スキマ時間ではじめられる在宅ワークや土日でできる副業など、働き方が多様化している中、自分の好きなことで起業する手段に注目が集まっています。フリー株式会社が実施した調査によると、40代以下で起業した方々の約4人に1人が、副業や趣味で行っていた職種で開業していたという結果が発表されました。
趣味を通して楽しく仕事したいと思う方は多い一方で、好きなことを趣味として継続することと、ビジネスとして成り立たせることには大きな隔たりがあるのも事実です。
この記事では、お金になる趣味で起業したい方のために、ビジネスに変えるための手順を解説します。趣味をビジネスにした起業家の成功事例も紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。
趣味で起業するための10のステップ

1. 市場調査を実施する
趣味から起業を成功させるには、市場調査を通して事前の準備をすることが重要です。市場調査から得られたデータをもとに、自分が作りたいものと、ターゲットとする顧客のニーズをすり合わせながら、現実的なアイデアとして成功の可能性を検討する必要があります。また市場内で競合優位性を確立するためには、競合となるブランドが抱える課題を分析する手法も有効です。
市場調査を行う際には、以下の項目を検討しましょう。
- 競合にないオリジナリティ:すでにターゲット市場で販売を開始しているブランドに立ち向かうには、競合分析を通してオリジナリティを見出す必要があります。
- 販売市場:その市場のパイオニアになれる環境であるのか、または競合が少なく自社ブランドが開拓できるニーズがあるのか、考えてみましょう。ニッチ市場の場合は大きな市場に比べて競合他社が少なく、参入障壁も低いことから、小規模事業者にとっても参入しやすい市場といえます。
- 市場のトレンド:参入する業界でどのようなトレンドがあるのか探ることが重要です。ビジネスは顧客がいてこそ成り立つので、Google(グーグル)トレンドなどを活用して最新の動向を把握し、需要にマッチした商品を選定する必要があります。
- 発売のタイミング:最適なタイミングで顧客に興味を持ってもらえるように、販売タイミングも検討する必要があります。例えば、マフラーやダウンジャケットは冬、サンダルや水着の場合は夏で需要が高いなど、商品によっては季節性の需要を考慮する必要があります。
2. ビジネスモデルを決定する
商品の特徴をもとに、どのようなビジネスモデルが適切かを検討しましょう。確認すべき項目は以下の通りです。
- ビジネスを行う場所や方法:販売する商品に合わせて、在宅の仕事で収まるのか、一人で運営するのか、それともビジネス・パートナーと組むのかなど、場所や方法を検討しましょう。ハンドメイドキャンドルのような小さめの商品であれば自宅で行えるかもしれませんが、大きな材料を扱う場合は保管するスペースの確保が必要です。また在庫を抱えないでビジネスを行いたい方は、サプライヤーが商品の製造、保管、出荷を代行してくれるドロップシッピングがおすすめです。
- 業務範囲:業務フローや1つの商品にかかる製作時間を考慮して、全体の業務のどの部分を外注したり、従業員を雇用して任せる必要があるのか、または全て自分で行うのかなどを検討する必要があります。他者に仕事を任せる場合は、業務委託契約なのか雇用契約なのかによって準備や就業規則が異なります。
- 販売商品:完成した形のある商品を販売するのか、それとも自身のスキルやノウハウを活かして無形商品を提供するのか、販売商品の形式によってもビジネスモデルは変わります。形のある商品であれば、在庫管理や送料・配送ポリシーを考慮する必要があります。またサービス提供の場合、提供内容の精査や免責事項の設定、会員制であればメンバー管理が必要です。
- 販売場所:オンラインで販売するのか、それとも実店舗で販売するのか、またはその両方なのかを明確にしましょう。オンラインであれば販売サイトの作成、実店舗であればテナント探しと物件の契約が必要です。
ビジネスプランを作成すると、これらの検討事項を整理できるだけではなく、開業までに必要な資金や黒字化までの道筋を明確化するのにも役立ちます。銀行などの外部から融資をしてもらう場合は、詳細に記述することで融資のための事業計画書としても活用できます。またビジネスプランの整理・検討を継続的に行なうことは、新規事業のアイデアをより洗練させることにもつながります。
3. コンセプトを確立させる
趣味を活かして起業する際には、提供する価値やメッセージを明確に伝えるためのブランドコンセプトを確立させることも欠かせません。事業理念、ブランドメッセージや創業ストーリーなどを商品・サービスに結びつけ、ブランドらしさを明確に表現しましょう。顧客に自社ブランドの魅力を感じてもらえれば、顧客との長期的な関係構築や他社との差別化につながります。
ブランディングを始めるにあたっては、人気のあるブランドを参考にして、ウェブサイト、ロゴデザイン、SNSコンテンツ、商品パッケージなどの要素を分析するのも有効です。またブランドコンセプトに一貫性を持たせるために、ブランドガイドラインを作成しましょう。一貫性のあるブランディングは、顧客や取引先との信頼構築につながります。自社ならではの特徴が顧客に伝わるように、ネットショップ内のAboutページには、物語形式で自社ブランドの価値を伝えるストーリーテリングも活用しながらブランドコンセプトを発信していきます。
4. 価格を決定する
価格を高く設定すると売れなくなり、逆に低すぎると利益が出ないため、価格設定は慎重に行う必要があります。価格を設定する際に考慮すべき経費は以下のとおりです。
- スタートアップコスト: 設備費用や、初期のマーケティング・ブランディングに必要な経費
- 直接コスト:商品の材料購入・包装・発送に必要な経費
- 間接コスト: ソフトウェアライセンス費用、オンライン販売時の手数料、マーケティングコスト、保険、その他のビジネス運営に関連する定期的な経費
見積もった経費をもとに利益率を検討し、価格を設定します。価格の決定にあたっては、原価や需要のほか、競合他社の類似商品の価格も参考になります。市場調査で価格の相場を確認できたら、利益率や利益額を考慮しながら販売価格を決定しましょう。
思うように売り上げが増加しない場合は、利益率を下げる前にまずコストを削減できないか考えてみてください。もしコスト削減が難しい場合は、ビジネスプラン自体を改善する必要があるでしょう。ビジネスプランを見直す場合は、付加価値の高い商品を同じ価格帯で販売している競合を探して比較してみてください。
5. 運営資金の調達方法を決める
基本的な機材や顧客になりうる知人がすでに整っている場合は資金ゼロで起業することもできますが、ビジネスとしてのクオリティを確保するためには、趣味で行なっていた時よりも資金が必要になることがあります。
ローンや中小企業向け助成金、クラウドファンディング、場合によっては貯蓄を取り崩して出費に対応する必要が出てくるかもしれません。また、売上が伸びていった場合には、その利益を設備のアップグレードやマーケティングに少しずつ投資し、段階的に事業を成長させていくようにしましょう。
6. 業務環境を整える
起業してビジネスになると、趣味として費やしていた時間よりもずっと長く携わるようになります。長く続けていくためには、人間工学に基づいた座りやすい椅子や疲労防止マットなどの作業環境であったり、作業しやすい物の配置などのレイアウト、換気や安全性に関する法的要件を満たす設備なども必要となります。身体を壊さない環境づくりや法令順守するための準備を整えていくことで、業務環境における突然の問題発生を避けるとともに、長期的なビジネスプランが立てやすくなります。
7. オンラインストアを開設する
提供するものが商品でもサービスでも、オンラインストアは特に重要な販売チャネルとなります。Shopify(ショッピファイ)を活用すれば、ウェブ制作の知識がない方でも簡単にオンラインストアを開設することができます。デザインテンプレートが豊富なため、自社ブランドに適したサイトデザインに仕上げて差別化を図ることも可能です。オンラインストアを立ち上げたら、SNSなどの他の販売チャネルも活用し、マルチチャネル戦略を通して販路を拡大しましょう。
適切な販売チャネルを利用すれば、マーケティング予算が少なくてもターゲット顧客にリーチすることができます。重要なのは、ターゲットとするユーザーが多い販売チャネルを利用することです。例えば、若年層を対象にしているのであれば、10代〜20代の間で高い利用率を誇るTikTok(ティックトック)やInstagram(インスタグラム)がおすすめです。
8. ブランドの立ち上げと宣伝を行う
準備が整ったら、ブランドの立ち上げと認知拡大のためにマーケティングを行いましょう。小規模事業者でもはじめることができる、効果的なマーケティング戦略は以下のとおりです。
- SNSマーケティングを行う:インスタグラムでプレゼントキャンペーンを実施する
- UGC(ユーザー生成コンテンツ)を共有する:ハッシュタグを作りSNS投稿を促す
- 口コミマーケティングを行う:レビューを商品ページで紹介する
- 動画マーケティングを活用する:実際の使用感などを動画で伝える
- コンテンツマーケティングを行う:ターゲット層が抱える疑問の解決や情報提供を行うブログを作成する
- 無料サンプルを提供する:アンケート回答者に無料サンプルを配布したりお試しサイズを無料提供したりする
- リファラルマーケティングを実施する:クーポンコードを使った紹介キャンペーンを行う
9. 仕事と私生活のメリハリをつける
職場と生活を送る場所を分けることで、仕事と私生活のメリハリをつけ、ワークライフバランスを保つことができます。これまでは生活の一部になっていた趣味の場合でも、ビジネスとして始めることで、のんびりマイペースに楽しんでばかりはいられません。
好きだったものを好きなままでいるためにも、ヘルスケアを徹底したり、仕事と生活を分けてメリハリをつけたりすることが非常に重要です。仕事着を準備して始業と終業で着替えたり、業務ルーティンやスケジュールを決めて時間通りに進めることで、うまく切り替えることができます。他にも在宅勤務を成功させるコツはたくさんあるので、初期段階で積極的に取り入れるようにしましょう。
10. ブランド規模を拡大する
売上目標などを設定しておき、次はどのように規模を拡大していくかを常に考えるようにしましょう。もしかすると趣味から起業したビジネスが人気となり、需要に応えるために働きづめになるかもしれません。そのような環境下でありがちな、顧客対応の遅れや売り切れ商品の続出などの事態は、顧客を失うリスクとなっていきます。
委託販売やアルバイト雇用などの準備は先んじて進めておくなど、常に見通しを立てながらビジネスを展開することが重要です。安定して事業を拡大させていくためにも、2年後、5年後、10年後にどのくらいの規模にしていきたいか、そのためにはどんな準備や施策が必要か、考えておく必要があります。
マルチチャネル戦略の一環として、YouTubeでのグッズ販売やSNSでのライブコマースなどを活用する方法もあります。フィットネスオンライン講座などのコンテンツビジネスでも、人気が出てきたらオリジナルグッズの販売などへ展開することができるでしょう。
趣味から起業したビジネスの成功例4選

BALMUDA

キッチン家電で知られるBALMUDA(バルミューダ)は、2003年に寺尾玄氏がノートパソコンの冷却台を販売したことから始まりました。バルミューダを起業する以前は音楽活動に専念していましたが、楽曲制作のために使っていたコンピューターやデスクチェアから、「日常の道具の大切さ」を意識するようになったことが、ものづくりの道へと進むきっかけだったそうです。
一方、自ら音楽活動をしていたからこそ、録音された音源は生演奏には絶対にかなわないと考え、オーディオ機器だけは絶対に作らないと決めていました。しかしとあるデザイナーによって提案されたオーディオに大きな感銘を受け、音・デザイン・光などを独自にデザインし、ライブステージのような空間を演出するオーディオ「BALMUDA The Speaker」を開発しました。
ヤッホーブルーイング

クラフトビールブームを巻き起こした「よなよなエール」で有名なヤッホーブルーイングは、創業者の星野佳路氏がビールと運命的な出会いをしたことから始まりました。星野氏が留学先のアメリカで何気なく飲んだエールに衝撃を受け、そこから星野氏のビールへの愛が止まらなくなります。
日本に帰国後、酒税法の改正で小規模醸造が可能になったことで転機が訪れ、1997年にヤッホーブルーイングを創業しました。そして翌年には日本最大級のクラフトビールの祭典「ジャパンビアフェスティバル」で、よなよなエールが金賞を受賞しました。
味だけではなく缶のデザインにも力を入れており、デザインを含めたチーム全体で理想のビールを追求しています。今や、コンビニやスーパーで見かけないことはない人気のブランドに成長しています。
craft×craft

オーダーメイド家具や手作り雑貨を展開するcraft×craft(クラフトクラフト)は、渡来拓郎氏の子ども時代の経験から始まりました。親からもらっていた木のりんご箱を解体して出てきた釘や端材を使って、小屋など様々なものを作っていたことが、木工への興味を深めるきっかけとなりました。
木材の特徴を活かしたデザインから実製作まで一貫して行うことで、ものを作る楽しさそのものを大切にしていることが同社の製品の魅力となっています。今では家具や雑貨といった木工製品だけにとどまらず、他社製品の商品パッケージのデザインやTシャツデザインなど、幅広いものづくりを提供しています。
FUIUCHI

ハンドメイド雑貨・アクセサリーを販売するFUIUCHI(ふいうち)の創業者は、SNSを用いて音楽やファッションで自分を表現することが好きだったといいます。そんな中、自分の趣味やセンスがどこまで通用するのかチャレンジしてみたいと思い、社会人1年目に副業としてアクセサリー作りを開始しました。
その後、モデルが商品の着用写真をInstagramに掲載したことをきっかけに事業が急成長しました。インスタ広告も効果的に活用し、Instagramのフォロワーは5.7万人(2025年9月現在)にまで増えています。現在は法人化し、ハンドメイド製品の販売を本業として活動しています。
まとめ
趣味で起業し、楽しさを感じながら仕事をすることは多くの人にとっての理想かもしれません。しかし趣味をビジネスとして成り立たせるためには、ビジネスモデルの策定やブランドコンセプトの確立、適切な価格の設定やマーケティング戦略の実施など、多くの顧客に購入してもらうための様々な施策を講じる必要があります。そして趣味を仕事にするからこそ、ワークライフバランスを意識したり、セルフケアを定期的に行ったりして自身を管理することも欠かせません。
ぜひすでに趣味で起業して成功している方々を参考にして、思い切って趣味を通してビジネスへの一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか?
趣味で起業する方法についてよくある質問
趣味で起業するための手順は?
- 市場調査を実施する
- ビジネスモデルを決定する
- コンセプトを確立させる
- 価格を決定する
- 運営資金の調達方法を決める
- 業務環境を整える
- オンラインストアを開設する
- ブランドの立ち上げと宣伝を行う
- 仕事と私生活のメリハリをつける
- ブランド規模を拡大する
起業しやすい趣味は?
- ライティング
- イラストやデザインの制作
- 写真、動画編集
- 音楽制作
- 料理、コーヒー
- ハンドメイド
- 園芸
- サイクリング
- ペットの世話
- コメディ
- ゲーム
趣味で起業するメリットは?
- モチベーションが続きやすい
- 学びや挑戦を自然に楽しめる
- 仕事に対するストレスが減る
- 自己実現できることで幸福感が高まる
趣味で起業するデメリットは?
- 趣味が嫌いなことになってしまう可能性がある
- 好きだからこそこだわりすぎてしまい、上手くいかないことがある
- 楽しく働けるという期待感が高い場合に、現実とのギャップを感じることがある
文:Ryutaro Yamauchi





