイクを通じて場を和ませます。参加者が安心して発言できる雰囲気をつくることが、質の高い議論につながります。また、「他人の意見を否定しない」「順番を待って話す」など、議論のルールを共有することで、発言の偏りや緊張を減らす効果があります。
有意義なセッションとなるよう、モデレーターは次のようなポイントを押さえましょう。
- 興味深い意見が出たら、質問を重ねて詳細を引き出す
- 発言内容が曖昧である場合、深掘りして背景や根拠を明確にする
- 参加者の思考が広がるよう、さまざまな角度から質問を投げかける
- 発言が特定の参加者に偏らないよう、他の人にも回答を促したり、質問の仕方を変えたりする
- 否定的な意見は中立的に受け止めるほか、自社の改善点を見いだせるよう背景や要因を探る
セッションの終盤では、主要な話題を振り返りつつ、言い残したことがないか確認し、参加者が自由に追加意見を述べられる時間を設けます。この「最後の一声」から、重要な示唆が生まれることも珍しくありません。最後に感謝を伝え、終了後の流れ(アンケート提出、謝礼受取など)を案内してセッションを締めくくります。
7. 記録・分析・レポート作成
セッション後は、録音・録画、メモを整理し、発言内容を文字起こししたうえで、テーマ別に分類します。複数グループで実施した場合は、グループ間や属性間の比較も行い、共通点・相違点・特に強く表れた意見などを抽出します。データを整理し分析することで、消費者ニーズや市場トレンドの把握につながります。
次に、分析結果をもとに今度とるべきアクションを判断しレポートに盛り込みます。たとえば、商品改善案、メッセージ設計、ターゲットの再整理など、具体的な施策に結びつけてレポートとしてまとめましょう。また、さらなるリサーチが必要であると判断した場合は、追加の定量調査やユーザーテストなど、次に実施すべき調査も明記しておくといいでしょう。フォーカスグループ実施後は、次のアクションにつながる形で整理することが重要です。
まとめ
フォーカスグループは、6〜10名ほどの参加者によるグループディスカッションを通じて、利用者の考え方や感じ方を深く理解するための定性調査手法です。属性や経験を基準に選ばれた参加者同士が対話することで、意見の背景や新たな気づきが自然に引き出されます。
調査目的の整理から参加者の選定、モデレーターの準備、当日の進行、記録・分析までの流れを丁寧に設計することで、商品開発やマーケティングの改善につながる実践的なヒントが得られます。まずはフォーカスグループを通じて何を調査したいのかを明確にし、自社の目的や予算に合わせて適切な実施方法を選ぶことが、フォーカスグループを成功に導く鍵となるでしょう。
フォーカスグループに関するよくある質問
フォーカスグループとは?
フォーカスグループは、6〜10名程度の参加者を集めて特定のテーマについて話し合ってもらうことで、消費者ニーズを把握する定性調査手法です。参加者同士のやり取りから、個別では得にくい気づきや背景情報を把握でき、商品やサービスの改善に役立ちます。
フォーカスグループの目的は?
利用者の考え方や感情、意思決定の背景を複合的に理解することが主な目的です。新商品の評価、既存サービスの改善点、広告やデザインの受け止め方などを把握し、商品開発やマーケティングの判断材料にするために行われます。
フォーカスグループのよくある活用例は?
新商品のコンセプト評価や製品テスト、既存商品の改善点の洗い出し、広告・パッケージデザインの受容性の確認などが代表的な活用例です。
フォーカスグループのプロセスは?
調査目的の整理から始まり、対象者の条件設定、参加者募集、モデレーターと質問ガイドの準備を経て、当日の議論を実施します。セッション終了後は録音・記録した内容を分析し、商品改善や施策に活かせる形でレポートにまとめるのが一連の流れです。
文:Norio Aoki





